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20話


 神谷清子と名乗る幽霊と鈴木さんが姿を消した後、僕と柏木さんは伊藤さんがいるはずの1階トイレに向かっていた。


 スマホで伊藤さんに電話を掛けると、呼び出し音の前に伊藤さんの声が聞こえてきた。


『遅いよ、なんで電話切っちゃうの、それで? このラップ音の正体は何なの? 閻魔の嬢ちゃんにちゃんと聞いてくれた?』


「ぅ……それはまだです……用事は済んだので、今から閻魔様に報告するので、また切りますね」


 そう言って電話を切り、トイレの中に入ると、伊藤さんがいると思われる個室の前に野次馬がたむろしていた。


「すみません、失礼します。関係者です。通してください」


 そう言って10人程の幽霊の人垣を掻き分けて個室の中に入ると、伊藤さんは便座に座り、スマホを両手で掴みながら祈るようなポーズでガクガク震えながら謎の呪文を唱えていた。


「サトノテーオー、ペガサスナイト、アドマイヤリーチ、ホワイトオニキス、グレンスタッカート、ダンボライオン、ケイシィブレイブ、カナデ、ストワートマイヤー──」


「うわぁ……」と思いながら閻魔様に電話を掛けていつものように報告する。


「終わりました。転送してください」


『ぅ~ん、ちょっと待ってて』と閻魔様が眠そうな声で応える。


『ふわ~ぁ、場所はそこでいいから、伊藤の背中の奴だけ引き剥がしてくれない?』


 何の事だろう? と伊藤さんを見ると、背中に赤ん坊がしがみ付いていた。


「うわ、最初に見た赤ん坊だ」


 赤ん坊はその声に反応したのか、こちらに顔を向けてニタァ~と笑う。生え揃ってない歯を剥き出しにして笑うその顔は加藤さんそっくりだった。


「ぅ……ちょっと……これを引き剥がすのは無理そうです……」


『じゃあ、朝まで待てば消えるから、そしたらもう一度電話してくれたまえ、もう寝るけどそれでいいかい? もう起こさないでくれよ』


「はい……」そう言うと電話は切れた。


 その後、僕と柏木さんはトイレから退出して廊下に腰を下ろし、伊藤さんの提案する山手線ゲームやクイズに付き合って朝を待った。その間も4人の幽霊がトイレの中に入って行った。



 4日目 午前6時30分


 赤ん坊が消えてから1時間近くが経過していた。僕は必死に閻魔様にモーニングコールを鳴らし続けていた。


 赤ん坊が消えた時には、僕達ももうすぐしたら消えちゃうんじゃないかと不安になった。しかし、どうやらそれは大丈夫だった。そして今は清掃員が来るのではないかと焦っていた。


『すみません、今、帰還させます』


 突然スマホから閻魔様の声が聞こえた瞬間、僕達は暗い部屋に戻ってきていた。


「もぉ、遅いですよ、何してたんですか?」と開口一番、閻魔様に文句を言う。


「すみません、報告は後にしてください。私は少し仮眠を取ります」閻魔様はそう言って欠伸を噛み殺した。


 あれ? 寝てたんじゃないの? そういえば、口調も仕事モードになってるから仕事してたのかな?


 閻魔様が右手を伸ばすと、ドアが現れ、僕達は何も言わずに隣の部屋へ移った。


 部屋に入ると見覚えのない、スーツのように真っ黒な学生服姿の少女が以前閻魔様が座っていたお誕生日席に座っていた。


 柏木さんとは違うタイプの大人しそうな外見で、放課後の図書館が似合いそうなタイプだろうか。眼鏡をかけていて、ツインテール、というよりはおさげだろうか、長い髪を耳の後ろで二つに縛っている。ガリ勉タイプには見えないが、眼鏡を掛けていて、一重の眠たそうな瞳が特徴的だった。


 少女は部屋に入ってきた僕達に気付くと立ち上がり、丁寧に頭を下げ、自己紹介を始めた。


「本日より、一緒に捜査をさせていただくことになりました御崎陽子みさきようこと申します。歳は17歳、桜蔭高校3年生です。皆様のお力をお借り出来るということで、あたしも微力ながら尽力させていただきます。どうぞ、よろしくお願いいたします」


 未成年なのに、ここにいる誰よりもしっかりとした挨拶に一同、面食らう。


「柏木加奈子です」


「伊藤勝。ギャンブラーだよろしくな」


「あ、小林聡です。はじめまして。そこに座っているのが加藤さんです」


「ん」と言いながら加藤さんが軽く手を上げた。


「存じ上げております。失礼かと思いましたが、御三方がここに来るまでの間、あたしなりに少し調べさせていただきました」


 年齢の割にしっかりとし過ぎた口調の中で『あたし』という言葉が印象的だった。


「まぁ、そんなに畏まらずに……こっちが恐縮しちゃうんで……」


 駄目大人代表として僕がそう告げる。


「じゃあ、そうさせて貰いますね」と御崎さんは笑顔を見せた。


 全然笑わない、取っ付きにくいタイプかと思ったが、そんなことはないようだ。


「わぁ、よろしくネ。陽子ちゃんって呼んでいい? 私の事もカナコでいいよ」


 そう言って、柏木さんはいつも僕が座っている席に着く。


「はい、よろしくお願いします。加奈子さん」


 そんな女子同士の挨拶の通過儀礼を始めて目の当たりにして、改めて柏木さんのコミュ力に少し驚きながら、僕はいつもの柏木さんの席に、伊藤さんは自分の席に着いた。


「それで、僕達の事とか、ここの事、どのくらい知ってますか?」と御崎さんに尋ねる。


「はい、わからない事は全て閻魔様に質問したので、大体の事はわかってます。捜査状況だけ教えてください」


 なるほど、全てと断言するからには相当質問したんだろうなぁ、それで閻魔様のあの疲れ様か……


「えっと、昨日までの僕達の活動は閻魔様に聞きました?」


「はい」


「じゃあ、病院での出来事だけざっと説明しますね」


「詳細に、お願いします」


 今までの誰よりもやる気を見せる姿に感動を覚える。頭も良さそうだし、これは頼りになりそうだ。未成年を頼りにするのも情けない気がするけど。


「じゃあ、僕達が病院のトイレに着いた所から──」





──2時間ほど説明しただろうか。


 何度も質問を投げかけられた。冒頭からトイレは和式か洋式かまで質問された。閻魔様の気持ちが少しわかった気がした。


「以上が病院での出来事です。もういいですか?」


「はい、警察には伝えずにあたし達は女と仮定して捜査するという意見に賛成です」


「はい、それじゃあ次は具体的に何をするかですね」


「その前にあたしからいくつか情報を提供させてください」


「はい、なんでしょう」


「あたしを殺した犯人はバイクで逃走したと思われます」


 さらりとすごい情報が出て来た。

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