28話
5日目午後8時00分 残り31時間
──以上、総集編終わり。
駄目だ。3週くらい事件を最初から推理し直したけど、全然進展しそうな気がしない。唯一犯人に繋がりそうなのは御崎さんが聞いたバイクの音。けれど、今の僕にはそれが犯人のバイクだとはどうしても思えなかった。今まで完璧に防犯カメラから逃れている犯人が果たしてバイクで移動するだろうか、したとしても防犯カメラに映るだろうか。
「御崎さん、今どの辺りまで見直しました?」と確認する。
「斉藤が本当に金子を殺したのか検討中です。そちらは?」
そこまで徹底的に調べてるの? 時系列を遡って検討してるんだよね?
「ぅ……御崎さんの事件を……バイクの件を確認中です」
思わず嘘をついてしまった。なんか本当の事を言ったら怒られそうだから。
「ねぇ、金子さんを殺したのは隆君じゃないの? そんなに確かめる必要あるの?」と柏木さんが御崎さんに尋ねる。
「斉藤が金子を殺したというのもおそらくなんですよね。99パーセントそうだと思うんですけど、証拠がないんですよ」
「それってもう十分じゃないですか?」何をそんなに拘っているんだろう?
「100パーセント斉藤が犯人とわかったら、加藤の逆の事をして早々に事件を解決させてやります」
「加藤さんの逆?」柏木さんが訊く
「証拠を捏造します。万が一斉藤が犯人じゃなかった場合、それをすると現世の人間に危害を加えるに引っかかると思うので、なんとか斉藤と確信出来る何かはないものかと」
「それって現世に行った時だけのルールじゃなかったんですか?!」
必死に今まで端末を使ってルール違反をしてないか思い起こした。覗き未遂くらいか?
「ええ、他人の人生を決定的に狂わせるレベルじゃなきゃ結構緩いルールらしいですよ。だから加藤の行為もたぶんセーフでしょ。助けるためにやったとも捉えられますし。金子が生きてたらアウトでしょうけど」
「詳しいですね……」もしかしたら閻魔様より詳しいかも。
「わからない事は全て訊きましたから」
僕に必要なのはこの姿勢だと気付かされた。
「僕もわからない事は全て調べ直すつもりでもう1回洗い直してみます!」
「はい、そうしてください」──
───それから更に8時間、ぶっ続けで僕はもう一度端末を駆使しながら事件を洗い直した。
結論から言うと何もわからなかった。御崎さんの現場近辺のバイクを監視カメラの記録を元に徹底的に調べた。乗っている人物を特定して、自宅と職場付近の監視カメラの映像もチェックして、それでもほとんどの人に他の事件の時間にアリバイがあった。
アリバイが無い人も病院の目撃情報や僕と柏木さんの記憶の中の犯人と特徴が一致しなかった。犯行を目撃したかもしれない人物として探すとなると見当もつかなかった。
ふと時間を見ると午前3時だと気付いた。残り24時間。24時間という言葉が強烈に僕に襲い掛かった。
僕はポケットからスマホを出して閻魔様に電話をかける。
「どこか行くんですか?」
「いえ、ちょっと閻魔様に相談を……」
『はい』閻魔様が電話に出た。
「ちょっと、相談したいことがあるんですけど」
『あなた一人ですか?』
「はい」
『わかりました。5分待ってください』
閻魔様が電話を切ってから3分ほどでドアが現れた。
「閻魔様に相談するだけなんで、すぐ戻ると思います」と伝える。
「わかりました」「はーい」と御崎さんと柏木さんが了承した。
柏木さんは少し心配そうな顔をしていた気がする。
ドアを開け、隣の部屋に行くと何時だったかの黒いソファが用意されていたので、それに座る。いつもの席に閻魔様はいなかった。
どこへ行ったんだろう? と思っていると、閻魔様の机の横にドアが現れ、中から私服姿の閻魔様が出て来た。ちらりと見えたドアの向こうにはピンク色のベッドと勉強机、スーツが掛けられた椅子が見えた。閻魔様の私室のようだった。
「相談っていうのはなんだい?」閻魔様はそう言いながら僕の向かいにソファを出現させて座った。
「お仕事モードじゃないんですね」私服姿の理由を聞こうと思ってそう尋ねた。
「君と柏木君の前くらいならいいじゃないか。仕事とプライベートのオンオフは大事だよ」
僕との面談も仕事の内だと思うけど、言うのはやめておいた。
「相談なんですけど」
「なんだい? 気兼ねなく言ってごらん」
「僕の未練、加藤さんみたいに変わったりしませんかね」
「それは難しいね。自発的に未練を変更させるのは諦めたほうがいい。そもそも自分の未練を自覚すら出来てなかったであろう君の場合は特にね」
「じゃあ、犯人を見つける以外の方法は……」
僕がそう質問すると、閻魔様はしばらく考えてから神妙そうな表情で語りかけて来た。
「お勧め出来ないね、犯人を見つける事が君の未練を解消する一番の近道だ。良い代案は思い浮かばない」
「でも……」言葉が詰まる。続きを言葉に出したら挫けてしまいそうだった。
「君の気持ちはわかるよ。タイムリミットが迫る不安も焦燥感も泣きたい気持ちも、痛いほど良く分かる。けれど、今は犯人を探し出す事だけを考えて行動するんだ。犯人を探し出せは君の未練は解消される。ボクがさせる。絶対に努力は惜しまない」
「……」
言葉が出なかった。気付けば僕は泣いていた。声を出さずに号泣していた。不安と焦燥感に押し潰されそうで、自分が情けなくて、地獄に堕ちるのが怖くて。
閻魔様が僕の隣に座って僕の頭を優しく撫でながらこう言った。
「諦めちゃ駄目だよ。捜査に協力は出来ないけれど、ボクは君の味方だ。都合のいいように聞こえるかもしれないけれど、これだけは信じて欲しい。ボクは君の味方だよ」
何か言おうとしても言葉にならなくて、必死で泣き止もうとしても涙は止まらなくて、母親にあやされる子供のように僕は閻魔様の腕の中で泣いた。
「君は名探偵になれるよ。きっとなれる。大丈夫。大丈夫だよ」
そう言って閻魔様は僕を慰め続けてくれた。




