高高度核爆発/終戦
日本が進化したように米国もまた進化していました。それは人工衛星抜きの防空ネットワークシステムです。大陸防空司令部が全米をカバーしていました(正史では1947年)。
第二次世界大戦中の米国本土の防衛軍は次の4つに分けられる。
①北東航空地区
②北西航空地区
③南東航空地区
④南西航空地区
これを統括するのが大陸空軍(CAF)であり航空防衛軍団(ADC)である。
日本の大攻勢に対応して急遽二段階の新編成となった。
もはやどの沿岸都市に日本軍が上陸してもおかしくはない。
米軍は総力を上げて防衛ラインの構築を急いだ。
総構築費600万ドルの電話線ネットワークシステムである。
411のレーダー基地と18のコントロールセンターを繋ぐ鉄壁の守りだ。
コロラド州コロラドスプリングズにある国立メソジスト療養所。
1926年創立の4階建ての療養所の地下20mにあるCONAD。
将来NORAD(北米航空宇宙防衛司令部)と呼ばれる組織の前身である。
その予定地はコロラド州エルパソ郡のシャイアン山中の予定だ。
CONADには東太平洋防空を担当する早期警戒ラインがある。
衛星防御システムは衛星がないので未構築だ。
そのため発見は北米大陸に接近してからとなる。
その高高度早期警戒ラインに超高速物体が映った。
監視員A「超高速物体はマッハ23で大気圏に突入!」
監視員B「目標は北米大陸各都市のもよう!」
監視員C「到達は5分後!」
マッハ23は時速28400kmに達する。
追撃も迎撃も出来ない速度だった。
誰もが緊張した面持ちで口をきかなかった。
恐れていた事が遂に現実になったからだ。
独軍が進めていた液体燃料ロケット技術。
日本の糸川博士の固体補助ロケット技術。
トランジスタを利用した高度集積回路技術。
そして先日の核爆弾の炸裂事件。
これらが集積して造られるのはたった一つしかない。
大陸間弾道弾(InterContinental Ballistic Missile)だ。
日本本土から9900km離れた北米大陸を狙ってくる。
実際は根室のロケット基地から発射されたICBMだ。
トランジスタによる慣性誘導装置で北米都市を狙う。
自立誘導なので電波妨害などは無意味だった。
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かつてルーズベルト米大統領はこう言った。
<戦争ではどんな方法でも勝てば正義、負ければ悪だ>
そして、米国はそれを身を以て知る事になろうとしていた。
到達予定都市は次の通り。
「ボストン、フィラデルフィア、トレントン、ワシントンD.C.」
「デトロイト、ピッツバーグ、シアトル、ポートランド」
「シャーロット、デンバー、セントルイス」
わざと北米最大都市ニューヨークを外している。
難民が逃げ込んで大混乱になるのを狙っていた。
各都市に空襲警報が発令された。
CONADには大統領権限を越えた裁量が与えられている。
米国国家非常事態に対する緊急放送権限だ。
「家に居て下さい、目を覆い物陰に隠れて下さい!」
「次の放送があるまで外出は厳しく罰せられます」
各都市日民はその意味を知り、パニックに陥った。
これは<超爆弾>の時に発せられるメッセージなのだ。
だれも超爆弾がどんなモノかは知らない。
だが避難訓練ではこう教わったのだ。
指導員「誰もどんなモノかは知らない」
指導員「だが空気は燃え上がり毒に犯される」
指導員「それが世界の終わりならそうなるのだ」
世界が燃え尽きる日!
それがとうとうやって来たのだ!
