獣人の少女4
朝、警備隊の屯所に到着すると、何故かいきなり二人の女に詰め寄られた。
朝っぱらから女二人に詰め寄られている俺は、屯所にいる同僚達からの視線を全身に浴びてかなり居心地が悪い。
出来ることならば今すぐこの場から逃げたいが、テレサが俺をひどく冷めた目で見始めているのでそれは出来ない。
この修羅場を潜り抜けなければ俺は恩人に軽蔑される。
「と、とりあえず、一度詳しく話し合おう。なっ?」
「…………。」
「…………。」
仕方がないので、俺がガラにもなくそう提案すると、二人は一度お互い見つめあった後、『コクン』と俺のほうを向いて頷いた。
「じゃ、宿直室でちょっと話合うか」
俺はその様子に少し安心し、屯所の奥にある宿直室で話合うことを提案した。
「…………。」
「…………。」
すると二人は、何も言わずにさっさと屯所の奥に向かった。
俺は二人が目の前を通り過ぎるのを少し青ざめながら見ていると、他の同僚たちから「早くいってこい!」と口パクとジェスチャーで急かされた。彼らもどうやら危険を感じているらしい。
「ったく、めんどくせぇ」
何がどうなっているのかわからなかったが、とりあえず大人しく同僚たちの指示に従って二人の後を追った。
※※※
宿直室には仮眠用の簡易ベッドと作業用の小さな机と椅子が置いてある。
だが、俺たち三人は椅子にもベッドにも腰掛けず、立ったままで会話を始めた。
「あー、色々と聞きたい事があるけど……、まず第一にお前誰だ?」
俺は部屋のいる小柄な少女にそう聞いた。実は屯所に来たときから気になっていたのだ。
「え? お、覚えてないの? 私だよ? ミーシャだよ?」
すると、ミーシャと名乗った少女が泣き出しそうな顔で俺を見つめ始めた。
「うっ……」
その視線の居心地の悪いこと悪いこと。
まるで自分が悪いことをしているようで酷く居たたまれない。どうやら俺とコイツは過去に面識があるようだ。俺は急いで記憶のそこからコイツとの関係を思い出す。
考えてみれば俺と女との関係性なんていくらもあったものではない。おそらく、昔俺が戦団にいたころ助けたか何かした奴だろう。
そうじゃなかったら、俺とこんなガキが知り合うはずがない。
「……えーっと」
改めて目の前の少女の姿を見てみた。
年は十代の後半で背丈は普通よりやや小柄。髪は白で瞳は少し赤みが入った茶色。後ろ髪を三つ編みにして髪の色と一緒の白い髪紐で一本に縛っている。
昔助けた奴らの中からコイツと該当する記憶を急いで探した。すると、該当する奴が一人見つかった。
あの時は痩せっぽちのガキだったが、よく見れば面影がないわけはない。
思い出すと、一気に緊張感が抜けた。
「なんだ、お前ミィか」
「覚えててくれたんだ!?」
俺がこのガキの昔の愛称を呼ぶとガキが騒ぎ出した。正直かなり煩かったが、泣かれるよりはマシだったので適当に流す。
「あんだけ手がかかるガキはなかなか忘れねぇよ」
「嬉しい! じゃ、あの約束も覚えてるよね!」
「は? なんだそれ?」
俺はガキの言葉に違和感を持った。なんのことか全く分からない。
「俺、お前に何か約束したか?」
「したっ! したよ! お別れするときに!」
「んー?」
こめかみに指を当てて思い出そうとするが、全く思い出せない。寝小便の後始末をした記憶ならあるが――
「お別れするときに『今度会う時はもっと一緒にいてやるよ』って言ってくれたでしょ!」
「あー、言われてみればそんなこと言ったか」
服にしがみついてグズるから仕方なくまた会う約束をしたんだった。まぁ、今の今まで忘れてたけど。
俺が少し昔を懐かしんで感傷に浸っていると、ミィの奴が俺の目の前に近づいてきた。
そして、いきなり俺の手を握り、首をくてっと傾げてこう言ってきた。
「じゃ、約束守って私と結婚して」
突然の求婚に俺は――
「ざけんな」
普通にキレた。
別に恋愛系を書いているつもりはないのに、この小説のページ下の小説紹介で恋愛系が増えていて最近驚いています。