変貌
俺と俺に顔を掴まれた辻斬りが酒場の外に出ると、外にはルースがいた。
「………。」
そして、俺はルースに向かって一言。
「…やってくれ」
「わかりました」
俺の言葉と同時に、ルースが俺に手のひらを突き出すように向けた。
ルースの手のひらからは魔術師が使う魔術陣が展開され、俺に向かって放たれようとしている。
だが、それは俺を攻撃するものではない。
「場所はここから大分離れた森の中です。…そこならば存分に暴れられます」
「…わりぃな」
「いいえ、気にしないでください。…気持ち、わかりますから」
「…そうか」
「はい…」
「…そろそろ、『運んで』くれ」
「はい、わかりました…」
ルースはそう言って、手のひらにあった魔術陣を俺に向かって放った。
ボウッ!!
放たれた魔術陣は俺の周りを囲み、俺は魔術陣で四方を囲まれた。
ルースはそれを確認すると、何か集中するように目を閉じる。
そして、
『転移せよ』
そう俺に向かって呟き、俺をある場所に『運んだ』
─王都から離れた森の中─
「…さすがルース。こんな森の中に一発で転移させるか…」
『転移魔術』と呼ばれる、ある一定の場所から場所に特定の物や生物を転移させる事ができる上級魔術がある。
これには術者の能力によって、距離や転移させる物の重量などが制限されるのだが、ルースはその魔獣で男二人を王都から
離れた森の中にやすやすと運んだ。
それはルースが一流の魔術師である証明なのだが…、
しかし、そんな事は今のガルーにはもうどうだって良かった。
今は、ただ…
「やっと暴れられるな。街は人も物も多すぎて駄目だ。『本気』が出せない」
「…あ、…ぁぁ」
「俺は言ったよな? 『本気で殺す』って」
「うぁ…! ぅぁぁ…」
ガルーが手で顔を掴んでいる辻斬りから何か怯えた声が聞こえ始めた。
辻斬りが怯えているのは、一瞬で知らない場所に飛ばされた事への恐怖でも、自分の体に走る激痛からでもなかった。
ガルーはそんな怯える辻斬りに顔を近づけながら、ささやくような声で訊ねた。
「…なぁ、人狼の本当の姿を見たことがあるか?」
「ぁ…ぁぁ…? ぃぁ…!」
だが、辻斬りは言葉を返すことが出来ない。
鼻だけではなく、歯も砕かれいるので口の中がぼろぼろで喋る事ができないのだ。
しかし、喋れない理由はそれだけではない。
「うぁぁ…、ぅぁっ……」
「…聞いても意味がなかったか。…まぁいいか」
そう言って、辻斬りを冷たく見下ろすガルー。
「ひぃ……ひぃ…! ひぃ…!」
そしてガルーは、怯える辻斬りを見ながら最後の会話を交わした。
「ただ、よく『見て』おけ」
そう言って、ガルーは「人狼」へと変わった。
ザワリッ!!
まず、顔が人のそれから獣それに変わった。
黒い体毛が全身から生え、鋭い犬歯と鉤爪が伸びた。
全身が強靭な筋肉に覆われ、一回り以上も大きくなった。
そして、今までガルーが立っていた場所に黒い狼の怪物が現れた。
「ッーーーーーー!!!」
それを見て、辻斬りは堪えらず悲鳴を上げた。
辻斬りは、目の前で変貌していった怪物に恐怖した。
「あぁ…! ぁぁ…いぁ…!」
そして、さらに何か声を上げようとしたが、…それよりも早く。
「…………」
「ひっ…!」
人から獣へと変わった怪物が……、
まるで、憂さを晴らすように。
何度も何度も。
無言でその鋭い牙と爪で、辻斬りの体を引き裂いた。
牙で噛み砕き。
爪で引き裂き。
体の「形」がなくなってしまうまで、ただひたすらに。
『ぶち殺した』
感想お待ちしてます。
次回からは、今回の出来事でテレサに執着度が増したガルーが暴走する話を書いていくつもりです。(あくまで予定ですが)
でも、その前にお見舞いの話とか書きます。