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第十八歩「ハートを射抜いて(物理)」

「ぽぽぽぽぽぽっ!?(いったぁあああいいぃっ?!)」


 身体にずぶずぶと刺さっていく矢。悲鳴が響き、鳥が木々から逃げていく。

痛い、マジで痛いというか殴られたり、喧嘩の経験すら記憶にないのに

矢とかどうなの? 痛くない? ガチで怪我な訳ですよ。

木の細く削られた棒に石で作られたヤジリに矢羽まできっちり付けられている。

って、ほんと痛いんだってマジで! 何、冷静に解説しているんだ私。


「■■ッタ! ■■! ■ル■■!」

「ハ■ッ!」


 目をぱちくりとさせつつも身体の状態を見やる。

肩、脇腹、太ももと関節を狙っているのは流石の弓の腕だ。

エルフはやっぱ弓上手いのかってああぁ!? 膝に矢が刺さっている!

『膝に矢を受けてしまった』という謎の言霊を感じるよ!?

理由とか意味がよく解かんないけど、やばくない?

凄いなんか私の無能っぷりが上がってしまう……っていかんいかん。

頭を左右に振りつつも立ち上が――って、まさに言葉通り矢継ぎ早!

危ない、手で顔を隠そうとしなかったら顔に刺さってたって!

痛い、痛いってほんと!? 腕に数本刺さり、お腹にも刺さる。


「■■ンカ! ■ン■■■■カワ■■ン■■■ノ■!」

「■■チョ■! コ■■■■ゾ! ■イツ■■■エ!」


 後ろの地面に手をつきつつも顔を守る様に頭を屈める。

身体を動かす度に食い込んだ矢が身体の動きを阻んでいく。

あれ、私ってこのまま武蔵坊弁慶な最期になっちゃうんじゃないの!?

私、前にそんなの予想してたけど、フラグか! アレが世に言うフラグなのか!

なんとか立ち上がろうとするが、大きく身体が仰け反らせられるほどの衝撃が

私の胸部へと襲う! いや、何コレ、ふっと!?


「〘ブランブル・バリスタ〙ぁあ!!!

ヒッ■♪ ■■シャ!!! ■■ウ■■! テヲ■■■■!」

「■オセ■! ■レ■■■■コシ■■モ■■ル■!」


 私は自分の胸元を見つめるとなんだか太くて大きな何かが刺さってる。

凄いこれは矢じゃないよ、むしろ槍だよ。心臓狙ってる?

私の胸に刺さったのはハートを物理的に射止めるサイズの太い矢だった。


 先ほど増援で来たのであろう若いエルフの一番真ん中に居るって、おぃ!

なんだ、アレ!? 大弓って言うかロングボウっていうか、なんだあのでかい弓!

持っている本人の身長よりでかくないか? なんか、地面から木の根が生えて

宙空に固定されている上に片足で弓本体を引っ張っているってあぶな!

私は身を翻す様に二射目の太い矢を避け――おおぅふ!?

振り返るとかなりえっぐい形で矢は近くの樹の幹へと深々と刺さっている。

幹に完璧に割れ目が入っていて今にも真っ二つになりそうな勢いだ。


 その間も増援エルフ達がタイミングを合わせていく。

最初の一斉掃射とは違い、私の動きを封じる様に関節を狙いつつも

中央に居るでかい弓を構えたエルフの……多分、女の子か? 女だよね?

リーダーらしき彼女が規格外の大弓で私をぶっ殺しに来ている。

なんだろう、この殺意の高さ。ほんとマジっすか? 私、ガチ駆除対象なの?


「ぽぽっ、ぽぽぽっ!(ヤバイ、痛いってだから!)」


【怪異スキル〘矢弾掴み〙が発現しました。Lv1に上がりました。

〘矢弾掴み〙は[カウンター]スキルの為、自動的に発動します】


「■ッ!?」

「ヤヲ■■■デ■!?」


 システムさんきたーーー!?という驚愕は何故かエルフ達も。

私はまるで振り払う様に手を薙いでいた。その手先を見てみると指の間に

矢が数本挟まっている? これは掴んだのだろうか? 《矢弾掴み》……ぇ?

つまり、えーと掴んだの? 矢を? マジで? ちょっとした曲芸じゃん!?

エルフ達もそれに驚いていたのか。まぁ、さっきまでズブズボ矢だるまに

なっていたのが急に掴んだらびっくりするのは当然か。

ぺきっと手に力を入れては矢を数本折り、ばらばらと地面へと落としていく。


「■ウ■■ダ! テ■■メ■■!」

「■イッ!」

「ぽぽぽっ!(来るっ!)」


【〘矢弾掴み〙を自動発動します】


 ふんっと鼻息荒く構え直すと……おおおぅっ!?

まるで盗み取る様に降ってくる矢を手と指が追いかける様に弾き取っていく。

アレだ、猫がなんか猫じゃらしをぺしぺし叩く様に手を動かせば

指と指の間に矢が挟まり、それを地面へとぼろぼろと落としていく。

段々とエルフ達も熱くなってくるのか歯をきしませては眉間にシワを寄せる。

そして、私も落ち着いてきたのか若いエルフ達への観察が始められる。

基本的に意気揚々と言うのは中央に居たリーダーの女エルフで

他はやや期待と緊張と熱意が入り混じっている硬い表情が見受けられる。


 後、これは迷彩的な意味なのかそれとも儀式的な意味なんだろうか?

