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英雄vs衛兵

「そのまま止まれ!動くな!」


 スクッドシグは槍を水平に構え叫んだ。ヴナトールはそれを無視し、目の前の戦鎚に左手を添えながら、不思議な言葉を呟く。


バクナ(起きろ)マウト(我が)ミン(力よ)。」


 上着の中から光が漏れ、一瞬だけ風がヴナトールから吹き出した。魔法だ。上着の下に魔道具の服か鎧を着ていたのだ。護身用の効果の低い物だとしても、魔力が強い者が使えば効果は十分に発揮される。


「マジかよ!」


 チェーブが叫ぶ。やはり嫌な予感が当たった。タータの言っていた「狂ってる」という言葉が頭によぎる。


「何をしているのか分かっているのか!?いくつ罪を重ねるつもりだ!」


 私有地や邸宅内ならまだしも、魔道具の安易な使用は禁止されている。防音の衝立のように許可を得たの物は別として、力を増す魔道具などは軍事機密に当たるものだ。おいそれと見せていいものでは無い。


 しかも、すでに門からギルドへの道中で使っているのは間違いない。それだけでも重めの罪になる。さらに、領主に保護されている狩猟者ギルドの中で発動するなど、言い訳も聞かない大重罪だ。


スタトゥン(立ち上がれ)ヨウルトゥ(鋼の)ムーン(意思よ)!」


 スクッドシグが呪文を唱えると、盾とサーコートが淡く光る。そのまま槍を構えて前に一歩踏み出そうとした瞬間、ヴナトールは背を向けたまま再び跳んだ。帽子だけがその場に残される。


 槍を避けるように、スクットシグの左側から2歩で間合いを詰め、左回転で振り返りながら戦鎚を放つ。虚を突かれたスクットシグは咄嗟に円盾を向ける。ガインッと金属の衝突音がし、スクッドシグは壁へ吹き飛ばされた。


 ギルドの壁は特別性だ。怪力の男たちが集まるこの建物は、生半可な力では壊れないように作られている。堅牢な柱を使い、芯の入った壁で囲んである。しかし、その壁にスクッドシグがめり込んだ。盾は上半分が無残に凹んでいた。


「ガハッ!」

「シグさん!ってうおっ?!」


 チェーブがそちらに気を取られた一瞬の隙に、ヴナトールはいつの間にか抜いたレイピアで突き刺してきた。狙いは首だ。


 チェーブは咄嗟に右腕の手甲でそれを跳ね上げる。軌道はわずかに逸れ、耳の下をかすめた。そのまま一歩後退するが、カウンターの中ではこれ以上下がれない。長さがあるレイピアの前では十分に射程範囲内だ。


 チェーブは戦慄していた。戦鎚をスクッドシグへ向け、レイピアを自分に向ける。その意味が察せたからだ。ただ殺すだけなら、そのままスクッドシグにレイピアで追撃を入れればいい。それをしないのは何故か。


「(こいつ、2人とも殺して俺に罪を着せるつもりだ!)」


 衛兵はギルドの職員に戦鎚で殺された。自分はその仇を撃った。かけつけた応援にはそう語るのだろう。無茶苦茶なやり方だ。少し調べればバレることなのに、それを強引に成そうとしている。


 おそらくヴナトールはあの質問の直前、視界の端で戦鎚を見つけたときに、行動は決めていたのだ。深く考える余裕は無かった、いや、元から深く考えないのかもしれない。剣を振るうことで全てを解決したと思い込んでいた狂人なのだから。


 すぐさま次の一撃が飛んでくる。標的は前に出ている左脇の奥、心臓だ。右腕でレイピアを弾いたことで無意識に左半身になってしまっていた。そこをレイピアが襲う。


「このっ!」


 今度は左腕の手甲で背中に受け流す。逸れた一撃は服の左肩を裂き、背後へ抜けた。さっきよりも軽い一撃だ。それでもタータの治療を受けて無ければ、今のは避けれなかっただろう。だが、逸れたレイピアはその軌道を変え、背後から首元を狙う。それを無理やり上半身を前に倒して避ける。体制が崩れた。


「(まずい!)」


 しかしヴナトールは一歩引きながら、今度は戦鎚を振りかぶる。ちょうどスクッドシグが起き上がろうとしていた。


「シグさん!」


 チェーブは目の前にあった物をつかみ、投げつけた。狙いは顔。人は顔に向かってくる物には、嫌でも反応してしまうからだ。投げたものは選んで手に取ったわけではないが、運良くインク壺だった。小さいため薄い陶器製だ。ヴナトールが素早くレイピアで弾くが、インク壺は割れ、顔にインクが降り注ぐ。


