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毒舌少女のために帰宅部辞めました  作者: 水埜アテルイ
第2章 あなたに囁く少女たちの物語
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プロパガンダ


 文化祭担当役員の佐伯詩帆に連れられて文化祭実行委員会の活動拠点に来た。

 実行委員会は慌ただしいわけでも、切羽詰まっているような雰囲気もなく、淡々と各クラスの委員が代表で意見を具申していた。もっとあちらこちら歩き回って忙しそうにしていると思っていたので拍子抜けだった。

 大部分の計画が完成しているため今更変更はしない。だから細部の調整等をやっているそうだ。

 ちなみにうちのクラスは無難に喫茶店だった。だから我が2年2組の実行委員は会計係に費用等の提出、器材等の返納先などを確認していた。

 

 で、まず俺たちが何を手伝うかという点について。


 詩帆の役割は文化祭実行委員会に出席して、各クラス、部活動の動きを把握して生徒会に報告する。そうすることで生徒会は文化祭のオープニングイベントで連携しやすくなる。他にも掲示板の作成、地域交流との橋渡し等がある。昨日聞いた話では俺たちも詩帆のような作業をすると彼女はほのめかしていたので、てっきりそんなことをするかと思った。

 しかし俺たちの本当の目的は別らしい。


「詩帆さん詩帆さん。俺らは結局何をすればいいんだ?」

「生徒会所属の臨時風紀員的なこと&案内係ってとこかな」

「ほうほう」

「文化祭は楽しい反面浮かれるイベントでもあるからね。風紀的にまずいと思ったら止める人がいないと歯止めがきかなくなるの。だから執行部でもある生徒会が風紀委員的な役割をちょっとの間やるのね。んで、加えて案内係も! 学校内を回る途中で困ってる一般人がいたら手助けする。それが彗とアリナさんの役割ね」


 警備員ということか?

 詩帆が言うに風紀委員は本来警備的、監視的なことをしない。バリバリ取り締まってそうなイメージだが単に服装などの見栄え、意識改革、規則の改善等の継続を促す役割なので詩帆が、生徒会が、文化祭が欲している権力を現風紀員には持ち合わせていない。であるならば自分たちでやってしまおうということだ。

 しかし生徒会は一人一人が重要な役職に就いているので人手がない。そこで俺たちの登場だ。


「じゃあ私たちは文化祭の全体像を覚え、風紀を維持すればいいのね」


 アリナが口を挟んだ。


「そう! 流石アリナさん! 彗もわかった?」

「おう」

「でも教科書みたいに文化祭の完成形があるわけでもない。そこは私たち生徒会と実行委員会に混じって全体像を理解すればいいんです! そうすればわかってくるし、困らないと思うしね」

「なるほどな。細部は任せる。俺たちは従うことにするわ」

「ありがとう! じゃあよろしく!」


 てなわけで俺とアリナは動き始めた。

 まずは各クラスの出し物、部活動の出し物を集計することから始まった。全体像を掴むためだ。

 詩帆は別行動で何かをやっている。

 俺とアリナは集計係から資料を見せてもらい、必要な物をコピーすることにした。


「じゃあさ、俺は各クラスのをまとめるからアリナは部活動の方を頼んでいいか?」

「構わないけどあんた大丈夫なの? 日本語読めたっけ?」

「俺は何人だよ。そして俺の言葉を理解するお前は何者だよ」

「うそやだ。私、なんでナマコと会話できるのかしら」


 聞いた話によるとナマコは危険を察知すると腸をケツから発射するらしい。残念ながら俺にそんな機能はない。だがもしそのえげつない自己防衛機能が備わっていたら惜しみなくアリナにぶっかけよう。小腸大腸全部贈呈しよう。格好いいネックレスの完成だ。

 中々下ネタだと思ったので自重するも、アリナはエスパー気質なところがあるのを忘れていた。結果、脇腹を肘で小突かれた。嫌な音がした。多分ひびが入ったと思う。そのくらい痛かった。

