旅立ち
リハビリがてらに書いたものです。
基本的に作者の好きなことを好きなように書きます。
自分に合わないと思ったらすぐに戻るボタンをどうぞ。
ザザッ ザザッ
深い森の中、何かが草を掻き分け走る音が聞こえる。
ザンッ
そして、その音は何かが森を抜けた事で聞こえなくなった。
変わりに聞こえてくるのは人の話し声。
声からしてまだ若い二人の男の声だ。
「…ここまで来ればさすがに大丈夫だろ。」
そう言って一人目の男が今抜けた深い森を見ながら言った。
その男は全身黒ずくめの服を着た黒髪黒瞳の若い青年だった。
黒でないところは、肌と青年の髪を馬の尻尾のようにまとめている白い紐ぐらい。
青年は野生的な顔つきとその格好のせいでまるで盗賊のように見えた。
そして、もう一人の男がその黒ずくめの青年に声をかけた。
「いいのですか? 長年すんでいた集落をこんな方法で抜けて」
黒ずくめの青年に対して、二人目の男が澄んだ美しい声でそういった。
その男の風貌はさきほどの声の主にふさわしく、スラリと背の高い銀髪の青年だった。
まるで女のようにきめ細かく白い肌、細身で均整のとれた体。
そして、その顔はまるで一流の職人が手がけた人形や彫像のように驚くほど整っている。
黒ずくめの青年と同じようにこちらも黒い服を着ているのだが、こちらはどういうわけだかまるで礼服を着た貴族のように見える。
「………。」
その姿をあらためて見た黒ずくめの青年は、銀髪の青年の言葉に憮然として答えない。
そんな黒ずくめの青年の反応に銀髪の青年は苦笑い。
「おやおや、どうしましたガルー? そんな苦虫を噛み潰した顔をしては悪人顔がさらに凶悪になりますよ」
そして銀髪の青年は、黒ずくめの青年に対してかなり傷つく事を苦笑いしながら言った。
それに対して、黒ずくめの青年は銀髪の青年が言ったように苦虫を噛み潰したような顔で銀髪の青年を睨んだ。
「…なぁルース、お前はついてくる必要ないだろ? 自分の領地に帰れよ」
「嫌です。面白そうなのでついていきます。」
「…めんどくせぇ奴だなホント」
「まぁまぁ、そんな嫌そうな顔をなさらずに。こう見えて私結構役に立ちますよ? 領地の人間とは仲良く交流しているので、人間社会の常識や知識も豊富です。…それに」
「あん?」
なにやらルースと呼ばれた銀髪の青年が自分の懐からガサガサと何かを取り出した。
「ほら見てくださいよコレを」
そう言って懐から出したのは指輪や大粒の真珠に宝石。
それを見たガルーと呼ばれた黒ずくめの青年は少し呆れた。
「おいおい、手癖の悪い奴だな。城から盗んできたのか」
「失敬な! これは随分と昔に女性達に送られた貢物の一部です!」
それに対して銀髪の青年は少し怒る。
どうやらネコババしてきたと思われたのが気に食わなかったらしい。
「あー、はいはい。俺が悪かったよ」
ガルーと呼ばれた青年はそう言って投げやりに銀髪の青年を宥める。
「わかればいいのです。わかれば」
「ところでそれをどうするつもりだ」
「街で換金します。」
「…そうかよ」
悪びれもせずにそう言う目の前の銀髪の青年にげんなりするガルー。
しかし、いつまでも森の出口でこんな事をしているわけにも行かないので、少しづつ歩き始るガルー。
それに並ぶようにして歩くルース。
ルースは歩きながら横にならぶガルーに声をかける。
「もう行くのですか?」
「………。」
「せめて一言ぐらい声をかけてあげれば良いではないですか」
「………。」
「…なぜ何も言わずに出て行くのですか?」
「………。」ピタリ。
そこでガルーは一度足を止めた。同時にルースも足を止め、ガルーのほうを見る。
「………。」
「………。」
ガシガシと自分の髪を掻きながら横にならぶルースを睨みつけるガルー。
「なんですガルー?」
「…お前わかってるのか? 集落をぬけるんだぞ?」
「そうですね。何も言わずに、しかも族長候補にもかかわらず」
「………。」
「しかも、名誉あるウルフヘジンの一員なのに」
まるで非難するような言葉をガルーに投げかけるルース。
「………。」
ルースの言葉を聞きながらガルーは、顔を横に向けルースには表情が見えないようにする。
「…まさかそれが後ろめたくて別れの言葉も言わずに集落をぬけたわけではないですよね?」
その様子を見てカンの良いルースは核心をつく。
「…だったらわりぃかよ」
その時だけチラッとだけ顔を向いて、でもすぐそっぽを向くガルー。
それを見て少しばかり驚くルース。普段の彼には珍しく若干動揺している。