「クッ?!」


 戦鎚の軌道が逸れ、頑丈な床を打ち抜く。室内に轟音が響いた。


 スクッドシグはフラつきながらも立ち上がり、剣を抜いた。長い槍では室内は不利で、今使えるのは右腕だけだ。剣の方がいい。円盾で防いだものの受け流しきれず、左腕の感覚がすでにおかしい。腕の中が熱く、鼓動に合わせて痺れが広がるのが分かる。なのに痛いかどうかが分からない。折れてるのかもしれない。一級の官給品である盾を貫くその衝撃に、戦争の英雄の力を見せつけられた気がしていた。


「(1人でなんとかなるなんて甘かった!それでも守り抜かないと・・・!)」


 スクッドシグはチェーブを守るべく、カウンターの前に出る。そこにヴナトールが袖口で目元を拭いながら、無造作に戦鎚を突き出す。押し込むような動きで、受けられる程度の速さだ。しかし重量の差と先ほどのダメージで、剣で受けたスクッドシグはバランスを崩し後ろに尻もちをついた。


「フッ!」


 その瞬間、ヴナトールが踏み込んでチェーブに攻撃を仕掛ける。今度は息をもつかせぬ三連撃だ。カウンターから出ようとしていたチェーブは慌てて対応する。


 首。右腕で受け流す。そのまま横に薙いで首。後ろに反るようにしてかわす。胴。倒れ込んで避ける。そして追い込まれたことに気づき、チェーブは冷や汗が吹き出るのを感じた。


「(やべっ・・・!)」


 先の二連撃と同じく、どう避けるのかを読まれ、剣戟に誘導され、不利な体勢になってしまった。しかし今度は邪魔をしないように釘付けにするのではない。命を取りに来ている。


 ヴナトールがカウンターに飛び乗り、レイピアを向ける。狙いは胴だ。倒れたチェーブは的の大きさと場の狭さのせいで避けようがない。瞬時に手を犠牲にすることを選択し、両腕を前に出して致命傷を避けようと構えた。そこに突然、甲高い雄叫びが聞こえた。


「オラアアアアアアアアア!!!」


 タータだ。震える身体にムチを打ち、高速の飛び蹴りでヴナトールの肩を蹴飛ばした。タータがいることに気付いていなかったせいで、避ける間もなくモロにくらう。レイピアは大きく的を外れ、壁に刺さる。ヴナトールはバランスを崩し、カウンターから床へと着地した。


「どこに居た!?」

「うっせぇ!引っ込んでろ!!」


 カウンターの上で挑発するように拳を突き出し手甲を相手に向け、よく分からない言葉を叫び、タータはヴナトールを睨みつける。声もポーズもただの威嚇であり、睨むのはガンを飛ばすというやつだ。そして、絶好の攻撃のチャンスを逃した。タータは昔から、絶望的に喧嘩が下手だった。


 度を超えた巨体に怪力のタータが相手では、ほとんどの人が喧嘩を売らならなかった。大きい、ということはそれだけで抑止力がある。たまに突っかかられても、手足の長さもあって相手にならない。叩くか蹴りを入れて野太い声で一括し、萎縮したところに睨みつければもう立ち上がってこない。それがタータの知る喧嘩だ。つまり、自分の今の体型も声も忘れて、何時も通りにやってしまったのだ。


「子供めッ!」

「んがっ!?」


 ヴナトールがレイピアを持った右腕でタータを弾き飛ばす。手甲で防いだものの身体の小さいタータはカウンターを滑り、テーブル席の方へ吹き飛んだ。肘や武器を使わなかったのはタータが言っていたとおり、“英雄は女子供を殺したりしない”ということなのか。その機を逃さず、立ち上がったスクッドシグが斬りかかる。


「おおお!」

「衛兵が!」


 左太ももを浅く斬られながらも避けたヴナトールは、腕だけでなく足も使い、戦鎚を蹴り上げぶつける。再び盾で受けたスクッドシグが、たたらを踏んで壁にぶつかり膝をつく。


「シグさん!」


 ヴナトールがそのまま戦鎚を振りかぶる。スクッドシグは起きようとしているが避けられそうにない。チェーブはまだ起き上がったばかりで間に合わない。タータは立ち上がっているが、遠い。


「(間に合わない!)」


 誰もがそう思った瞬間、武器を持つ2人がピタリと止まった。振り下ろされる最中の戦鎚は、減速もせずに静止してしまった。明らかにバランスの取れていない姿勢のままヴナトールは立っている。スクッドシグも立ち上がろうと手をついた体勢のまま、不自然に固まっていた。ピクリとも動かない。そして、北方訛りの言葉が響いた。


「やんや、取り込み中が?」


 タータの横に濃緑のローブを被った人物が立っていた。


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