92 エピローグ
「おかーさーん!」
「ふふ、ちゃんと見ていますよ」
王立学園を卒業した私こと、ローズマリー・グラースはグラース領の領主となり、デビットと結婚をした。
ちなみに、お父様はグラース家が持つ伯爵位に切り替えて、現在はお母様と一緒に伯爵領で暮らしている。
ま、公爵領の一部という扱いだから、別に遠くに行ってしまったというわけではないけれど。
「ほら、お母様を困らせちゃダメだぞ」
「あっ! おとうさん!」
「あら、デビット。お仕事は終わったの?」
「もちろんだよ、ローズマリー。それよりも、自分一人の体じゃないんだから、ちゃんと休んでないとダメじゃないか」
「ふふ、心配性ね。大丈夫よ。お医者様だって少しくらいは運動しないと体に悪いと言っているわ」
デビットが心配しているけれど、2回目の妊娠よ。今、目の前にいる娘も生んでいるのだから、体には十分に気を付けているわ。
それなのに、デビットは本当に心配性ね。
「おとうさん、おかあさんと遊ぶのはダメなの?」
「そうではないが……ああ、ジャックを連れてきている。ジャックに遊んでもらいなさい」
「はーい!」
デビットは護衛である騎士のジャックを指して、娘にそう言うと私の方に寄って来た。
「まったく。ジャックは貴方の護衛でしょ? 子供と遊ばせるなんて」
「ローズマリーの代わりが務められるなら本望だろう。それに、ジャックは子供が好きらしいよ」
「あら、そうなの?」
「ああ、早く結婚して自分も子供が欲しいと愚痴っていたからね」
うーん、騎士の人たちって高給だけれど休みが不定期で出会いが少ないのよね。
侍女やメイドなんかと出会いの場を作ってあげたほうがいいかしら?
「ああ、もう! また、仕事のことを考えているね! 懐妊中はローズマリーは領主の仕事はお休み! そういうのは領主代理である私が考えるから」
「ふふ、ありがとう。本当にデビットと結婚できてよかったわ」
王立学園の同級生たちと手紙のやり取りをしているけれど、領主代理であるのに仕事を放棄する夫や、逆に領主としての権限を奪おうとする夫がいるらしい。
そういった意味では、私が動けない間は領主代理として動いてくれて、平時には他の仕事を頑張ってくれているデビットは大当たりというわけだ。
「お褒めの言葉ありがとう……そういえば、ジョンから報告がきたよ。マリア夫人も懐妊したそうだ」
「あら、そうなの。グレイスからも懐妊したと報告がきたから、下の子は王立学園でグレイスの子とマリアの子と同級生になりそうね」
王立学園を卒業後、マリアはケリー様と結婚、グレイスはしばらくは独り身だったけれど、私が娘を産んだ時に騎士の1人と結婚したわ。
もちろん2人とも私の侍女を務めていてくれて、物語の作成者や挿絵の絵師としての活動も続けている。
「グレイス夫人もか。そうなるとローズマリーの侍女が足りなくなるな」
「それは大丈夫。エイミーに相談したら、子育てがひと段落着いたから侍女に復帰してくれるって」
ちなみにエイミーは王立学園に在学中に侍従だったマイケルと結婚している。現在はマイケルは執事となり、私やデビットのスケジュール管理を任せているわ。
「それは助かる。……しかし、どうしてマイケルは私に伝えなかったんだ?」
「ふふ、マイケルにはまだ伝えてないんじゃない? エイミーって昔からそういうところがあるし」
私のこととなると、簡単に無茶をするのよね。あとで、マイケルとも相談するべきかしら?
「とにかく、ローズマリーは自分の体を第一に考えること」
「ふふ、優しい旦那様ね」
「ねーねー、おかあさんもおとうさんも何してるの?」
デビットと話していると、傍に娘がやってきていた。
「あら、ジャックはどうしたの?」
「つかれたってー」
遠くを見てみると疲れ果てたのか、ジャックが芝生の上に大の字で倒れこんでいる。やっぱり、子供の体力ってすごいわよね。
「情けないな。……どれ、助けてくるか」
「あたしもいくー!」
デビットにつられたのか、娘も一緒にジャックの傍へと向かっていく。そんな姿を私は幸せな気分で見つめる。
未だにこの世界が物語の中なのか、それとも地球とは違うただの異世界なのかはわからない。
もちろん、私が何かの物語の主人公なのか、それとも単なるモブなのかも。
それでも、私は自分が幸せになるために努力をし続けてきたし、これからも私とデビット、それに子供たちが幸せになるために努力し続けるだろう。
異世界転生はした……でも、私が誰かはわからない。うん! それでいいじゃない! 私は私よ!




