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狼の恩返し  作者: kuro
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過去

ガキの頃の俺は「やんちゃ坊主」だった。


よく親達に黙って集落から抜け出し、野山を駆け回った。


そのたびに親や知り合いから説教をされたが、懲りずに何度も抜け出した。


なんというか、あの頃は退屈な集落の生活に飽きていたのだ。特に同年代の子どもが集落にいなかった事が主な原因だと思う。


俺は退屈な集落を脱走しては、近くの川で魚を取ったり木の実を食べていたりした。



そんな頃だった、俺が「アイツ」に会ったのは。








きっかけは最低な状況から始まった。



幼かった俺は、はしゃいで野山を駆け回っていた時、運悪くハンターが仕掛けた罠に嵌った。


それは大型の獣を捕まえる為に仕掛けたトラップで、「落とし穴」といわれるもの。


本来ならば、大型の獣の身動きを取れなくするだけのものだろうが、幼い俺には奈落の穴となった。


不意におとずれた浮遊感。そして、激痛。


俺は完全に罠に嵌った。


不幸な事に、完全な不意打ちに受身などとれなかった俺は、全身をしこたま穴の底に打ちつけた。


俺はしばらく、全身を襲った激痛と落とし穴に嵌った事に軽く呆然としていた。


何度か痛む体に鞭打って穴をよじ登ったが、小さな体では無理だったようで、ただ体力をすり減らしていった。


これからどうしようと徐々に焦りだした頃、穴の外から声が聞こえ始めた。




「いま、こっちでおとがしたの! きっとどうぶつだわ!」「本当ですか? この辺は昼間に動く獣はいないはずなのですが…」「ぜったいしたわ! だってこえが聞こえたのもの!」「ふむ、お嬢様がそう言うならば、そうかもしれませんね。 ですが、危険な獣かも知れませんから私の後ろに隠れていてくださいね?」「うん! わかったわ!」




声は大人の男らしき野太い声と、甲高い少女の声。


足音が二つ、徐々にこちらに向かってくる。


そして、その足音の主達は俺が落ちた穴の近くまでやってきた。



そして、



「たいへん! どうぶつがおちてるわ! 」「どうやらそのようですな、暗くてよく見えませんがまだ子どものようです」「ちいさいから、穴からでれないみたいだわ…」「ハンターの回収し忘れたトラップに運悪く落ちてしまったのでしょう」「かわいそう…」「ふむ、でしたらお嬢様…」



男と少女が穴の傍でなにやら話していた。


だが、俺はその時何度も脱出を試みて体力が減っていて、完全にグロッキー状態。


俺はその声の主達に、威嚇の声を上がる事はできなかった。


このまま、身動きが取れないのだと襲われる可能性がある。


なんとか立ち上がろうとするが、足が言う事をきかない。



「まずい、まずい」と内心かなり焦っていると、穴の外からまた話し声が聞こえた。今度は少し大きな声だった。


「お、お嬢様! それは私が…!」「だいじょうぶ! わたしじょうぶだから!」「お、お嬢さま」

「えいっ!」



そして、甲高い少女の掛け声が聞こえた後、俺の落ちた穴の底に、突然来訪者がやってきた。



「!!」



俺はその事に全身の毛を逆立てた。


そして低く唸って、威嚇した。


だが、



「あっ! あなた、けがしてる!」


「!!」



俺の威嚇など殆ど無視して、俺に急接近した来訪者。


「だいじょうぶ? いたくない?」


「………。」


俺はじりじりと少女から距離を置こうとするが、狭い穴の中なのですぐに追い詰められた。



「えっと、わたしあやしくないよ?」


「………。」


「あなたを手当てしたいだけなの」


「………。」


「だから、ちょっとだけからだをさわれせてくれる?」


「………。」


俺の警戒心を解こうとしているのか、必死に俺を宥めようとしている。


だが、なかなか警戒を解こうとしない俺業を煮やした少女は、突然。



「えいっ!」


「!!」


俺に覆いかぶさるようにして俺をその小さな体で抱きしめたきた。


憔悴しきっていた俺はそれをかわす事も出来なかった。


気がつけば、まるでぬいぐるみのような状態で抱っこされていた。


そして、



「…いっぱい血がでてる。いたかったでしょう?」


「………。」



抱っこされた状態で体のあちこちを触られて怪我の様子を調べられ、



「でも、すぐなおしてあげるからね?」


「………。」


「あのね、外にね、ギリーって言う人がいるの。すっごく森に詳しい人で薬草とか沢山もってるの」


「………。」


「すぐ呼ぶからまってってね?」


「………。」


「ギリー! この子してるみたーい! すぐ助けてー」



穴の外に向かって誰かを呼んだ。



すると、穴の外からひょっこりと顔を出したのは、髭を生やした厳つい顔の男。


「…自分では出られないのに、良く進んで穴から飛び込んで行きましたな」


「えへへっ」


「…褒めてませんぞ、お嬢様」



そう言って髭の男はため息をついた後、少女に手を伸ばして、俺を抱きかかえた少女をそのまま穴の外に出した。




そして、穴の外に出た俺は、少女に抱っこされたままギリーと呼ばれた髭男に怪我の手当てをされた。








髭男が、俺の体中の擦り傷にすりつぶした薬草を塗る。


これがかなり沁みる奴で、俺は俺を抱っこする少女の胸の中で暴れまくった。


これには薬を塗っていた髭男が参って役を交代した。


つまり、俺は髭男にだっこされて、少女に薬草を塗られた。


少女はなにがうれしいのか、鼻歌を歌いながら薬を塗っていたが、対して俺は最悪だった。


時折、薬を塗る手が滑って傷口に指先が当たってかなり痛い。これならおとなしく髭男に薬を塗っておけばよかった。



最後に包帯を巻かれ治療が終わると、少女と髭男は俺から離れた。



「…できれば、あなたをおうちに連れて行きたいけど。…それはだめなの」


「………。」


「ごめんね…。できれば、あなたのけがをもっとしっかり治してあげたいんだけど」


「…お嬢様」


「ごめんね…」



俺に向かって謝る少女。


俺はそれの意味がわからなかった。


俺はお前達に助けられた。それなのに、なぜ謝る。



謝るのは俺のほうだ。


俺は怪我の治療中に暴れてお前の手に引っかき傷を作った。他にも最初にお前に唸って威嚇したりもした。綺麗なドレスに土汚れをつけた。




「………。」


俺はその事を言おうとしたが、「この姿」では驚かせるか、怯えさせるだけだと思って何もしゃべらなかった。


そして、何も言わない俺に向かって少女は小さく手を振った。



「じゃぁね。バイバイ」


「…達者でな、ちっこいの」



そして、髭男がどこからか引いてきたでかい馬車に少女は乗った。



馬車に乗っても、窓から手を振って別れを惜しむ少女。



「………。」


俺は声を出さない代わりに、体の一部を必死に振った。




「あはっ!」




それを見て、少女は笑った。


笑えば、その容姿とあいまって、とてもかわいかった。



俺はその顔をずっと忘れない。



何年たっても、記憶が曖昧になろうと。



絶対に忘れない。



赤い髪に、翡翠の瞳を持った心やさしい少女。



その笑顔を。








「俺は絶対に忘れなかった」



書くのが楽しくなってきた。ノリが違います。


連投できそうなくらい楽しい。


行き詰った別作品とは大違い。

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