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23話

 4日目午後5時00分


 9人のヤクザと山崎への事情聴取は別々の部屋で一斉に行われた。


 僕達は、イヤホンを用意して5人ずつ担当を決めてその様子を窺った。山崎を含む5人を御崎さんが、それ以外を僕が受け持った。


『犯人に心当たりは』『この注射器に見覚えは』『この時間金子はどこにいた』『金子の自宅を知っている者は』『この時間何していた』


 5人の警察が一度に別々の質問をそれぞれのヤクザに投げかける。


『知らねぇ』『やってねぇ』『わかんねぇ』『聞いてねぇ』『覚えてねぇ』


 ヤクザ達は皆一様の口調で警察の取り調べに答える。


『いつまでかかるんだよこれ』『カツ丼出ねぇの?』『この婦警犯してぇ』『ガサイレまでにヤク隠さねぇと』『あー腹減った』


 心の声を聞くに、質問には素直に答えているようだった。


 警察5人とヤクザ5人、更にヤクザの心の声の合計15人の会話を聞き取るのは困難を極めた。


 あまりに声が多すぎるので、警察の心の声は途中で切って、全ての会話を別々に録音して後でもう一度確認することにした。


 取調べが始まってから30分ほど経った頃だろうか、御崎さんが僕の肩を叩いてこう言った。


「小林さん、いました。たぶんこいつです」


「え?」


「後で一緒に確認するので今はそっちに集中しててください」


 そう言われて監視作業を続行したが、僕は向こうの様子が知りたくて気が気でなかった。


 2時間もすると、ほとんどの部屋の取調べが終了した。

 僕が担当するヤクザの取調べは全て終わったが、御崎さんの方はまだ二人残っていたようなので、僕は自分の分の録音を確認しながら警察署内を見学した。


 1~2時間の取調べは3倍速にしても、5人分だと10時間くらいだから、2~3時間かぁ、4倍速以上は聞き取れないからなあ。そんな事を考えている時に、署内に神谷の姿を見つけた。


 僕は一旦、録音の再生を切って、神谷の声を再生した。これも一応録音しておく。


『金子はリビングの中央で死んでいた。争った形跡は無い。強引に侵入した形跡も無い。ほぼ間違いなく、身内の犯行だ。しかし、マンション入り口の防犯カメラに関係者は一人も映ってなかった。プライベートの身内か? わからん』


『そもそも金子殺害の犯人は連続通り魔と同一人物か? 共通点はある。注射器だ。しかし、状況が違い過ぎる。現場の印象も違う。金子の現場からは殺意を感じた。共通点……金子のマンションには防犯カメラが各階についていた。犯人はそれに映っていない』


『かなりの計画性を感じる。連続通り魔の現場には計画性は感じなかったが、監視カメラで捕まえられそうに無い。この印象だけは一致する』


 神谷は常に事件の事を考えてくれているのだろう。婦警にどこかへ案内されながらも事件を推理していた。


『ここです』婦警がそう言って、神谷を部屋へ通した。隣の部屋では村上が山崎の取調べを行っていた。


「これが神谷です。神谷の声も録音しておきます」


 僕は画面を指差しながら、御崎さんに伝える。御崎さんは無言でコクンと頷いた。


 僕は固唾を呑んで山崎の取調べの様子を窺った。


『そいつはウチの商品だな、いや、言い方が悪いな、ウチ以外でも売ってるだろうが、少なくともウチの商品リストにはコレがある』


 山崎は取調べ室でも葉巻を吸っていた。


『どこから仕入れてる? 他に何種類くらいの注射器をバラ撒いてるんだ』


『おいおい、それは今は関係ねぇだろ、この大きさの注射器はコレだけだよ。針の太さもな。今はそれで十分だろ』


 山崎はそう言って、葉巻を揉み消し、次の葉巻を用意しようとする。


『おぅ、葉巻が切れちまった。村上さん吸うよな? 煙草でいいから一本くれよ』


『俺は禁煙中だよ』


『んだよ、じゃあそこの坊主、買ってきてくれ。マルボロの赤な』


 村上の後ろで調書を記入していた若手の警官が突然の注文に驚く。村上は『買って来い』と言って若い警官にタバコを買いに行かせた。


『なんだよ、サービスいいじゃんか』


『今夜は長くなるからな、今のうちに出前の品も考えとけよ』


『ふっ。お手柔らかに頼むよ』


 そんな会話を聞いて御崎さんが提案する。


「時間がかかりそうですね、もう片方の聴取が終わる所なので、そっちの録音を二人で確認しましょう」


 そう言って、御崎さんはイヤホンを外して録音を再生させながら、画面を指差す。


「今聴取が終わって部屋から出ようとしてるこいつ、こいつの分の録音です」


 僕はその男に見覚えがあった。加藤さんの弟分の<たかし>だった。


「この人、見覚えがあります。会った事があります。加藤さんの弟分のたかし君です」


「名前は斉藤隆さいとうたかし20歳です。これを聞いてください」


 そう言って、御崎さんは『斉藤(心の声)』という音声ファイルを再生した。


『大丈夫だ。わかってないから全員連れて来られてるんだ。絶対に大丈夫だ』


 御崎さんが一時停止ボタンを押す。


「取調べが始まる前からこの調子です。この時点では他のヤクザも組からくすねた薬とか、同僚の女と寝た件の心配事とかをしてたんですけど、こいつだけは内容が不穏でした。で、この部分」


 御崎さんが音声ファイルを30分ほど飛ばして再生し始める。


『注射器を置いて来たのは失敗だったか? いや、大丈夫だ。指紋はついてないはず』


「ね? たぶんこいつが犯人です」


 たかしが金子を殺した? 何故か、信じられなかった。見た目で判断するのも間違っているだろうが、彼が殺人を犯すようには見えなかった。それだけじゃない、何か違和感のような物を感じていた。


「で、他にも面白いこと言ってます」


 御崎さんがそう言いながらまた1時間飛ばして再生し始める。


『金子、あいつは加藤さんを殺した。絶対に許せない。出来る事ならもう一度殺してやりたいくらいだ』


「すごいでしょ、こいつ完全に心の声で自白してます」


 決定的な証拠だった。たかしが金子を殺した。けれど、謎の違和感は残ったままだった。

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