第12章 砕けた記憶
聖殿を出ると、【名無しの遺燼】はやっぱり自動的にバッグに入った。
【ううう……なんでフラグがあんなことしたんだよ? 俺の大剣、俺しか使えないはずじゃなかったのか? ちょっと背を向けただけなのに……】
外の世界はもう変わり始めていた。
【ダメだ、この輪廻まだ終わらせられない。まだフラグを救ってない。】
【俺にできるのは、自害だけだ。】
【そうすれば、システムが報酬をもらってないと判断して、もう一回ボス戦をやらせてくれる。】
【でも、今持ってるもの全部を維持するには、教会の篝火のそばで自害しないとダメなんだ。】
「リリィ、正しい決断をしてくれて嬉しいわ。ちょっとこっちに来てくれる?」
教会に戻ると、朔が青い蛍のそばに立って、何か考えながら俺を見ていた。急いで駆け寄る。
次の瞬間、彼女は俺の後ろ首をつかんで持ち上げて、目線の高さを合わせた。
「朔?」
ちょっと驚いて声をかける。この動作は大きな猫が子猫をくわえるみたいに優しいのに、彼女の目を見ると、なんだか変だ。
「言ったでしょ、お出かけするときは教えてって。でもあなたは教えなかった。」
この顔、明らかに怒ってる——俺は戻ってきて何も言わずにまた行っちゃったんだ。
「ご、ごめん、朔。俺、フラグ……様の技にやっと慣れてきたところで、手応えを覚えてるうちにすぐにでももう一回戦いたくて……」
【言えば言うほど後ろめたいな。これじゃ説明になってない。】
「でも、私の話を聞いてから行くべきでしょ? そうしないと、私のこと無視してるのかなって思っちゃうよ……」
【無視? 朔がそんな風に思うことあるのか? 俺が自分の守護者を無視するわけないだろ!】
「次からはしない……いや、もう二度としない。安心して、朔、無視したりしないから。」
「約束してね、リリィ。」
「うんうんうん。」
何度も頷いて見せたら、ようやく降ろしてくれた。
「そうだ朔、呼んだのは何の話?」
「この炎の光には、とても強い執念が込められてるの。なぜここに現れたのかはわからないけど、あなたがそれを感じ取れたのなら、もしかしたらセレス様に関係があるかもしれない。」
【セレスと関係がある?……朔の言う通りなら、青い蛍はセレスの執念ってことか?】
【じゃあ彼女の執念も、みんなを救うことなのか?……でもごめん、セレス、まだやってないんだ。】
「それに従って、何か見つけたの?」
朔が俺の頭を撫でる。落ち込んでるのを察したみたいだ。
「ああ、あったよ。晶核の欠片ってやつ。」
バッグから欠片を取り出す。
「見せてくれる?」
朔が受け取る。欠片は彼女の手の中で温かい炎に包まれた——燃やしてるんじゃなくて、感じ取ってる。
「誰かの記憶が収められてるみたいね。あともう一つ足りない。」
「うん。」
「悲しまないで、リリィ。最後のやつは、もしかしたらもう現れてるかもしれない。」
「現れてるの?」
「世界の輪廻がまだ完了してないうちに、破晶聖殿に戻って見てごらん。」
「ありがとう、朔!」
急いで篝火で転送した。
「それは彼女の意志であり、あなたの……」
転送中、朔がそんなことを言った気がする。
【彼女の言う通りだ。セレスがみんなを救いたいと思うのは、俺も同じ。だって彼女は俺で、俺は彼女だから。】
【青い蛍が聖殿に着いたら消えたってことは、最後の欠片は絶対ここにあるはずだ。】
案の定、フラグが自爆した地面に大きな割れ目ができていた。彼女が最初に立っていた場所だ。
最後の晶核の欠片がそこで光っていた。急いで烁殻虫に体当たりさせて砕石をどかし、欠片を拾ってすぐに教会に転送した——さもないと、この地面はすぐに消えてしまう。
転送中に、最後の記憶を見た——
画面はボロボロに砕けてた。まるで鏡が割れて無理やり貼り合わせたみたいに。
一対の目。
人間の目じゃない。
金色の縦瞳。深淵みたいに冷たい。
その目の前に、一本の手がかざされてた。小さくて、震えてる。
「あなた……私と一緒に砕けなさいよ!」
フラグの声だ。今よりずっと若い。怒りと憎しみ、そしてかすかな震えを帯びてる。
破片が飛び散る。水晶じゃない。血だ。
一枚の顔。フラグの顔——若くて、ひび割れのない顔。彼女は歯を食いしばり、両手を竜の額に押し当ててた。ひび割れは彼女の指先から広がっていく。
そして、フラッシュバック。もっと細かいフラッシュバック。
ぼやけた顔の数々。老人、子供、笑っている少女、眉をひそめる男。
竜の影に少しずつ飲み込まれていく。雪が溶けるように。
最後の顔が、フラグの前で止まった。
一人の子供。ツインテールで、手に飴玉を握りしめてる。
画面が一瞬止まった。
その飴玉が地面に落ちた。
砕けた。
フラグの手が竜の額から滑り落ちた。ひび割れが彼女の腕全体に広がってる。彼女はうつむき、唇が動いてる。
声はない。でも俺は口の動きを読んだ。
「……ごめんね。」
記憶が途切れた。何かに乱暴に遮断されたみたいに、余韻すら残ってなかった。
気づいたときには、教会の篝火の前に立ってた。
手の中の晶核の欠片は、凍えるほど冷たかった。




