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22話

 4日目 午後3時30分


 閻魔様は犯人を知っている? 僕が驚いているのを尻目に、御崎さんが質問を続ける。


「意味がわかりません。協力していただけない理由になってません」


 閻魔様は再び、少し考えてから応えた。


「この中の誰かの未練が解消されなくなるからです」


 あっ……と気付いた。ごめんなさい……僕のせいです……。


「それでは、そういう事なので、失礼させて頂きます。捜査に協力はしませんが、現世に行きたい時は声をかけてください。ちゃんと送ります」


「嘘は言っていませんね?」


「はい」そう言って閻魔様はドアの向こうへ姿を消した。





「捜査に戻りましょう」御崎さんが軽く下唇を噛んでから言った。


「ちょ、ちょ、今犯人知ってるって言ってなかった?」と伊藤さんが首を突っ込む。


 う……事情を知らせるべきかどうか……と僕が迷っていると。


「いいですよ、事情はなんとなく察しが付きます。伊藤さんには関係ない話です」


 御崎さんはそう言って僕にアイコンタクトを送ってから話し始めた。


「先ほどの閻魔様が言っていた事は事実でしょう。内容に嘘が含まれていないか確認した際閻魔様は『はい』と即答しました。あの形で確認を取って即答した以上内容は真実でしょう」


「なんでですか?」


 僕はイマイチ理解が追いつかないので尋ねてみる。


「嘘なら『犯人を見つけたい』というあたしの目的に反するからです。ここにいる者の未練を理由に犯人を教えられないのであればあたしの質問にも嘘はつけないはずです」


 丁寧で論理的な説明を受けて僕はようやく納得した。


「と、とりあえず、この被害者の身元を確認してみましょう」


「はい。警察の調べによると被害者は金子悟郎かねこごろう48歳。ヤクザでしかも幹部クラスの人間らしいですね。同業者の加藤さんこの人に見覚えありませんか?」


 しばらく間が空いた後。


「チッ……アニキだよ」と加藤さんが面倒臭そうに応えた。


 え? アニキ? あの渋い声したデブでブサイクなアニキ?


「このマンションの一室は彼の所有物らしいですが、自宅なんですか?」


「そーだよ、家族はいねぇからアニキしか住んでねぇ」


「彼の交友関係を聞かせてください。彼の自宅に頻繁に出入りする人物と殺害に到る動機を持ってそうな人物の心当たりも。ちなみにあたなもこの部屋に入った事があります?」


「うっっっッッセェェェェェェんだよ、ぺらぺらトヨォォォォォオオオ」


 加藤さんの雄叫びを浴びて僕と御崎さんが耳を押さえる。伊藤さんは椅子から転げ落ちてガクガク震えている。

 しかし、御崎さんは凄かった。真っ直ぐに加藤さんから目を見たまま、表情一つ変えていなかった。この状態の加藤さんにも動じないなんて、こんな所まで閻魔様そっくりだ。


「ッンでテメェに偉そうに指図されなきゃいけねぇんだよアァあ? ケーサツでもねぇクセによぉ、殺すぞゴルァアアアア!!!」


「そうですね謝罪します。被害者の身辺調査は警察にも出来る事でした。あたし達は別の角度から事件を捜査しましょう」


 ひぇぇ……もうちょっと正しい謝り方があるでしょうと思いつつも、加藤さんが落ち着いたのを見て、とりあえずコレでいいかと捜査の話に戻る。


「別の角度というと、注射器ですかね……」


「違います」と1秒で否定された。


「もうじき金子が所属していた組織に事情聴取が入るでしょう。色々と違法行為をしている連中の事ですからきっと黙秘するでしょうがあたし達は心の声が聞けます。もしかしたら犯人がわかるかもしれません」


「チッ」と舌打ちをして加藤さんが席を立つ。


「どこ行くんですか?」と僕は加藤さんに尋ねた。


「やってられっか。犯人がわかったら教えろ。閻魔のガキに別の部屋を用意させる」


 そう言うと加藤さんは乱暴にドアを開けて隣の部屋に行ってしまった。


「やる気のない人間は放っておきましょう。『金子殺害の件について事情聴取を受けている。或いは受ける可能性が高い人間』」


 御崎さんがそう言うとマップに、以前、加藤さんと一緒に行った新宿のビルが映った。中では警察とヤクザがそれぞれ一列になり、睨み合いになっていた。


『んだゴラ。殺すぞ。帰れ。覚悟あんのか。殺すぞ』

『抵抗すると逮捕するぞ。うるさい黙れ。大人しくしろ』


 そんな言い争いの中、それぞれの責任者だろうか、60歳くらいの二人の男が言い争いを止めて語り出した。


『村上さん、ギブアンドテイクでいこう。こちらとしても内部に犯人がいるなら、誰が金子を殺したのか知りたい。だから情報は惜しみなく提供しよう。その代わり、ガサイレは無しだ』


『付け上がるなよ、山崎。フダはさっき見せただろ。決定権はこっちにあるんだよ』


 どうやら、ヤクザの親玉とベテラン刑事が会話をしているようだ。ベテラン刑事の方は見覚えがある。


『ガサイレを強行するなら情報提供は無しだ。おたくらは今日、殺人事件の捜査で来てるんだろ? そっちを優先するのが利口だと思うがね』


 山崎と呼ばれるヤクザの親玉は、葉巻を吸いながらそう言った。


 村上と呼ばれる刑事はしばらく考え込んでから応えた。


『……ここにいる全員を今から署に連行して事情聴取を行う。ガサイレはその後だ』


『具体的には何時だ』


『午後9時』


『いいだろう、それで手を打とう。交渉成立だ』


 その後、10人程のヤクザ達が警察官に連行されていった。部屋には山崎と村上の二人だけが残っていた。


『なぁ、加藤と金子を殺したのは同じ奴か?』と山崎が村上に尋ねる。


『わからん、俺の勘は違うと言ってる』


『へぇ、そうかい。着替えてから行くからパトカーを1台外で待たせといてくれや』


『……急げよ』


 二人の会話を見届けた僕達は、端末越しで事情聴取に立ち会う事にした。もしかしたらその中から犯人がわかるかもしれない。そう思うと僕は武者震いを感じた。手の平の汗をズボンで拭い、握り締めながら僕はヤクザ達を連行するパトカーを目で追った。

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