21話
4日目 午前9時00分
『犯人はバイクで逃走した』? 神谷の見解、幽霊からの目撃情報、そして被害者本人からの犯人に繋がり得る情報。一気に捜査が進展する予感がした。
情報の詳細を確かめるために、僕は御崎さんにいくつか質問した。
「そういえば、まだ訊いてなかった。御崎さんが死んだ時の状況を教えてもらえる?」
「はい、予備校の帰りに殺されました。場所は……ここです。中目黒の目黒川沿いの歩道で時間は午前2時です。」と御崎さんは手馴れた手付きでディスプレイを使いながら説明した。
「犯人の姿は見たんですか?」
「見てたら曖昧な言い方はしません。歩きスマホをしていました。右手にスマホを持って、こう、こんな感じで、調べ物をしてました。すると突然後ろから首筋に注射器を刺されました。その後犯人は走って逃げてしばらくしてから、10メートルくらい先ですかね? バイクの音がしました。体が動かなかったので確認出来たのは音だけです」
「音だけでそれが犯人のものだと?」
「『かもしれない』ってあたし言いましたよね? 勿論犯人じゃない可能性もあります。けど見てください。この先ずっと50メートルほど一本道なんですよ。バイクの人物が犯人じゃなかった場合はその人物が犯行を目撃している可能性が高いです」
なんか、この娘、説明が下手……ではないんだけど、他人が自分と同じくらい頭が良い事を前提に話しているみたいな節があるな。あと、早口。
「じゃあとりあえず、近くでバイクに乗っていた人物をリストアップしましょうか」
「しておきました。マップでは過去の映像を検索できないようなので近くの監視カメラのデータをダウンロードして確認しましたがバイクに乗っている人物はいませんでした。監視カメラに映らずに大通りに出られるルートがいくつかあったので最も近い大通り沿いの監視カメラからの検索結果がこちらです。監視カメラのデータはこっちのフォルダにまとめてあります」
おぉ……とんでもなく優秀だこの娘……
「ただこの監視カメラに必ず映っているわけではないですし映ってる人間が誰なのか特定するのも難しいんですよ。画像から検索しても似た画像が出てくるだけですしマップと連動して画像検索が出来ればいいのに。バイクの件は警察に任せるのが得策かなって思います。こちらでは人手が足りませんし人海戦術は彼等の得意分野です」
「陽子ちゃんすっご~~~~い」そう言って柏木さんが手を叩く。
「加奈子さんの方も手を打っておきました」
へ?
「ネットで加奈子さんがネットアイドル『カナカナ』だって噂が広まってるので警察が動く前にネットカフェから動画を削除した痕跡を改竄しておきました」
「あ、ありがとう」柏木さんが顔を赤くしながらもじもじと言った。
「どうやって改竄したの?」と尋ねる。
「この端末以外に答えがあります? やり方の詳細ならあたしも知りませんよ」
「ごめんなさい」
決して怒ってるわけじゃないんだろうけど、なんか、ごめんなさい。
「ただ警察に無駄な時間を使わせたくないのでそれとなく誘導する必要があると思います」
「じゃあ、今日の捜査方針は──」
「小林さんは警察の聞き取り調査の中に嘘が含まれていないかのチェックを、加奈子さんは神谷に伝言を、あたしは今までの捜査内容を一通り全て洗い直します」
「じゃあ、そんな感じで……」
御崎さんの立案を基にそれぞれ作業に移った。加藤さんと伊藤さんに担当を割り振らない辺り、ここにいる人間の特徴も良く把握できている素晴らしい計画だと思った。
午後3時00分
僕は御崎さんの指示に従って、捜査を続けていた。柏木さんは神谷が眠りに就くのを確認して、犯人の背が低いかもしれないという事とバイクの件の伝言、ネカフェの件の言い訳をしに行った。伊藤さんと加藤さんは相変わらずカードやサイコロで遊んでいた。
「小林さん、見てください」
突然、御崎さんが大声を出す。御崎さんが指差したマップを見ると、そこにはどこかのマンションの一室に倒れている男とカメラを持った数人の警察が映し出されていた。
「6人目……」
その言葉に反応したのか、加藤さんと伊藤さんも画面を確認する。
「はい、しかも見てください。死体の横、注射器が見つかりました」
初めての証拠に繋がる痕跡……しかし、僕は何か違和感を感じた。
「けど、変じゃないですか?」と御崎さんが言う。
「何がですか?」
御崎さんも何か違和感を感じたのだろうか。
「これ被害者の自宅らしいんですよ。明らかに今までのパターンと違います」
「そうですね、僕もそこが気になりました。あと、なんで今回は注射器が残されていたんでしょう?」
「ぱっと思い付くだけで犯人のミス、警察に対する挑戦状、置いていかざるを得ない何かしらの理由があった。あるいは連続殺人事件とは別件、自殺って線もあるかもしれません」
「とりあえず、注射器から調べましょう。端末を使えば毒物が特定できるかも」
「う~ん、顕微鏡レベルで拡大出来たとしても、それで毒物が特定できるかは怪しいですね、あたし達が見てわかるものなのかっていうのもありますけどこういうのって顕微鏡じゃなくて炎症反応とかで調べるのが普通ですから」
「指紋ならどうでしょう、注射器に指紋が残っていれば指紋の持ち主がマップで検索出来るかも」
「もう一つ疑問があるんですけど……」御崎さんが眼鏡の位置を直しながら言う。
「この人、死んでから8時間以上経ってるらしいんです詳しくは解剖しないとわからないらしいんですけど警察がさっきそんな事言ってました」
「はい、それがどうかしました?」
「なんでこの人、ここに姿を現さないんでしょう?」
はっとして僕は顔を上げ、御崎さんと顔を見合わせた。確かに、死んだらすぐ閻魔様の元に送られるはずだ。別の事件? いや、別の事件だって殺人なら来てもおかしくない。自殺?
僕が考え込んでいると、御崎さんが「確認してみましょう」そう言いながら、スマホを取り出した。
「どうやって?」
「閻魔様に訊く以外に方法あります? あ、閻魔様、ちょっと来てください」
しばらくするとドアが現れ、中からスーツ姿の閻魔様が入室してきた。片手にノートと資料を抱えた秘書スタイルだった。
「用件は何でしょう? 手短にお願いします」閻魔様がその場で立ったまま尋ねる。
「この事件の被害者、冥界に来てませんか?」御崎さんがテーブルを指しながら言う。
「はい、来ましたよ」
「なぜこの部屋に来てないんですか?」
「彼は既に天国に向かいました」
「その者の未練を聞かせて貰えますか?」
「美食を楽しみたいという事でしたので、天国で楽しんで貰う事にしました」
二人の会話を聞きながら、なんかこの二人似てるなあと思った。どっちも眼鏡かけてるし、頭の良さそうな話し方だし。
「用件は以上でしょうか?」
「まだです。何故、その事をあたし達に伝えなかったのですか?」
閻魔様はしばらく考えてから、ゆっくりとこう言った。
「私は犯人を知っています。なのでこれ以上は手を貸さない事にしました」




