『じゃない方の幼馴染』
頭の中がグチャグチャでも手は動く。それを実感したのは、自分が点前をやっている時だった。
(ヒロインは勇気先輩が好きで・・・副会長は友子部長が好きで・・・ゲームとは違っていて・・・)
思考を他所に手は動く。しっかりと帛紗をさばいていた。その後も、水屋で洗い物をしたり、お客様用の机を片づけたり・・・何事も無かったかのように文化祭は終わった。
「みんな本当にありがとう。お疲れ様」
「忙しかったけど楽しかった~」
「柊君と桜井さん、助っ人本当にありがとう」
友子部長の言葉で解散となった。昨日と同じように友子部長、勇気先輩とヒロインは三人で帰って行った。私もいつもと同じように武士と帰る。すると、珍しく武士から話しかけてきた。
「どうかしたか」
「え?」
「何かあったか」
あった。でも、「あった」と言ったところでなんて説明する?
「・・・言えない事か」
「いや、そうじゃなくて・・・」
私は頭をフル回転させる。何を言おうかと考えていたのに、口からは勝手に言葉が出ていた。
「武士と私って、付き合ってるって勘違いされてるみたい。今日、桜井さんも誤解しててさ・・・距離、置かないとね」
何を言ってんの!?私!!でも、言葉は勝手につむがれていく。
「武士も迷惑でしょう?誤解されたままじゃ彼女とか出来ないしさ」
気まずくて武士の顔が見れない。でも、武士がこちらに視線を向けているのを感じる。きっと、いつもみたいに「そうだな」で終わる。だから、早く終わらせて・・・!!
「迷惑じゃない」
「え?」
思わず武士の方を見る。視線が合う。
「迷惑じゃない」
「だって、誤解されちゃうよ?好きな子に」
「確かに・・・誤解されている」
「でしょう?だから・・・」
「お前が誤解している」
「・・・は?」
「・・・好きなのはお前だ」
そう言って、少し顔が赤くなっている武士。対する私も顔に血が上っていくのを感じた。
「だって、え?さ、桜井さんは?」
「何故、桜井が出てくる」
「だって、幼稚園の時に・・・約束を・・・」
「なんの約束だ?」
「け、結婚・・・」
「・・・してない」
「え?」
「そんな約束はしていない」
・・・はい?
「小学生の時・・・初めて会った時から、お前が好きだ」
「え?」
「だから、誤解されたままで良い」
話している内に私の家の前に到着していた。武士は「おやすみ」といって去って行った。
私は混乱の極みに達していた。
ヒロインと武士は将来の約束をしていなかった。なのに、私はゲームと同じだろうと思っていて、武士との恋愛は諦めていて・・・。
(うん?諦めていて?)
諦めたって事は・・・私って武士の事が好きだったの!?
確かに、顔は好みで・・・でも、ヒロインと結ばれるかもしれないからって思ってて・・・
幼馴染だから知らない事なんてなくて・・・でも、私の事を好きだなんて知らなくて・・・
(私は・・・武士が好きなんだ)
自覚した瞬間、すごく恥ずかしくなった。独り相撲を取っていた気分。
(好きで良かったんだ・・・)
思い込みだったのかもしれない。乙女ゲームの世界に転生したと思ってたけど、よく似た別の世界なのかもしれない。ううん。そういう考え方自体、間違っていたのかも。
だから・・・
「私も・・・武士が好きです」
明日、開口一番にそう言おうと思った。
今日も私と武士は一緒に登校している。時々、手をつなぐようになった。周りからは「やっと自覚したんだね」とか言われてしまっている。恥ずかしい。
ヒロイン・・・もとい桜井さんは勇気先輩が卒業する前にと告白したらしい。答えは「OK」。勇気先輩もヒロインの事が気になっていたそうだ。
副会長は、まだ友子部長に好意を伝えられていない。どうやら、卒業まで定期試験で1位をキープし続けたら告白すると決めているらしい。願掛けしていたのか・・・。
「武士、帰ろう」
「ああ」
あの日の武士は、話しすぎたのか反動の様に「ああ」が多くなった。でも、それでも良い。武士が私の事を好きだって気持ちは知っているから。
「今度、デートしない?」
「・・・ああ」
「約束だよ」
「ああ」
お付き合いいただきありがとうございました。




