叫び
「なぁ、待ってくれよ!」
「………。」
俺は前を歩く鎧を着た少女の背中に声をかけた。
その少女は先ほど俺の頬を張った、あの少女だ。
俺は頬を張られた後、ギルドを飛び出した少女を追い、街中を肩を怒らせながら歩く少女を見つけた。
そして、今俺はなんとかこの少女と話をするために少女の後ろから声をかけ続けた。
「どうして怒ってんだ? 俺が何か気に障ることでも言ったか?」
「………。」
返事は全く返ってこないが、それでもこの少女となにか会話をするために一方的な会話を続けた。
「まさか、さっきの俺の言葉が冗談だとでも思ったのか? だったらそれは違うぞ、俺は本気で─」
「…うるさい」
少女が突然立ち止まり、振り向きながらこちらをものすごい形相で睨んできた。
「!?」
俺はその顔を見て驚いた。
明らかに殺気を含んだ目で俺のことを睨んでいたからだ。
この少女にそんな目で睨まれた事にショックを受け、俺は呆然としてしまった。
そして、そんな俺に少女は冷たく言葉を投げかけた。
「…どこで私の話を聞いたのかわからないけど、からかうなら他を当たってくれない? …確かに馬鹿な事かも知れないけど、私は真剣なのよっ!」
前半は怒りを押し込めた声で、そして後半はその押さえた怒りが爆発したかのような声で、俺に言葉をぶつけて来た。
なにやら、俺が自分をからかって遊んでいると思っているようだ。
だが、俺にはそんなつもりは全くない。この少女が何を勘違いしているのかわからないが、俺の目的は一つだけだ。
少女の誤解を解こうと思うが、俺は呆然として、何も言葉を返す事ができない。
だが、
「…もう十分満足でしょう? もう、放っておいてよ…」
怒りか、悲しみか、もしくは、その両方で肩を震わせる少女を見たとき、俺は言葉を口にできるようになった。
「…たすけてやる」
「えっ?」
俺は肩を震わせる少女に近づき、上から少女の頭を見下ろす形で話しかけた。
「俺がお前を助けてやる」
「ま、また! わ、私をからかって…!」
少女は俺が突然言った言葉に怒り出した。やはり、俺の事を自分をからかって遊んでいる奴に見えているらしい。
俺はいい加減それにキレた。
「からかってなんかいねぇよ! 俺は本気でアンタに恩を返しに来たんだよっ!」
「!?」
少女は突然キレた俺に驚いたようだが、俺は構わずまくし立てた。
「さっき、アンタはギルドで言ったよな! 『没落しかけの我が家を復興させたい』って!」
「え、えぇ」
「つまり、困ってるんだろ! 助けて欲しいんだろ! だったら俺に命令しろよ! 『助けてくれ』って言えよ! 俺は絶対にそれを叶えてやるから! だから言え! そして─」
俺はそこで俺の事をポカーンとして見上げる少女に向かって、最後に叫んだ。
「俺に恩を返させろっ!」