騒ぎ
俺とルースは食堂に行き、そこで軽い食事をとった。
俺が骨付き肉を五人前と、ルースがトマトサンドを一人前。
それを完食した後、俺達はこれからのことを話し始めた。
「それで、ガルー。これからどうします?」
「街の酒場や食堂でしらみつぶしに情報を集める」
「ふむ、それもいいですね。しかし、それまでの宿代はどうします?」
「お前の金を使う」
「しれっと言わないでください。私のお金は私のものです」
「ちっ」
俺は舌打ちをした。
ここまでの旅費や食事代を散々たかってきたが、そろそろ限界が来たようだ。
(仕方ない、テキトーに力仕事でもして…)
「そこで提案なのですが!」
俺はルースに金をたかる事を諦め、宿代を稼ぐ方法を考えていると、ルースの奴がテーブルに身を乗り出してきた。
「ここはギルドです!仕事なら山ほどありますから、ここで路銀を稼ぎましょう!」
「………。」
ルースの言葉に、俺はめんどくさいと思いながらも、金を稼ぐならそれもありだと思った。
ギルドは色んな仕事が依頼されてきているから、きっと力仕事なんかもあることだろう。
なので俺はルースの意見を採用して、一息ついたから、一階に戻って試しに依頼を受けに入った。
「だからっ!これは私たちが先にとってた依頼よっ!」
「ふざけんなクソっ!俺たちが先だったろっ!」
なにやら二人の男と女が白熱した言い争いをしている。二人とも完全にキレているようで今にも相手に殴りかかりそうだった。
さらに、二人とも仲間がいるようで、二人の後ろを緊迫した様子で見ている男女が数人がいた。
こちらも完全に頭に血が上っているようで、今にも武器をだしそうだ。
俺たちはその様子を遠めで眺めながら、どうするか迷っていた。
「ちょうどあいつらがいる位置に、依頼の紙が張ってあるボードがあるんだよなぁ」
「そうですね」
「仕方ないから帰るか?」
「そうですね、ちょっとこれは流血沙汰になりそうな感じですし」
「じゃ帰るか。今日は酒場で情報収集して、明日またここに来よう」
「はいそうですね」
そんな事を話しながら俺たちはギルドの出口に向かった。
しかし、
「ま、待ってください…!」「お、お願いします!」「お願いですから帰らないでっ…!」
なにやらルースの奴が服の端っこを例の三人娘に掴まれて、身動きが取れなくなった。
こいつは女の手を無理矢理振り払ったりしない奴なので、こうなると動けない。
「えーっと? お嬢さん方? 私は帰りたいのですが?」
「お願いしますっ…! もう少しだけここにいてくださいっ!」「い、いまの軍の警備隊の方を呼んでいるのでそれまでっ…!」「いてくれるだけいいですからっ! ただ、いてくれるだけでっ!」
「えーっと」
そこでチラッと俺のほうを見てくるルース。
俺は涙目の女に服を掴まれているルースに、手を振って「わかったわかった」とジェスチャーをする。
しかし、警備隊の人間を待つが、いつまでたっても来る様子はなかった。
そして、目の前の口喧嘩はますます白熱していった。
俺はそれを見ながら、頭を引っ込めて喧嘩を見ていた受付三人娘に声をかけた。
「なぁ、いつまでこうしてればいいんだ。お嬢さん方?」
「えっと。あ、あともう少し」
「五分前も同じ事聞いたな」
「ほ、本当にもう少しですから」
「………。」
「えっと、えっと」
俺が無言になると、三人とも萎縮してしまった。
すると、それを見ていたルースが三人に声をかけた。
「大丈夫ですよ。ちゃんと警備隊の方が来るまで待ってますからね」
「「あ、ありがとうございます…!」」
ルースの言葉に少し緊張が和らいだのか、ほっとする三人娘。
