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北町経由で帰還

 北西の森林を抜けたタータとチェーブの2人は、テンプトタールの北町へ入っていた。さきほど正午の鐘が鳴ったところだ。


「腹減ったー。」

「途中で食ってくか。」


 今回はタータが毛皮を背負っている。見習いっぽくしてないと悪目立ちする、といってチェーブから奪い取ったのだ。少女の狩猟者の時点で何を今さら、とチェーブは思ったが、笑い話のネタになると思い任せていた。


 今は北町を横切る川に沿って歩いている。この辺りは水運に使えない複雑で急な流れになっているが、もう少し下れば少し穏やかな流れに変わる。その境目付近に大きめの橋がかかっている。


 流通路から離れているため、まだ店も露天も見かけない。もっと下流の人の流れがある場所に集まっているのだ。チェーブは腹をさすりながら周りを見渡した。


「この辺は屋台ねーよな。橋まで行けばあんのかなー?」

「あるぜ。橋の通りに並んでる。」

「人が通るなら屋台は出るってか。」

「そういうこったろうな。」


 タータは買わなかったが、橋へ繋がる道には屋台が並んでいたのを一昨日見ている。職人や商人が多い東や南とは違い、腹を満たすよりもつまめるものが多かった。量のある料理は墓石を作る石工向けの店に少しある程度だ。一番多いのは亡き人に捧げる花の屋台だったが。


「墓参りに来たんだっけ。タータさんそういうのキッチリしてるよな。」

「自分の名前が刻まれてたのには参ったけどな。」

「そりゃまた貴重な経験で。」

「お前は経験すんなよ?」

「だから笑い難いんだって。そのネタ。」


 いつものようにチェーブが困った顔になると、タータがニンマリとほくそ笑んだ。チェーブのリアクションが面白くて味をしめたようだ。


 川端から離れるように左にゆったりと曲がった道を出ると、ちょうど橋に繋がる道へとぶつかった。馬車がすれ違えるぐらいには広い道だ。その道へと折れてしばらく歩くと、どこかで聞いた声がタータにかかる。


「おやおや、この前のお嬢ちゃんじゃないか。その格好はまた意外だねえ。」

「おぅ、あんときの爺さんか。こう見えて狩猟者だぜ。」

「こりゃたまげた。そうは見えなかったねえ。」


 墓参りのときに出会った老人だ。今日も前つばのゆったりとした帽子をかぶり、ランタンをつけた杖をついている。今のタータは手甲足甲を付け、毛皮を背負っているから狩猟者だとわかったのだろう。


「よく言われるよ。ナリがこうだしな。」

「いやいや、雰囲気が違ったんだよ。」


 タータが手を広げて自嘲気味に言うと老人は首を振った。


「この歳になるとね。話すだけでその人の生き方が分かってくるもんなんだ。狩猟者は誰もが生き急いでる雰囲気があるんだよ。頑張ってるというか無理をしてるというか。」


 老人は顎髭を揉むように触りながら続ける。


「でもお嬢ちゃんはそうじゃなくて、余裕を持ってる人と同じ雰囲気なんだ。近いのは、隠居してゆったり過ごしてる人かな?」

「ま、長く生きてっからな。」

「あっははは、本当に面白いお嬢ちゃんだね。」

「えっと、この人は?」


 チェーブが不思議そうに2人を見ながら聞いてきた。老人とタータは顔を見合わせ、そういえば名前も知らないことに思い至る。


「そういや名前聞いてなかったな。俺はタータ、狩猟者見習いだ。」

「儂はセニン。墓守の1人だよ。」

「墓守さんか。俺はチェーブだ。この子の師匠やってる。よろしくな。」


 チェーブは笑顔で握手を求める。セニンは少しビックリした顔をした後、とても嬉しそうにその手をとった。


「ああ、よろしくね。墓守と聞いても握手してくれるのは久しぶりだよ。」

「墓守なんてただの職業だろ?人の価値を決めるもんじゃねーさ。」


 チェーブは握手をしながら、セニンの肩をパンパンと叩いた。タータはその気さくさに苦笑してしまう。いつものことながら、年齢も立場も気にせずに人と話せるチェーブの人柄には頭が下がってしまう。


「ありがとうよ。師匠もいい人だねえ。」

「セニン爺さんはここで何してたんだい?」

「今日は珍しいエウカ派のお葬式があるからね。手順や作法は知ってるけど覚え違いがないか、実際に見て確認をしておこうと思ったんだよ。」

「真面目だなー、頭が下がるよ。」

「なに、長いこと墓守をやってると、色々と聞かれるからね。他の人に教えて満足したいだけなのさ。」

「ハハハッ、お茶目な爺さんだな。」


 チェーブはまたセニンの肩をパンパンと叩く。もう旧来の知り合いのような扱いだ。セニンも悪い気はしないらしく、先程からずっと笑顔だ。


「そうだ、何か聞きたいことは無いかい?長くここで暮らしてるからね。色々と答えられると思うよ。」

「マジ?じゃあ、美味い屋台教えてくれ。腹減っちゃってさー。」


 セニンの提案に遠慮もなくチェーブが食いついた。先程まで感心していたタータも呆れ顔だ。だが、セニンは柔らかな笑顔で快く答えてくれる。


「そうかそうか。それなら橋から3軒手前の“グラターの包み焼き”ってとこがいいかな。石工向けだから量も多いよ。屋台モノじゃないが歩きながら食べられるしね。」

「おお、爺さんありがとよ!早速行ってみるぜ!」

「役に立ったんなら何よりだよ。お嬢ちゃん向けは、橋を渡ってすぐの“クラティーテ”がいいかな。爺には甘すぎるけど子供や女性には人気だよ。」

「お、甘味があるのか。」


 今度はタータが食いついた。すでにその目は楽しみで堪らないとキラキラしている。


「よっしゃ早速行こうぜ。じゃあまたなセニン爺さん。」

「またな。」

「ああ、またね。」


 2人は手を振りながらセニンと別れる。3人とも笑顔だ。セニンは久しぶりの温かい会話に、タータとチェーブは楽しみな昼飯に思いを馳せながら、楽しそうに歩いていた。


---


「なんか大通りで衛兵がバタバタしてんな。」

「ング、何かあったのかな?」


 2人はやっとギルドの近くへと来ていた。タータの都合で大通りを避けて路地裏を歩いている。さらにチェーブがそこかしこで屋台によるため、思ったよりも時間がかかってしまった。午後の1の鐘はすでになった後だ。


「またお偉いさんでも来たのかね?」

「かもなー。シグさんも大忙しだな、こりゃ。」

「しかしよく食うな、お前。」

「ごっそさん、と。最近は歩きながらでも気配探しやってるからさ。腹減って仕方ないんだ。」

「なるほどね。そりゃ確かに食いもするか。」


 チェーブが串焼きを片付けたところで、ちょうどギルドへと辿り着いた。


「やっと着いたな。」

「路地裏通ってりゃ時間かかるからなー。」

「お前の屋台巡りもあんだろが。」

「つまりお互い様ってことだな。ういーっす、帰ったぜー。」


 チェーブはギルドのドアを開けながら、受付に居るであろうフェレスとへ向け声をかける。


「よかった、無事だったか。」


 しかし受付の前には重装備をしたスクッドシグがいた。その姿を見て途端にチェーブの勘が警鐘を鳴らし始めた。


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