29話
6日目 午前4時00分 残り23時間
「泣き止んだら涙を拭いて部屋へお戻り。神に見放されたと思っても諦めちゃ駄目だよ。神様なんていないんだからね」
閻魔様にそう言われて暗い部屋から送り出された僕がドアを開けて白い部屋に入ろうとすると、なにやら様子が騒がしかった。
「ちょうどいい所に帰ってきました。ところで閻魔様は何か捜査の役に立ちそうな事は言ってました?」御崎さんが部屋に入って来た僕に尋ねる。
「いえ、僕の未練について相談に乗って貰っただけで捜査の話はしませんでした。皆何してたんですか?」
テーブルの周りには柏木さんと御崎さん、それに伊藤さんの姿もあって少し驚いた。
「これ見てください。伊藤さんが見つけました。どう思います?」
テーブルにはブラウザが表示されていて、どこかの掲示板のまとめサイトが映し出されていた。タイトルは『【天才】ワイ、連続通り魔事件の次の被害者がわかる』。
「暇だっ、いや、捜査に協力してる最中にオレが見つけた」と伊藤さんが自慢げに言う。
「荒唐無稽ですけど、警察も手がかりがない中、これに沿って防犯対策を採るそうです」
内容は、連続通り魔事件の被害者に共通点を見つけたという所から始まり、被害者の特徴がそれぞれキリスト教の七つの大罪に該当するという物だった。加藤さんが憤怒、僕が怠惰、柏木さんが嫉妬、伊藤さんが強欲、御崎さんが傲慢、金子が暴食。次は色欲で風俗嬢かAV女優が狙われるという内容だった。
「どう思います?」再び御崎さんが尋ねて来る。
「柏木さんが嫉妬ってのがいまいちわからないのと、金子が連続通り魔事件の被害者に入ってるから成り立つ説じゃないですか?これ」
僕は乗り気にはなれなかった。今まで僕達や警察が必死に捜査してもわからなかった事を『ワイ』如きがわかった風な顔をしているのが気に食わなかった。
「だよな、オレも柏木さんは嫉妬じゃなくて色欲だと思う!」
柏木さんに睨まれて伊藤さんは「スミマセン反省してます」と謝る。
「金子の件なんですけど、どうしても斉藤の犯行が立証できないんですよ。それで斉藤の心の声を聞き直したんですけど、『注射器を置いて来たのは失敗だったか? いや、大丈夫だ。指紋はついてないはず』『金子、あいつは加藤さんを殺した。絶対に許せない。出来る事ならもう一度殺してやりたいくらいだ』この二つで斉藤が犯人だと決め付けてましたよね」
「はい、え? 何かおかしい所あります?」
「いえ、決め付けても仕方ないというか、あたしも未だに半信半疑なんですけど、斉藤は組の商品に手を出してたらしいんですよ。流石は加藤の弟分というか……それで、二つ目のセリフも、死んだ相手をもう一度殺してやりたいと言っていると考えるとおかしくないような気もするんですよ」
「え、でも加藤さんはたかしの犯行の証拠を……」
「それもあたし達が勝手に決め付けただけです。閻魔様は知らないと言ってました。それに、加藤ってそんな所に気が利くようなタイプですか?」
「村上は金子の殺害は身内の犯行だって……」
「金子の知人でバイクを所有していて目撃証言に合致しそうな人間を二人ピックアップしました」
「ちょっとまだ乗り気になれないんですけど」
「あたしも詳しくないんですけど、七つの大罪の起源は元は八つで、嫉妬が無くて虚飾と憂鬱っていうのがあったらしいです。加奈子さんを虚飾と考えると思い当たる節があるのでは?」
ネットアイドル……
「ただ、時間もないので七つの大罪の方に賭けてみませんか? 憂鬱というのも鬱病を患ってる人間くらいしか思い付かなくてなんか曖昧ですし」
「オレは八つに賭ける。柏木さんは虚飾のほうがピンと来る」
再び伊藤さんは柏木さんに睨まれて平謝りする。
「伊藤さんが八つに賭けるなら、僕は七つの大罪のほうに賭けてみます」
恐らく、これがラストチャンス。これに賭けるしかない。
「オイ」伊藤さんが突っ込みを入れて来る。
