表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/10

出会い

出会いとは、いつも唐突に訪れるものだ。

それは、予期しないとき、予期しない形だということでもある。


その日は、高校の入学式の翌日。

新入生の一行は、学校の中を巡って、だいたいの構内図を頭に叩き込むことになっている。

淑子は、その列の中にいた。

当然、啓介はこの場にはいない。

出席をとってからあっという間にいなくなった。

先生が先導をして、あちこちを見て回り終わってから、教科書を受け取って、この日は終わった。


「じゃーねー」

淑子の中学校からの友人の一人である金内愛美が手を降っている。

「ええ、明日」

淑子が手を軽く胸の前で振り返す。

Y字路で、鋭角側の2本の道に分かれていく二人。

そして、別れてから3分ぐらい立った頃、公園に入ったとき、うしろから誰かが早歩きをしているような足音が聞こえてきた。

淑子が道の脇に寄りつつ、歩き続けていると、その足音はだんだんとスピードを増し、数を増やした。

後ろを振り返ると、ニヤッと先頭の男が笑っていた。

「おじょうちゃん、ちょっときてくれないかな」

「いやです」

はっきりと断る。

「いいじゃねえかよ」

別の男がダンッと飛び出してきて、淑子の手をつかむ。

「ぃや!」

手を振りほどこうとしても、男の力が強くてなかなかほどけない。

そのうちに、3人に掴まれてしまった。

「……ここはダメだな、もうちょっと暗いところに行こう」

「誰かーっ!」

淑子は、ありったけの声を出して叫ぶ。

「口をふさいじまえ!」

男が言ったが、その前に物音が聞こえてきた。

「隠れろっ」

掴んだまま、4人組の男に公園の雑木林の中へと連れ込まれる。

そこは、生け垣のおかげで、道からは見えないところだった。


物音は更に近づいてくる。

そして、これが聞こえてきた。

「っかしーなー、このあたりだと思うんやけどな」

「おいおい頭領、わすれたんですかい?」

笑い声も聞こえてくる。

「いや、女の叫び声がしたら、普通は駆けつけるだろうさ」

淑子は足でぎりぎり届いた生垣をおもいっきりける。

男の顔が青ざめる。

「……そこか」

その声は、殺気がこもっていた。

声の主が覗きこんでくる。

「…何をしてる」

「いや、なにも……」

淑子を掴んでいる男たちは、冷や汗がタラリと出てきている。

声を聞いただけで十分な男。それが、敬介だ。

「彼女を離せ」

だが、知らない男も、まだいる。

「嫌だと言ったら?」

まだせせら笑う勇気があるようだ。

「……そうか」

一言だけを言った。

だが、それだけで十分だった。

50cmほどの厚さで、高さ1.5mはあろうかという生け垣をひとっ飛びで飛び越えると、男の1人が立ち上がった。

「婦女暴行の現行犯ってとこだな」

敬介以外の道路にいる人らは、回りこんでくるようで、足音が分散した。

「一人で来るとは、いい度胸だな」

手にはポケットから取り出した折りたたみ式のアーミーナイフだ。

「ほう、銃刀法違反も追加、と」

それからサラリと言い放つ。

「それだけでいいんだな」

「ほざけっ」

男はナイフを勢い良く敬介に突き立てようと突進をしてくる。

右腕をつきだして、当たりそうになった瞬間。

「……がっかりだよ」

敬介が言ったような気がした。

右腕はあらぬ方向へと弾かれ、体は前のめりになる。

そこに、敬介は右膝を相手の腹にめり込ませた。

一瞬で肺が潰される。

足をのけ、体の下側の空間に遮るものがなくなると、こんどは両手を組んで、相手の頭へと振り下ろす。

うんともすんとも言わない男は、もはや意識もあるかどうかわからない。

ドシャと地面に倒れると、ぴくりとも動かなくなった。

「さて、次は誰が相手をしてくれる?」

1人が倒されると、慌てて他の3人は逃げた。

そこへ敬介の友人たちがやってくる。

「あれ、他のメンツは…」

倒れたままの1人を見て、息も全く切れていない敬介を見て聞いた。

「逃げたよ」

それから仲間に男を警察につき出せと命じてから、まだ座ったままの淑子のそばに片膝付いた。

「大丈夫か?」

「……はい」

「立てるか」

そう言って、敬介は右手を差し出す。

淑子はしっかりと掴んで、やっと立ち上がった。

「ん、あるけるようだな。なら大丈夫だろう」

そこまで言ってから、やっと制服に気づいたようだ。

「なんだ、同じ高校か」

「え?」

「お前も、国立手野なんだろ」

国立手野とは、国立手野大学付属 手野高等学校というのが正式な名前だ。

長いから国立手野と略すことが多い。

なお、手野市立手野高等学校という名前の高校もある。

こちらは、単に手野高校と呼ばれている。

「いやぁ、偶然だな」

敬介はハハハと笑いながら言った。

「俺は祝田敬介。お前の名前は?」

「私は改田淑子。あの……」

淑子は頭を下げようとする。

「いいっていいって。んじゃ、俺はいなくなっから。今日のことは秘密だかんな」

ばれたら親にしばかれると言い残して、敬介はあっという間に生け垣を飛び越えていった。

淑子は、ちょっとしてから歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