体中にヒビが入っている様に黒い線の紋様が見受けられた。

炭か何かでやっているのだろうか? まぁ、この白い森となると

真っ白に黒線の模様は迷彩効果が高いのかもしれない。

正に討伐戦闘部隊なのかも知れないね、この若いエルフ達は。


「■ル■■■エサ■! ヤ■■■リ■■ッ!」

「コ■■ソー!!!」

「ソ■■ロ■■ン■―!」


 若いリーダーの女エルフが発破を掛けているのかエルフ部隊の士気は落ちない。

接近戦は警戒されているのだろうか? 距離を詰めてくる様子はない。

まぁ、エルフ君が腕を掴まれてぶっ倒れている訳だし、当然といえば当然かな。

集団の護衛という感じで若いエルフ達の後方で様子を見ていたエルフのご年配の方は

その様子を見て察したのか、本格的に止めに入るがリーダーちゃんは聞いていない。


「ぽぽぽっ! ぽぽっぽぽっー(くぅっ! そろそろ止めてよー)」

「■■ト■ェ■■■■ッ!」


 くぅっ、きっついな。あのリーダーちゃんの槍の様な矢は手で掴むこと叶わず

腕に深々と刺さってくる。あれだけ扱いが違うのだろうか?

それが支えという事であったのだが、徐々に部隊の勢いは落ちていく。

私としてはなんとかお話をしたいところだ。相手の矢の残りが減って来れば

若いエルフ達はリーダーちゃんへと目配せをして、指示を仰いでいく。

事態が徐々に緊迫してくる。周りの若いエルフ達の矢は止められるが

エルフのご年配の方の矢は防げるか解らない。

何より、魔法とか当てられたら多分、〘矢弾掴み〙では止められない。


 取り敢えず、エルフの年配の方の一番偉そうな人へと視線を向けてみる。

僅かに首を傾げて見せて助け舟を出してみる。通じるかな?

眉間のシワを深く刻む老人を見れば、まぁ向こうとしてもいきなり化け物から

そんなもん出されたら驚くかな? 驚くよね。うー、どうしよう。


【〘矢弾掴み〙がLevel2に上がりました。

  [カウンター]の対象可能範囲が広がりました】


「ナ■!?」

「■ル■■■サ■■ヤ■!」


 若いエルフ達の〘矢弾掴み〙で止めているとシステムさんの声が上がる。

お、レベルアップ!?と思っていた文字通り矢先。私の両手は勝手に動き

ようやく、リーダーちゃんの矢を止めることが出来た。

といっても、正に胸元に突き刺さる瞬間を両手でぐっと掴みかかる様な姿勢は

逆に今から刺すんじゃないかってギリギリ感を演出している。

掌もすりむけてというか変な摩擦を感じて痛い上に熱い。

このまま、槍っぽく扱えるんじゃないかな? リーチ長いと有利だよ。

あ、けど手が塞がると逆に矢がつかめなくなっちゃうね。

私は槍みたいな矢を軽く地面へと突き刺しつつも次の矢に構えて備える。


「■ウ■■、バッ■■!」

「ハ■!!」


 若いエルフ達の矢も少なくなってきた故かリーダーちゃんは

苛立ち混じりの視線を私へとぶつけつつも腰元の刃へと手を掛ける。

えーと、アレか。マチェットって奴だっけ? ナタのなんか洋名っぽいやつ。

なんか、登山道具コーナーであったよーな気がする。ってこわ!?

石じゃない刃物は此処に来て初めて見たよ! 

柄も汚れてるし、刃もめっちゃ使い込まれてるよ!?

ソレを高々と掲げては他の若いエルフ達も武器を手に取る。

他の若いエルフは石で出来た斧や鈍器といった感じで武装を選んでいる。

う、接近戦で袋叩きコースか!? ちょ、それはまずくない!?


「ブッ■■ル! ■ク■!」

「オ■ッ!!」

「……ッカ■■ニ■■ヤ、■ケェ!!!!」


 私が身構えを解き、これは逃げるべきかと思った次の瞬間

リーダーちゃんの身体がふっ飛ばされ近場の木へと叩きつけられる。

え? マジで? どうしたの? 内輪もめ?


「■ク■■ウ!?」

「■■イ!」


 リーダーちゃんを回し蹴りでふっ飛ばしたのはエルフのご年配の方の中で

一番年をとっていて助け舟を出していたご老人だった。ほんと、マジで?

                      第十九歩「聞きたくない第一声」

〘ブランブル・バリスタ〙[物理][植物操作]

〘セイント・シール・エルフ〙の〈スルスミ〉個人が開発した魔術と戦技の合わせ技。

といっても魔術的な要素は大変少なく、身の丈以上の大弓を宙空に茨を発生させて横向きで固定した。

この茨を発生する術は〘ブランブル・バインド〙と呼ばれる植物操作魔術であり

本来は敵対者や捕獲対象を茨で拘束する術である。


似たようなアイディアは歴史上あった可能性があるが大抵、実践的運用に耐えられない。

今作においての使用においても、彼女自身の剛力と集中力

そして、何よりも彼女と同行していた同族エルフの護衛を持ってして

初めて戦術として運用されたが戦術的には実用性はかなり低い。

おそらく、彼女とその部隊における一代限りの仕掛けとして、歴史からは消えるスキルである。

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