「伊藤さん、なんでギャンブラーの癖にラッキーセブンを避けるんですか……」
「では、ピックアップした二名はこの二名です」
そう言って御崎さんはマップを指差すとそこには二人の男女が別々の場所に映し出されていた。
「二人の説明の前に補足説明しますね。なんで犯人は金子だけ知人の中から選んだのか。まぁ、言うのも恥ずかしい暴論なんですけど見た目で判断できないからでは? と仮説を立てました。太っていても暴食とは限りませんし痩せてても暴食の人もいますから。閻魔様が言ってた金子の未練覚えてます?」
「『美食を楽しみたい』……死んでまで……」
「そうです。それに見た目で判断できないから暴食と色欲が後回しになった。とも考えられます」
「はい、まだ半信半疑だけど、完全に否定できませんし、何より時間がありません。今から情報を集めるより、これに賭けてみます」
「では容疑者二名の説明に入ります。木村麻理亜22歳。金子の知人の中でバイクを所有してる女はこいつだけでした。知人といってもスマホとパソコンのアドレス帳しか調べてませんけど。もう一人は後藤正行35歳。身長157センチとかなり低身長でロン毛なのでこいつも入れました。これが二人のプロフィールです」
そう言って御崎さんは新しいウィンドウを表示させて説明を続ける。
「木村麻理亜 22歳 女 身長160 看護師 金子が愛人に生ませた隠し子です。ですが、その、木村麻理亜自身も金子と愛人関係にあったようです。母親のアドレス帳には金子の連絡先は無く、縁が切れていたようなので、親子だと知らずに接触していた。もしくはどちらか片方だけが知っていたのかもしれません。二人のチャット履歴からは判断出来ませんでした」
「もう一人の後藤正行は35歳 身長157 肩まである金髪ロン毛が特徴で新宿のホストクラブを経営しています。遠目から見れば女に見えると思ってリストに入れました。かなり派手に女漁りをしている事で同業者の中では有名です」
「二人のアリバイは?」と尋ねる
「監視カメラはまだ調べてませんが、木村は今日から3日連続夜勤で昨日まではずっと日勤です。後藤も店が改築中で夜はフリーだった可能性が高いです」
「アリバイを調べましょう。御崎さんは犯行現場の付近のカメラにこの二人が映ってないか確認してください。僕は犯行時間のこの二人の行動を探ります。柏木さんは金子の知人から他に怪しい人物がいないか再チェックを、伊藤さんは……容疑者の動きに注意しててください。あと、いつでも現世に行ける準備を閻魔様に用意して貰ってください」
「わかりました」「はい」「まかせろ」三人が同時に返事をして各々の作業に取り掛かる。
僕も作業に入りながら、御崎さんと相談を始める。
「今日はまだ被害者出てませんよね?」
「はい、神谷の声を常に聞いてます。被害者が発見されたらすぐに神谷の元に情報が入るはずです」
「屋内で殺されてて見つかってない可能性は?」
「わかりません。屋内の場合はズームにしてから検索しないとマップで探せないので。屋外で死体が見つかった場合はアラームが鳴るように設定してあります」
「バイクを持ってない人間も容疑者に入れたほうが良くないですか?」
「はい。しかし金子はあの容姿です。プライベートで彼の自宅に訪問するような女性は木村だけでした。たまたまバイクを所有してましたがしてなくても木村はリストに入れてました」
「身長低くて痩せ型の人も入れたほうがいい? 強面の男でも、夜だと顔はわからなかったんじゃない? マスクとかしてたかもしれないし」と柏木さんが質問してくる。
「簡単に犯行時間の行動を調べてアリバイが無かったらリストに入れてください。僕が詳しく調べます」
「はーい」
迫り来る時間のプレッシャーに押しつぶされそうになりながら、僕は必死に木村と後藤の行動を調べた。頼む、こいつが犯人であってくれと願いながら。




