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32話

 7日目 午前2時45分 残り15分



「まぁ、その、なんだ。まだ地獄って決まったわけじゃないし、なんだ」


「小林さん……」


 伊藤さんと柏木さんの声が耳元で聞こえる。


 僕はそれに構わず、頭の中で閻魔様の言っていた事を思い出していた。自分でも驚く程、頭が回った。




 『諦めるな』? 諦めなければ僕の未練は解消出来る? 僕はまだ諦めて無かった。


 犯人は後藤じゃない? だとしても今から捜査して犯人を見つけるなんて不可能だ。


 『捜査』? 捜査という言葉が頭のどこかに引っかかった。もしかして、と閃いた。


 『推理』して犯人を見つけたわけじゃないから未練が解消されていない?


 しかし、容疑者が不特定多数の通り魔事件で推理なんて出来るのか? 不特定多数の中から犯人を見つけるのは警察の仕事だ。 推理っていうのは、ある程度、容疑者が絞られた中から犯人を特定する事だ。僕の求める推理はそういう推理だ。


 探偵物の小説や漫画といえば、嵐の中のコテージとか、船の中とか、密室とか、その時点である程度容疑者が絞られているのが相場だ。事件が起きた時点で、この中に犯人がいる。って状況から物語が始まるんだよ。

 ……『この中に犯人がいる』……?


『犯人はこの中にいる』……協力者の中に?




 本当か? 冥界にいるって事は、死んだって事だぞ? 犯人は何故死んだ? 事故か? 自殺か? それとも他の誰かに殺された? いや、ここは『殺人課』だと閻魔様は言っていた。事故や自殺じゃ来れないはず? じゃあ他殺?


 いや、違う。そうだ、ここは『殺人課』だ。『他殺課』じゃないんだ。『殺人課』なら犯人が含まれていたっておかしくない?


 僕の中で、『犯人はこの中にいる』説が現実味を帯びて来る。 


 そう考えれば、閻魔様の発言の辻褄が合う。閻魔様は犯人が協力者の中にいる事がわかっていた。だから、僕が初めてここに来た時には、『犯人が見つかれば未練が解消されるかもしれない』と言っていたのが昨日には、『未練は解消される』に変わっていたんだ。




 閻魔様はどこで犯人がわかった? そんなのは決まってる。面接の時の書類だ。


 そういえば、閻魔様が犯人を知っていると言った時の発言もおかしかった。『私は犯人を知っています。なのでこれ以上は手を貸さない事にしました』『この中の誰かの未練が解消されなくなるからです』そう言っていた。


 僕が原因なら、『誰かの未練』なんて言い方をする必要はない。僕の未練をみんなに公開して説得すれば良かったはずだ。他人の未練を公開しちゃいけないルールはないはずだ。、閻魔様は僕がいる前で加藤さんの未練を大声で言っていたし、柏木さんにも僕の未練の話をしていた。御崎さんにも教えたかもしれないし、金子の未練もはっきりと公開していた。


 僕の事じゃなければ、後は決まっている。犯人の事だった。これしかない。




 ちょっと待てよ? 閻魔様の発言は犯人の事だった? それってもう犯人は御崎さんで決定? だって、柏木さんと伊藤さんには未練がなくて……


 いや、伊藤さんに未練がないというのも嘘だったのかもしれない。しかし、柏木さんのアリバイはこれで証明された。柏木さんの未練がないのを知ったのは閻魔様の発言からだ。


 閻魔様が嘘を付く必要はないはず? 柏木さんが犯人で? 閻魔様に芝居を頼んだ? 柏木さんの未練の内容によっては、閻魔様は協力しなくてはいけない?


 違う。柏木さんは犯人じゃない。柏木さんは僕より先に面接を受けていた。僕の2回目の面接の前に。僕の2回目の面接の時もまだ、未練は解消される『かもしれない』だった。

柏木さんが犯人なら、2回目の面接の時にはもう、『かもしれない』は無くなっているはずだ。


 伊藤さんか、御崎さんか。怪しいのは圧倒的に御崎さんだ。




 伊藤さんに未練がないというのが嘘だとは思えない。あの時点で、伊藤さんは柏木さんに未練がない事を知らなかったはずだ。未練がない者が天国に行かず、ここに残ることが出来るなんて発想が出て来るものか? 思いついたとしても、そんな、閻魔様に確認したらすぐバレるような嘘を付くか?

 実際、僕は柏木さんの時にすぐに閻魔様に確認をした。しかし、伊藤さんのあのギャンブラー体質……ブラフがバレない方に賭けたのか?


 


 う~ん……それを差し引いてもやっぱり、御崎さんが犯人だと思うんだよなぁ。そもそも、御崎さんが最後にここに来てるわけだし。伊藤さんが犯人だった場合、伊藤さんが死んでから御崎さんを殺すトリックがあるはずだけど、そんな事する必要もないと思うんだけど……うぅん……


 行き詰る。思考力が落ちてきているのが自分でわかる。


 


 消去法は格好悪い気もするけれど、伊藤さんが嘘を付いているかどうかを確かめる方向で行くか? 伊藤さんに聞いてみるか? 駄目だろ、そんな確認方法で犯人を決めるのは流石に。伊藤さんはすぐ顔に出るとは言え、それ自体が演技だったって可能性もある。


 もっと、確定的で、時間が掛からない、簡単な方法……あった。




「伊藤さん! こっち来て!」


 思い付いた瞬間、体が動いていた。


 伊藤さんの手を強引に引っ張って、閻魔様の前に突き出す。


「閻魔様! 天国行きの門出して! 早く!」


 鬼気迫る表情で閻魔様に詰め寄る。


 僕の顔を見た閻魔様は、びっくりした顔を見せて、何かを言い掛ける。


「駄目だよ、残念だが…」


「伊藤さんが、今すぐ、急いで、天国に行くから! 早く!」


 それを聞いた閻魔様は、こちらの意図を察してくれたのか、もしくは、僕がまだ天国行きを諦めていない事に気付き、ラストスパートに付き合ってくれる気になったのか。


「わかった!」と言うと書類に何かを殴り書き、ドンッドンッドンッと3つ判子を押すと物の数秒で天国行きの扉が現れる。


 金色の額縁に、様々な黄金の装飾を施した扉を描いた絵画のような、そんな扉だった。


「伊藤さん、説明してる時間ないから、早く行って!」


 そう言って、無理やり伊藤さんを扉の前に持っていく。


「えええ、なんだよ急に~」と困惑している伊藤さんに


「行けっ!!!」

「行けっ!!!」


と僕と閻魔様の声がハモる。


「わかったよぉ……」と扉を開ける。


扉から、真っ暗な部屋に一筋の光が走る。


 扉が、開いた。


 片足だけ扉の向こうに入れてから伊藤さんが振り向く。


「えっと、これ、天国ってどっちに進めばいいんですか?」と伊藤さんが閻魔様に尋ねる。


 そんな伊藤さんの尻に僕は思いっきり、ヤクザキックを食らわす。伊藤さんの姿が光の中へ消えて行った。


「わかりました。犯人は……」と僕は指を真っ直ぐと天に向けて立てた。


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