抗う事の出来ないモノで、唯一の対策は「無為無策」。
それで冷静を保てたほうがどうかしている。
人々は家を飛び出し逃げ惑った。
当てもなく自動車を走らせ交通事故が続発した。
そして5分後、高高度で閃光が起こった。
高高度核爆発である。
凄まじい閃光は数キロ先からでも見る事が出来た。
そしてワシントンD.C.の新ホワイトハウスは大混乱だった。
その上空でも閃光が炸裂し、直視した者は目をやられた。
電力が失われ、全地域で停電が起こった。
大統領は新ホワイトハウス地下執務室にいて安全だ。
どこにも逃げられない分、最も安全な場所である。
ルーズベルト「核爆弾だと!どこがやられた!」
リーヒ陸海軍最高司令官(大統領)付参謀長「10の都市と音信不通です」
「無線も有線もいかなる連絡もつきません」
「溶けて蒸発してしまったものと思われます」
ルーズベルト「なんてこった!」
リーヒ「今、陸軍がABC対策装甲車を向かわせています」
リーヒ「遅かれ早かれ真実を掴めるでしょう」
ルーズベルト「知りたくもない真実だがな……」
4時間後、ABC対策装甲車は無事帰還した。
ルーズベルト「詳細は後だ、簡潔に報告しろ」
偵察隊隊長「はっ、なにも問題はありませんでした」
ルーズベルト「はあっ?」
オッペンハイマーが大統領に説明した。
高度数十km以上での核爆発は空気が希薄で威力がない。
爆圧と爆炎を伝える媒体の空気が無いからだ。
そのかわりコンプトン効果で強力な電磁パルスを発生する。
これらは非致死性であるが電子機器を破壊してしまう。
そのために有線/無線を問わずあらゆる通信機能が途絶する。
また電気も停電してヒューズが溶けて使用不能となる。
人々は停電した自宅で何が起きたのか分からず茫然自失である。
だが彼らにはたった一つだけ分かったことがある。
これは警告なのだ。
次の超爆弾は地上で炸裂するだろう。
ニューヨークは大混乱に陥っていた。
市民A「ICBMだ!どこにいても狙われる!」
市民B「慣性誘導で妨害電波は効かない!」
市民C「もうどこにも逃げられない!」
ホワイトハウスでは閣議がもたれていた。
これからの戦争計画をどうするかについてである。
ルーズベルト米大統領、オッペンハイマー、アインシュタイン。
リーヒ陸海軍最高司令官(大統領)付参謀長とマーシャル陸軍参謀総長ら。
リーヒ「間違いなく豪州レンジャー鉱山のウランが原因です」
オッペンハイマー「まだ我々は濃縮装置を作っている段階です」
アインシュタイン「いつかは誰かがやる、先か後かの違いだ」
マーシャル「我々にICBMのような芸当は不可能です」
ルーズベルト「揃いも揃って状況報告しか出来ないのか?」
「起死回生の一撃が必要なんだぞ!名案はないのか!」
リーヒ「ないです、対等な破壊力の武器がありません」
オッペンハイマー「ないです、核爆弾はまだ影も形もありません」
アインシュタイン「ないです、天才にも限界はあります」
マーシャル「ないです、毒ガスか細菌兵器を使うしか……」
ルーズベルト「なるほど、諸君の言いたい事はよく分かった」
「もはや無為無策、国家玉砕の他に手はないというのだな?」
まだ一人として北米大陸に日本兵は上陸していない。
しかし首都空爆、原爆、高高度核爆発が判断を狂わせていた。
この巨大な北米大陸が占拠されるワケがないのだ。
戦いながら現用兵器を補充していく国力は充分あった。
だが、世論は厭戦気分に完全に傾いていた。
各都市では反戦デモが始まり、それは全国に広がった。
徴兵率も高いヒスパニックや黒人が暴動を起こした。
各地の徴兵事務所が襲われ、完全に破壊され放火され灰になった。
反戦運動のうねりは政府方針の転換を促していた。
米国の縁であった力の論理は崩壊した。
首脳陣は長い議論の結果、ひとつの結論に達した。
ルーズベルト「日本との講和条約を締結する」
1943年07月03日。
大東亜戦争(太平洋戦争)は終結した。
正史では独軍の大陸間弾道弾V2A4は独のペーメミュンテからロンドンに1358発撃ち込まれましたが英国は降伏していません。米国が「もう戦えない」と感じたのは巧みな心理作戦の賜物なのです。太平洋上で一発の原爆が炸裂し、「週刊空母」の造船所がやられ、安全なはずの北米東海岸の主要都市が空爆される。そして最後が高高度核爆発による示威攻撃です。まだ充分に国力を残していた米国が講和に応じたのは厭戦気分が米国民に広がったからでした。終戦です。次回は東條英機暗殺計画です




