不器用な青年
「俺は絶対に忘れなかった」
そう言ってガルーは言葉をきった。
すでに私達のテーブルには料理が運ばれているのだが私もガルーも料理に手を付けていない。
それは、ガルーの話がとても食事をしながら聞けるものではなかったからだ。
話を簡単に纏めてしまえば、子どもの頃に罠に引っかかったのを助けてもらい手当てしてもらっただけの話だ。
だが、ガルーの一族の事を考えると少し複雑だ。
ガルーの一族は特殊で恩や義理をとても大切にするのだ。
例え、当事者が大した事をしたと思っていなくても、「彼ら」は必ず恩義を返す。
目の前の彼は、一族の中でも変わり者だと言われているが、そこらへんは他の者達と変わらないようだ。
これはすばらしい事だと私は思う。彼の美点がまた一つ見つかった。
…だが、そんな事よりも、
「…つまりこういう事ですね?」
「あぁ?」
私はガルーが怪訝な顔をするのを見ながら、真剣な顔でいった。
「─その時見た少女の笑顔が忘れられないほど可愛いいから、もう一度会いたい、と」
「ぶっとばすぞお前」
…しまった目が本気だ。
「んん! 失礼しました。えーっと、つまりは子どもの頃の恩をその二人に返したいのですよね?」
私は気を取り直してガルーにこの旅の目的を確認した。
するとガルーは少しふてくされながらも「そーだよ」と言って、テーブルの上にあった骨付きを一つとってかぶり付いた。
鋭い犬歯で骨についた肉を剥ぎ取って咀嚼していくガルー。
たった数秒で骨付き肉はただの骨になった。
「そうだ。当時は俺もガキで恩を返そうにも力が足りなかったが、今は違う」
「ふむ。そうですね」
確かに子ども頃とは違い、今の彼なら恩返しに必要な力を持っている。
しかし、それならばもう少し以前に人探しをしていても良かったはずだ。それこそ自由な十代の頃にでも。
なぜ、そろそろ次の族長を決めるこの時期に、こんな事をするのかが分からない。彼はその族長の候補に名前が上がっていたはずなのに。
そこまで考えて、私は気がついた。
(…あぁ、そういう事ですか)
私はやっと気がついた。彼がなぜ一族で族長を決めるこの重要な時に集落を飛び出したのかを
(自信がついたって事ですか…)
名誉あるウルフヘジンの一員になり、族長候補にも名があがった。
ガルーは今の自分なら恩が返せると思ったのだろう。
だから、集落を飛び出した。
血の滲む努力をしてついた力を
戦士として使うのではなく
族長になるために使うのでもなく
恩を返すためだけに使うため、集落を出た。
私はその事に思わず笑ってしまう。
「ははっ」
「あ? なに笑ってんだよ」
当然笑いだした私を不思議そうにみるガルー。すでにテーブルの上の骨付き肉は半分以上が骨だけになっている。
私はその様子にさらに笑顔になってしまう。
「いいえ、なんでもありませんよ」
「…突然笑い出したてなんでもないとか、気になるだろ」
「いや、本当になんでも─」
「気になるから言え」
どうやら彼のスイッチを押してしまったようだ。仕方ない、後で怒られるのを覚悟で言おう。
「ええ、でしたらいいましょう」
「おう、早く言え」
私はそこで一度彼の事を見た。
「………」
ぶっきら棒で、すぐ機嫌がわるくなる、チンピラの様な青年。
でも、私は知っている。
貴方が本当はどんな人なのか
不器用なガルー
貴方は本当に優しい青年だ。
「…私が笑ったのは」
そんな貴方の友人だという事が、
─私は、とても嬉しい。
バトルッぽいこと書きたい。後くらーい話。すごく書きたい。