終幕
道場で、一人の女性が素振りをしている。
音は一切せず、ただ銀の弧だけが描かれ続ける。
ふと、素振りの手を止めた女性は、上段に一礼してから道場を出て行く。
母屋に戻り、食事の準備を始めた女性の手には、包帯が巻かれていた。
手だけではない。よく見れば至る所に包帯が巻かれている。
食事の準備をおえ、卓袱台に食器類を置いた女性は、手を合わせ、食事に手をつけようとした。
その時だった。
「すいません、道場の主はいらっしゃいますか?」
玄関からかけられたその声は、討ち入りから五日経った今でも足取りがつかめない自分の主の声に似ていたが、まさかと女性はその考えを否定した。
「はい、主は私ですが…」と応答しながら玄関に出た女性は、驚きで自分の目が大きく開かれるのを感じていた。
「依頼があります。わたしを、守って欲しいのです。……一生」
玄関にいた女性は、そのような事を言いながら、家の中で驚く女性に手を伸ばす。
「承知、しました……!」
一礼し、手を取った女性は、来客の女性と共に、光が溢れている玄関から、外へと踏み出した。
野分は全てを流す。だが、過ぎ去った後、地面は湿り、空は青く澄み渡る。
女性達の行方は、彼女らにしかわからない。