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訪問の理由

 ホッとした表情のスクッドシグの陰から、顔を出したフェレストが声をかけた。


「ようチェーブ。こちらの方がお前さんを探してたんだとよ。」

「シグさん、いったいどうしたんだよ?」


 スクッドシグは英雄と対峙したときと同じ重装備だ。鎖帷子にサーコートを纏っている。明らかに何かがあったと分かる。


「少し込み入った話だ。防音のところはあるかい?」

「ああ、それならあそこで。」


 チェーブが防音の衝立があるテーブル席を指差す。少し離れてジッとしていたタータは、明らかな面倒ごとを貴族が持ってきたことに閉口していた。関わらないで済むようにその位置からチェーブに声をかける。


「じゃあ“師匠”。俺は買い取り頼んどくから。」

「いや、お前さんも弟子なんだから聞いとこうぜ。な?勉強になるぞお。」

「チェーブ、無理強いは良くないよ。私達のことは苦手だろうしね。」

「くっ・・・。」


 1人では心細かったのか強引に巻き込もうとしたチェーブだったが、スクッドシグから諌められてしまった。恨めしそうな半目でタータを見るが、軽く手を上げて流されてしまう。そのやり取りを見ていたスクッドシグは、兜を脱いでから連れの衛兵へと向き直った。


「ランテールナ、君も少し待っていてくれ。」

「はっ。ひょっとしてお話されるのですか?平民に伝えるのは不味いのでは・・・。」

「私が防音の中で勝手にやることだ。君は待機を命じられていたから何も知らない。いいね?」

「・・・分かりました。ここで待機します。」


 これからのことの責任は自分にあって、ランテールナには一切無いという意味だ。そう言われては従うしかない。ランテールナは壁沿いへ移動し戦鎚の側に立った。


「他には言わないように頼むよ。機密事項だ。」

「ええっ?そんなこと俺に話しても大丈夫なのか?」

「うん。君は知っておいた方が良いと思う。」


 2人が衝立の中へ向かいながら話す内容を聞きつつ、タータはハーゼイの毛皮を買取カウンターへと置いた。すぐにフェレストがやってくる。


「ほんじゃ買い取り頼むな。」

「衛兵と内緒話なんて、お師匠さんは大丈夫かね?」


 パッと見は衛兵にお叱りを受けてる狩猟者にも見える。険悪な雰囲気でも無いが心配性のフェレストは不安なのだろう。何らかの異常事態が起きているのは分かっているのだ。


「ただのダチだし大丈夫だろ。ウチの師匠は交友関係が広ぇからな。」

「また衛兵と仲良くなってたのか。ほんとすごいやつだな。」

「まったくだ。今日も帰りに墓守と仲良くなってたぜ。ありゃ真似できねぇや。」


 2人共に肩をすくめてしまう。目立つ狩猟者の話はよく耳に入る。その中でもチェーブの人懐っこさはイタズラ好きと並んで、付ける薬がないとネタにされるレベルだった。


「アイツのは半ば病気だからな。見習わなくていいさ。さて、ハーゼイか。」

「膝潰して殺ってるから、値は期待してねぇけどな。」

「ん、ちょっとじっくり見させてくれ。」


 ハーゼイ(うさぎ)の場合、巨大な足を包む脚部の皮が一番価値が高い。太腿は残っているが膝下は斬り落としているため、そう高い値段はつかないだろう。フェレストがじっくりと触りながら、傷のある場所を確かめ始めた。


 一方でテーブル席へと入ったチェーブは、いきなり衝撃のニュースを聞かされていた。


「今日、ヴナトールが脱獄した。」

「なっ?!」


 チェーブは驚きのあまり固まってしまう。思っていたことを遥かに上回る想定外の知らせだった。


「君はあのときの当事者だ。気をつけておいたほうがいい。怪しい貴族がいたら逃げてくれ。それを伝えに来たんだ。」

「あ・・・ありがとう、シグさん。」


 どうやら会った直後に無事を喜んでくれたのは、そういうことだったらしい。ただの平民にわざわざ教えに来てくれたのだ。チェーブはその心遣いに温かい気持ちになる。


 だが、脱獄というのがどうにも分からない。平民の噂話でしか知らないが、監獄から脱獄が出来たという話は聞いたことがない。まして、左腕と左足を骨折してるのだ。簡単に出来るとは思えなかった。


「でも、脱獄なんて出来るもんなのか?」

「詳細は話せないんだだけど、中にいる者だけでは不可能だ。そこから出られたということは、手助けした者がいる。間違いない。」

「マジかよ、なんだってまた。」

「彼はやはり英雄なんだよ。共に戦場に立った者には特にね。」


 スクッドシグは悲しげな目でテーブルへと視線を落とす。実際に戦ったからこそ分かるが、ヴナトールは英雄と讃えられるのに相応しい強さを持っていた。伝え聞く誇張されたはずの活躍も、嘘ではないと信じられるほどに。


「まだ調査中だけど、所在がわからない騎士が何人もいるようだ。恐らくは部下だった者か、近い部隊の者。そして戦場で助けられたことがある者だろう。」

「だからって、色々罪状があるんだろ?それで助けるなんて・・・。」

「彼らは詳細を知らないんだ。今回のことは授与式の後、正式に発表予定だった。妬みから罪を捏造されたとでも思っているんだろう。」


 悲しげだが憤りを感じさせる声だった。捕まえたはずの犯罪者に逃げる機会を与えてしまったのは、上の都合のせいだ。速やかに全てを発表していれば、と思わずにはいられない。スクッドシグはチェーブと目を合わせて、心配そうに口を開く。


「騎士は恐らく大剣を持っている。目立つようなことは避けるはずだから、見つかっても何もされないとは思う。でも見かけたら逃げてくれ。もし余裕があれば、近くの衛兵に知らせて欲しい。」

「分かったよ、シグさん。わざわざありがとう。」


 チェーブの言葉にスクッドシグは頷いてから立ち上がる。急いでいるのだろう。空気を重くしないように、チェーブは軽い声で質問をした。


「今から城かい?」

「いや、街の中で捜索だよ。午後の鐘の後すぐ、城から出ていった馬車がある。城の中だけでなく街にも協力者がいるようでね。それを探してるんだ。」

「街にも?意外だな。」

「監獄には商業ギルドの職員がいたはずなんだけど、行方不明なんだよ。見習い制度を悪用して子供を売っていた人だ。」


 スクッドシグは兜を被り直した。声は先程よりも硬い。街を守ることを第一にしている衛兵として、ヴナトールよりも人身売買の主犯が脱獄したことのほうが許せないのかもしれない。


「たぶん彼の関係者が協力したんだろう。そちらは別の班がやってるから、私は馬車の担当なんだ。街の出口は騎士団が数隊で封鎖しているから時間の問題だとは思うんだけどね。」

「連日大変だなー、気をつけてくれよ?」

「ありがとう。じゃあ、またね。」


 別れの挨拶もソコソコに、スクッドシグはそのまま衝立を出る。待っていたランテールナは子供のように戦鎚を触っていた。まだ20歳そこそこの若さ故に、噂の英雄が使った武器に興味を惹かれたのだろう。その姿に思わず2人して笑ってしまい、それに気付いたランテールナが赤面しながら居住まいを正す。


 衛兵の2人は少し会話をした後、軽く手を振ってギルドを出て行った。チェーブは何か自分にも出来るんじゃないかと思いながら視線をカウンターへと移す。そこにはスクッドシグに笑顔で手を振られ、ピシリと固まってしまったタータがいた。


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