「…いえまさかそんな事を気にしているとは思ってもみなかったので。私は貴方をもっと図太い神経の人だと思ってました」
「…うっせぇよ」
ガシッガシッ
ガルーは呟くようにそう言ってから、靴底で地面をこするようにして再び歩き始めた。
「………。」
その様子に苦笑してから小走りでついていくルース。
──こうして二人の青年の旅が始まった。
「それで? 表向きは貴方が反発して集落をぬけた事にしてますが、本当のところはどうなのですか?」
再び並ぶようにして歩きながらこの旅のきっかけを聞くルース。
「あぁ? 別にお前には関係ないだろ」
対して、ガルーは勝手について来た旅の相方に冷たく当たる。
「いいじゃないですか。しばらくは一緒に行動するんですし」
「頼んでねぇ。帰れ田舎に」
「教えてくれたら街で上等の骨付き肉をおごりますよ?」
「…ゴクリ」
その魔法の言葉に生唾を飲み込むガルー。
「………。」
それをニコニコしながら見つめるルース。
しばらく無言のやり取りが続き、ガルーが再度生唾を飲み事で話は続いた。
「…し、仕方ねぇな。教えてやるよ!」
「はいっ!」
口元をふきながらそう叫ぶガルーに笑顔で答えるルース。
だが、
「俺が集落をぬけた理由は、人探しだ」
「はい?」
ガルーの口からでた意外な一言に、ルースの笑顔が崩れた。
「人探しだ。ガキの頃に怪我をしてた俺を手当てしてくれた奴を探す」
「えっと? それだけですか?」
「あぁ」
あっさりと首を縦に振った目の前の青年に、若干ルースの口元が引きつる。
厳格な集落を何も言わず抜け、次の族長や名誉ある職も放棄して、やる事が『人探し』
「えっと、そんな事で集落をぬけたのですか?」
「あぁ」
「次の族長候補だったのに? 名誉あるウルフヘジンの一員だったのに?」
「そーだよ」
「…マジですか?」
完全に呆れているルースの顔を見て、ガルーは少しバツが悪くなった。
「…仕方ないだろ。手がかりが殆どないせいで、どれだけ時間がかかるか分からなかったんだから…」
ガルーは言い訳のような事を言って弁明する。
(おや、意外です。てっきり怒られるかと思ったのですが)
ガルーの様子に少し考えを改めるルース。
目の前の青年の口調には普段のふてぶてしい態度がなく、心なし肩を落としているように見える。
これは少し言い過ぎたと反省し、詳しい話を聞こうと探りを入れた。
「ところで手がかりがないとはどういう事なのですか? 貴方なら鼻で─」
「…さっきも言ったけど、随分昔で匂いをよく覚えてない。なにしろ俺が五つぐらいだったからな」
「…なるほど」
それほど昔のことなら忘れていても仕方がない。
「…ですがそれだと手がかりは、ほぼないのでは?」
ルースはそう言って隣の友人を横目でチラリと盗み見た。
肩でも落としているだろうと思ったが、そうでもなかった。
「いや、実は匂い意外でしっかりと覚えている事がある。」
すっかりいつもどおりのふてぶてしい彼に戻っている。
「ほう。なんですか?」
ルースはそれにホッとしながら相槌をうった。
「そいつは馬車に乗っていた」
「ふむ」
馬車に乗っていた、それなら貴族か商人の可能性がある。
「しかも、かなり豪華な奴だ」
「ふむ」
どうやら貴族の線が強くなった。
「馬車には家紋がついてた」
「おぉ!」
そこまで聞いてルースは驚く。意外にも確かな手がかりだ。
家紋をつけた馬車に乗るなど貴族しかいない。
しかも、家紋は貴族の身分や家名がはっきりと分かる確かなもの。
「手がかりがあるじゃないですか! 家紋を覚えているならその貴族の名前を知っているも同然ですよ!」
「………。」
喜ぶルースとは違いガルーの表情は暗い。しかも、笑顔のルースの顔を見ないように横を向いている。
「それで? 一体どんな家紋だったのですか?」
「…て…い」
ルースが笑顔でそう聞くと、ガルーは呟くような事で答えた。
「え? 良く聞こえなかったのですが…」
「…覚えてない」
「はい?」
意外な一言に固まるルース。
「だから、覚えてない。もう一度見れば思い出すかもしれないけど、何せ五つの頃の記憶だしな、…曖昧すぎる」
「………。」
「一応、相手の髪と目の色だけはしっかりと覚えているから。後はそれを頼りに、王都にいる貴族を虱潰しに探すつもりだ」
「………。」
絶句しているルース。
「…言っただろう? どれほど時間がかかるかわからないって」
そう言ってガルーは固まったままのルースの肩を引っ張りながら歩き出した。
なんとなく思いつきで書きました。
ある程度は急いで書いていき、徐々に更新が鈍足になると思います。