【1-13】 会議後――若者たち
東の隣国・シイナより侵攻の気配あり――急報に接し、ブレギアの国政会議は一時散会となった。
国政の間から退出した若君・レオン=カーヴァルは、ダーナの御館における私室に、若き補佐官衆を集めていた。
彼等は郊外の沼畔に木造家屋を拵えて生活している。長らく使用していなかった私室は、整理整頓されながらも、やや埃臭い。
「いっそのこと、我らでシイナ国の軍勢を迎撃しませんか」
「さよう、いまの御親類衆であれば、我らの東方出撃を認めることでしょう」
――それも悪くはない、が。
レオンはそう思いつつ、ブレギア国土図面をテーブルに拡げる。
【地図】ヴァナヘイム・ブレギア国境 第2部
配下の若者たちはそれに見入っていく。だが、彼等はじゃれ合うことにも余念がない。
「それにしても、ホーンスキン一族どものうろたえようときたら」
補佐官の1人であり、主君の乳母子でもあるダン=ハーヴァが促す。
補佐官一のファイターであり、お調子者でもある・ムネイ=ブリアンが得意の物真似を披露する。
「『ぬぁ、なぜどぁ……』ってな」
先ほどのブラン=ホーンスキンの動揺ぶりを再現し、ブリアンは一同を笑わせる。
【1-11】 東の大国、動く 下
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部下のモノマネについて、あまり似てないな、とレオンは思う。だが、その場を空気ごと明るくしてしまう陽気さを、ブリアンは持っている。
――可笑しいなら、素直に笑えばいいのに。
部屋の隅で背を向けている筆頭補佐官・ドーク=トゥレムを見て、若き主人は苦笑する。黒い癖毛が小刻みに揺れていた。
部下たちの間にひとしきり笑いの花が咲いたあと、レオンは初めて口を開く。
「はるか東方において、老国の軍勢を撃破したところで、いかほどのことがあろうか――」
若き主人の言葉に、若き補佐官たちは一斉に談笑をやめ、床の上に身を沈める。そして、居ずまいを正した。
「帝国だ」
レオンは国土図面に見つめたまま立ち上がると、サーベルを鞘から抜きつつ続ける。
「帝国軍を粉砕して、『フォラ=カーヴァルの後継者』たることを実力で国内外に認めさせるッ」
金髪の若者は、言葉を吐き捨てるのと同時に、逆手に持った白刃を図上に突き立てた。
旧ヴァナヘイム領の上に刺さり、振動するサーベルの柄を見つめながら、彼はさらに口を開く。
「それも、ラヴァーダなしで成し遂げることで、より一層の効果が発揮されるというものだッ」
「「「「ハッ」」」」
主人の言葉に、全員が頭を下げて一斉に応えた。
この部屋の若者たちの思考は一致していた。
名宰相・キアン=ラヴァーダの支えなしで、父王・フォラ=カーヴァル以上に、帝国相手に暴れまわる――自分たちの力を証明するにはそれしかない。
しかし、それは、皮肉なことに、ホーンスキン一派と同じ思考回路でもあった。
【1-12】 会議後――御親類衆
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敬礼する部下たちを見下ろしながら、レオンの脳裏には、1人の美青年の面影が消えなかった。
***
我が君に叱られてしまいます――。
純白の民族衣装を身にまといし彼は、光沢ある銀色の長髪を背中に流していた。
頭髪と同色の形の良い眉を下げて、戸惑い困ったような顔をしている。
***
ドアをノックする音が室内に響き、御曹司の思考は中断された。
「なんだ」
補佐官・マセイ=ユーハが扉を開けると、そこにはホーンスキン家の使いだと名乗る若者が立っていた。
「レオン様、ジャルグチ様がお呼びです。至急、ジャルグチ様の執務室までお越しください」
ジャルなんとかとは、昨今、御親類衆筆頭・ウテカが勝手に名乗り出した、この国の旧官途名だ。
「なんだとオッ」
「臣下が国主を呼び寄せるとは、何事だ」
ブリアン・トゥレムが、訪問者に鋭く詰め寄る。
大柄のファイターであるブリアンの凄みに、細身の知謀家であるトゥレムの詰め寄りだ。より一層の迫力がある。
「は、わ、わ、わ、わたしは、ジャルグチ様に、め、め、め、命じられたまででして……」
訪問者が聞きなれぬ官途名を口にするたびに、2人の眉間の皴が深くなる。
「よい。そのようなつまらぬことで騒ぎ立てるな」
レオンは、補佐官たちの肩を軽く叩くと、室外に出ていった。
【作者からのお願い】
この先も「航跡」は続いていきます。
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ブレギア家臣団が乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます。
【予 告】
次回、「結託」お楽しみに。
「……そこで、東方への援軍は、宰相に率いていただきたいと思うが、いかがかな」
ウテカは、痘痕の残る頬をゆがめ、無理やりつくったかのような笑顔で、国政の間を睨めまわした。
この提案にはたまらず、西側末席の本人は銀色の眉を動かした。




