第16章 行かないで
大声で叫んだら、かえって錆気が濃くなった。
金属片がどんどん増えていく。飛ぶにもスタミナ、避けるにもスタミナが必要だ。
少しでもスタミナを節約しようと何枚かはよく避けなかった——そのうちの一枚が、運悪く俺の耳を切り裂いた。
HPはたった20しか減らなかったけど、綿毛が散って、その耳は動かなくなった。
【しまった。】
空中から落ちていく。耳が初めて「何か足りない」と感じる。針で刺されたような感覚だ。
その落下が、俺を一つの記憶へと引きずり込んだ。
「あの金属はどうやって動いているんだ? 魔女の仕業に違いない。」
「彼女は魔女の仲間かもしれない——」
「試してみよう。」
切り口。
メス。
錆気が切り口から噴き出した。血じゃない。
密閉された部屋。視界は錆気で塞がっている。
「やっぱり魔女だ!」
「生きた金属を操っているのはあいつだ!」
杭。
そこに縛り付けられている。誰よりも高い位置に。
鉄の枠が顎を締め付ける。言葉を発せない。
風が強い。
彼らは前に押し出した。
落下。
底がない。
【……】
——
戻ってきた。もう落ちていない。
誰かが抱き止めていた。コロティアだ。体中に金属片が刺さり、穴が開いている。
「コロティア……」
【……お前。】
「あなた……全部見たのね?」
手話だった。とても遅い。
「わたしは……危険なの……あの人たちを傷つけた……」
「だから……早く行って……この魔女から……離れて……」
「ちょっと待って、俺は——」
蹄鉄が勝手に飛び出した。俺を引きずって崖の上へ飛んでいく。止まらない。
【ちょっと——!】
崖の端に着いたとき、世界はもう崩壊し始めていた。
バッグに何かが追加されていた。
【—システム通知:名無しの遺燼を獲得しました。—】
対岸の美しい景色も砕けてしまった。教会に戻るしかない。
———
「朔、大丈夫か?」
「私は大丈夫ですよ、リリィ。ごめんなさい、心配かけました。」
優しい朔が戻ってきた。やっぱりな。
「リリィは一人でコロティア様と向き合ったのですか?」
「うん。この世界のルールが朔に影響しすぎてて、あなたは篝火のそばにも来られないんだね。」
「私の失態です。あの矛盾を……うまく処理できなかった。」
「いいんだよ。影響を背負いながら私たちを守ってくれて、もう大変だっただろう。」
「リリィの耳……それを悲しんでいるのですか?」
「違うよ。たぶんいつだってそうなるんだ。好きな人が死ぬのを見るのは、心が痛む。」
「好きな人?」
【しまった、口が滑った。】
「つまり……友達としての好きな。他意はないよ。」
「わかりますよ……」
「……え?」
「リリィは彼女たちをとても大切に思っているみたいですね。コーラとシエルのことも、あなたは手助けしようとしている。」
「うん、だってあいつらのことを……」
「友達。」朔が引き継いだ。「ええ、友達です。だからリリィはコロティア様を救うために、また自害する決断をしたのですね?」
「うん。頼むよ。」
「私が背を向けます。」
また火の中へ足を踏み入れた。
【耳が欠けてるせいか、前回よりも火が……熱い気がする?】
また行くぞ、コロティア。
お前は俺を振りほどけない。
———
輪廻をリセットした。アップグレードしていなかった布地の中で、左腕だけが粗悪な状態に戻っていた。
【服が無事でよかった。布地は次のマップで補えばいい。】
縫合剤で耳の穴を塞いだ。
「行ってくる、朔。」
「うん。待っています。」
護馬甲に乗って、また崖の端へ。
これを返しに行かないと。
谷底へ飛び降りた。
【—システム提示:(任意)行かないで—】
蹄鉄の音を頼りに、すぐに彼女を見つけた。
「なぜ……あなたは……いつも戻ってくるの……」
手話で尋ねる。
「蹄鉄を返すよ。あの時助けてくれたのはお前だろ?」
「馬たちの苦しみが……私には辛くて……地面に倒れているあなたを見たの……」
手話はとても遅い。
破片をかわしながら、錆気をかき分けて、逃げる彼女を追いかける。
「この手紙、大切な人が残してくれたんだろ? それも返す。」
「箱に閉じ込めたのは……そうやって……あなたを送り出したかった……」
「まさか……自分で出てくるとは……」
「私は……あなたを教会へ送った……」
「なのにあなたは……蹄鉄で……また来た……」
彼女は泣いていた。
目尻が光る。
「手紙は……父の……私はとても父に会いたい……でも父は私のせいで……わざと防衛線を守らなかったと濡れ衣を着せられた……」
「手紙はずっと送られなかった。でもこれが証拠——父は最後まで守り抜いた。」
「あの記憶も。お前は鉄枠で話せなかったのに、彼らは手話も覚えようとしなかった——」
「俺が代わりに叫んでやる!」
「コロティアはみんなを救った英雄だ! このバカども! 手話を覚えて、彼女の言うことを理解しろよ!」
彼女は突然振り返った。
瞳孔が開く。涙が止まらなかった。
俺は飛んでいき、彼女を抱きしめた。
【名無しの遺燼】が彼女の頭上に漂う。
蹄鉄、手紙、そして記憶の光点が、周囲の錆気を全て吸い取った。
彼女は笑った。涙がまだ頬に残ったまま。
【—システム通知:コロティアの遺燼を獲得しました。—】




