食堂での会話
王都から少し離れた場所にある街。
街の名はアガスト。
そこのとある食堂に二人の若い男が入ってきた。
一人は目つきの悪いチンピラの様な青年。
もう一人は作り物の人形のように整った容姿の美青年。
先に店内にいた人間は、そのチンピラと美青年の奇妙な組み合わせに驚いた。
だが、店員はさすがはというべきか、すぐに入ってきた二人の青年を空いている席に案内する。
「ご、ご注文はお決まりですか?」
少し動揺しているのかどもる店員の若い娘。
だが、それを気にしないチンピラ風の青年。さっさと品書きを読んで注文をする。
「あー、一角羊の肉を骨付きでくれ。それを五人前。んで、お前はなんにするんだルース?」
チンピラ風の青年は大食漢なのか、かなりの骨付き肉を注文した。しかも、品書きを一緒にきた美青年に渡した事から、どうやら五人前を一人で食べるつもりらしい。
「私はこの川魚とキノコの香草蒸し焼きをください。あぁ、私は一人前でいいです」
そして、その事に全く気にせず自分の注文をする美青年。こちらは細身の体どおりあっさりとした料理を頼んだ。
「は、はい、角羊の骨付き肉を五人前と、川魚とキノコの香草蒸し焼きを一人前ですね? 後、お飲み物はなんになさいますか?」
この奇妙な二人の青年に対し、マニュアル通りの対応で仕事をこなす店員の娘。
「俺は水でいいや」
「私は石榴酒をください」
その甲斐あってか、特に問題もなく注文をとり終わる。
「はい、かしこまりました。少々お待ちください」
そして、お決まりの文句を言ってから、小走りで厨房に向かう娘。
それを二人の青年は見送ってから、青年達はこれからの話を始めた。
店員が料理を運んでくるまで、これからの事を確認する二人。
「手がかりが貴族の人間という事で、我々は人間の貴族が多く住んでいる王都に向かっているわけですね?」
「そういう事だ」
「かなり大雑把な人探しですねぇ」
「仕方ねぇだろ。手がかりが殆どねぇんだから」
めんどくさそうにガルーはそう言って、背もたれのついた椅子にドッと体重を預けた。
集落をぬけてから数日、ずっと歩き通しだったので体力に自信ある彼も少し疲れたらしい。
「…違和感があるのですが。めんどくさがり屋の貴方が、何故こんなにも熱心なのですか?」
ガルーの様子をみたルースは、心底不思議そうに向かいの椅子に座る彼にそう質問した。
ルースが知っている彼はもう少し自堕落的だったはずだ。
間違っても「人探し」なんて時間と労力を大量に使う事などしない。
なのに、そんな彼が進んで「人探し」なんて事をしようとしている。
これはもしかすると、まだ彼は自分にこの旅を始めたきっかけについて重要な事を言っていない可能性がある。
ルースはそう考え、追い討ちをかけるようにさらに質問した。
「…もしかして、なにか深いわけでもあります?」
すると、
「…前にも言ったが、ガキの頃に怪我を治してくれたからだ」
台詞は前に聞いた通りだったが、案の定、すこし目が泳いだ。
間違いない。彼は何か重要な事を話していない。
しかし、おかしい。
ただの人探しで、何を隠すような事があるのか?
(もしかして、探している人物に秘密が?)
ルースは考えを整理しようと、頭の中でガルーから聞いていた探し人の情報を整理する。
(ええっと、家紋付きの馬車に乗った人間で、小さい頃に怪我をしたガルーを手当てした人物。そして、髪と瞳の色が─、あれ?)
そう言えば、髪と瞳の色を聞いていなかった。その前に少し衝撃的な事があったので思考が停止して、詳しく聞くのを忘れていた。
(あぁ、そう言えば性別も聞いていませんでしたね。──ん?)
そこで違和感。いや、ひらめき。
(もしかして、このガルーが探している人間って…)
チラッとガルーのほうを見ると、こちらを見ないように必死にそっぽを向いている。
(あぁ、なるほど。そういう事ですか)
その様子と、これまでの行動に、ルースはガルーの隠している事がわかった。
「…ガルー」
「あ?」
なので、ルースはガルーをとろける様な笑みを浮かべながら声をかけた。
「私、安心しました」
「はぁ? 意味がわかんねぇだけど?」
いきなり、極上の笑みを浮かべて話しかけてきたルースにガルーは気味が悪そうだった。
だが、そんなガルーの様子にお構いなしな様子のルース。ますます笑顔になる。
「私も、そして私の兄妹も心配していました。いえ、きっと貴方の集落の方々もそうでしょう」
「……?」
笑顔で話すルースと対照的に徐々に顔を歪めるガルー。彼は目の前の優男が突然なにを言い出しているのかと訳が分からない様子だ。
「ですが、それもいらぬ心配だった様ですね。成る程、そういう事だったのですか」
「………。」
「ずっと、不思議でした。貴方が女性に興味を示さないの事が。ですが、これで納得しました」
「………なにが?」
そこでやっとガルーはルースに声をかけた。
すると、ルースは極上の笑みで言った。
「どんな方なのですか?」
「………っ。」
そのルースの満面の笑みに対して、ガルーは頬を引き攣らせて渋面をつくった。
そして、
「…ちっくしょう。気づきやがったのか」
完全にふてくされた顔でルースを睨んだガルー。
「ふっふふ。当たり前でしょう。何年の付き合いだと思っているのです」
それに対して黒い笑顔を浮かべたルース。
「………。」
「………。」
しばらく、沈黙が続いた後。
ガルーは根負けして、語りだした。
「…あぁ、そうだよ。お前の考えている通りだよ」
「…では、やはり?」
そこで完全にやけっぱちになったガルーは言った。
絶対に、目の前の優男には言いたくなかったことを。
「…そうだよ。ガキの頃の俺の怪我を手当てしてくれたのは、『女』だ」
次、過去の話の予定です。