 

 今、俺は全クラスの出し物を掌握している。

 ネタバレの宝庫だ。


「いろんな出し物あるなぁ。やっぱどっかは必ずお化け屋敷やるんだな。コンサートもあれば劇もある。レストランぽいのもあるな。すげー」

 

 ぱらぱらとめくって眺めているとアリナのクラスを見つけた。

 そこにはファッションショーとあった。


「ふぁっしょん、しょー?」


 思わず口に出した。

 隣に佇んでいたアリナがバッと俺に顔を向ける。


「な、なんだよ」

「――から」

「はい?」

「出ないから」

「?」

「出ないから絶対来ないこと。いいわね?」

「それ自分で『私は出場します』って言ってるようなも――」

「来たら八つ裂き。いいわね?」

「きーめた。俺、2年3組のファッションショーを真琴と観にいーこおっと」

「……いい死に方しないわよ。もしあんたが2年3組に来たらあんたの人生は終わるわ。アメリカ国家安全保障局のエシュロンがあんたの閲覧履歴、メール、ダウンロード動画、圧縮ファイルとかなんでも全て暴露して、どんな性癖かさらけ出すわ。毎日犬のフンを踏むことになってあんたは靴を3日に一度は購入しなくてはならなくなる。

 学校に行けばあんたのアダルトサイト閲覧履歴が壁中に貼り付けられているわ。売店でパンを買うには毎回ファッションショーへ行ったことについて1万字の反省文を書くことになる。自宅の玄関を開けるためにもポストに反省文を投函しないと入れない。妹の宇銀さんの足をなめないとあんたは風呂にも入れない。睡眠は1時間だけ許され、その時間以外はずっと反省文を書き続ける。朝になったら北海道に行き、次は走って沖縄まで行きなさい。それから学校に登校しないと入門できないわ。それでもファッションショーに行きたい?」

「ああ。俺は行くぞ。もう決めたからな」

「えっ。きょ、拒否します……」

「話を聞いてて思ったんだがアリナって結構変態なんだな……」

「違うわよ!」


 張り上げた声に何人かこちらを振り向く。


「し、失礼しました……」

「そんな嬉しがんなよアリナ。ビデオ撮影もしておくから安心しろ」

「誰か私を殺して……」


 言うまでもなく自ら立候補してファッションショーに参加するわけではないとわかっている。

 クラスの男たちからの熱烈な支持でそうせざるを得ない状況になったんだと思う。アリナの身長は170センチ以上はあり、女子の平均よりだいぶ高い。ヒールを履けば180の俺と目線が一致すると思う。加えて美形な顔つきにスタイルがいいのだから推薦されてもしょうがない。

 完全に拒否したわけでもないのだろう。現に参加するようだし。だとしたらアリナの心は変わってきているのかもしれない。


 各クラスの出し物を一覧として書き出し、要望事項等もまとめる。お化け屋敷、カフェ、劇、ファッションショー、演奏会、ミニレストラン、などなど多ジャンル満載だった。それぞれの情報を生徒会に持ち込むわけだ。

 アリナはというとマシンみたいにペンをスラスラと滑らせていた。二人並ぶと効率の違いが明白になるので一刻も早く俺から離れてほしいのだが席に空きがないので仕方がなく留まった。

 

「中学の生徒会ではどんなことをやってたんだ?」

「副会長。影の支配者よ」

「印象操作とかプロパガンダとか好きそうだな」

「ええ。無政府主義的プロパガンダを流して生徒会を潰そうとも思ったけど無難にこなして副会長を務めたわ。退屈だった」

「そのエピソードは生徒会では禁句な。俺もろとも迫害される」

「あんたはシベリア送りよ。カイロくらいは恵んであげるわ」


 神様。どうかこの女をブラックホールにぶち込んでください。

 目立ち始めたので俺たちは会話をやめて作業に集中した。こんな会話は年に1度でいい。

 

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