その様子に俺はため息をついた。
意外にも警備隊の人間がやってきたのはそれからすぐの事だった。
ギルドの玄関から数人の全身鎧を着込んだ人間がドカドカと入ってきて、一番小柄な奴が受付娘の一人に事情を聞いて、すぐに喧嘩している場所に飛んでいった。
だが、喧嘩しているのは荒事専門の人間ばかりだったのか、喧嘩を収めるに大分苦労しているようだった。
小柄な警備隊の人間が喧嘩の理由を聞こうとすると、両方のグループから違った意見が出てなかなか騒ぎが収まらない。
仕方ないので、警備隊の人間がグループのリーダーを二人だけ警備隊の詰め所まで連行する事で話がついた。
だが、それを二人のリーダーのグループの人間達は不服だったようで、その警備隊の人間に対して軽い暴力を振るった。
「なんで内のリーダーが連れていかれなきゃいけないんだよっ! 悪いのはあいつらだろっ!」
比較的メンバーの中で若い男が警備隊の人間の胸倉を掴んだ。
「おい! お前その手を離せっ!」
それを見た他の警備隊の人間が慌てて若い男を取り押さえようとする。
徐々に場は混乱していき、このままでは怪我人が出そうな勢いだ。
さすがに目の前で怪我人が出るのは気分が悪いと思い、俺は騒ぎの中心に向かった。
「ちょっと、行ってくる。荷物は頼んだ」
「わかりました。気をつけて」
ルースに荷物を預け、俺は肩の骨を鳴らして歩いていく。
「おい、アンタ」
「あぁ!?」
近くにいたグループの一人の肩を叩く、
そして、
「邪魔だ」
ガッ!
手のひらでそいつの顔面を叩いた。
平手というよりは掌底気味だったのでそいつは脳を揺さぶられて、あっさりと気を失って倒れた。
メンバーの一人が倒れた事で、全員の意識がこちらに向くかと思ったが、頭に血が上っているのか、数人しか俺の方を見なかった。
「あぁ!? 何だコイツっ!」
「ユルの奴が倒れてるぞっ!」
二人の男が倒れた奴に気づいて、俺のほうを見た。
頭に血が上った奴と会話するのは面倒なので、手で「来い来い」と挑発する。
「なめやがってっ…!」
「ぶっ殺すっ!」
すると、簡単に誘いに乗ってきてくる二人。
俺はお礼に平手と裏拳で二人を仲良く床に寝させてやった。
「残りは五人か」
グループは二つあわせての計八人のメンバーだったから、あと五人を眠らせればこの騒ぎは収まるだろう。
メンバーの中には女もいたから顔と腹を攻撃するときは気をつけよう。
俺はそんな甘い事を考えながら、しり込みし始めたグループのメンバーを一人づつ気絶させていった。
最後に二つのグループのリーダーをチョップで沈めると騒ぎは完全に収まった。
幸い怪我人は殆どいなかったようだが、胸倉を掴まれていた小柄な警備隊の人間は少し殴られていたのか、被っていた兜が少し脱げて床に座り込んでいた。
俺はそいつの傍まで近づいて、大丈夫か声をかけようとした。
だが、そこで妙な違和感を覚えた。
「ん…?」
まず、目の前の警備隊の隊員の体が小柄すぎる。
次に、小柄なわりに妙に丸っこい。
最後に、ずれた兜から「真っ赤」な髪の毛が見えた。
まさか、と思った。
そんな馬鹿な、と。
「っ…!」
思わず、俺はその隊員の兜をひっぺがした。
「あっ…!」
兜を外すと、男にしてキメの細かい肌と、女っぽい丸びを帯びた綺麗な顔立ちが出てきた。
鎧を着込んでいるし、髪が短いので違和感があるが、間違いない。
『女』だ。
そして、俺はこの女に見覚えがあった。
成長しているが面影がある。
特に、俺のことを目を丸くして見る『翡翠色の瞳』に。
「…見つけた」
俺は確信する。
目の前の隊員は、間違いなくあの時の少女だと。




