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特異個体 ~転生先は別サーバー~ 死んだらNPCだった私たちは、異世界でプレーヤーを狩ることになりました  作者: NOTAI
第三章 ――二人目の特異個体――

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第29話 いるはずのない魔物

「暇だね」


 最初こそ、ヤコと久しぶりに一緒にいられることが嬉しかった。

 だが、さすがにやることがない。


「ほんまに暇そうやなぁ」


 声に振り向くと、リュミエラが呆れたように二人を見ていた。


「あ、そうだ」


 愛華は身体を起こした。


「なんや?」


「私のステータス、上げてくれたんだよね?

 体力とか、素早さとか」


「上げたで」


「どのくらい変わってるんですか?」


「試してみたらええやん」


「どうやって?」


「ついでにヤコの訓練もしてきたらどうや?」


 自分の名前が出て、ヤコが顔を上げる。


「お前もまだ、こっち来てからまともに魔法使ってへんやろ」


「うん」


「せっかく使えるようにしたのに、

 使い方も分からんままやったら意味ないやん」


 愛華がヤコを見る。


「ヤコ、自分がどんな魔法使えるか分かる?」


「なんとなく」


「どんなの?」


「鑑定と、炎と、氷と、風。それから結界」


 愛華は立ち上がった。


「どこか練習できるところあります?」


「物質界に戻ればええ」


「森ですか?」


「せや。浅層やと大した魔物もおらんし、

 中層くらいまで行ってみたらええんちゃう?」


「中層……」


 大森林は、大きく浅層、中層、深層に分けられている。

 奥へ行くほど危険な魔物が増える。


「まあ、いきなり深層に行けとは言わん。

 中層で適当に魔物とやり合ってきたらええ」


「適当にって……」


「大丈夫や。ヤコはその辺の魔物に負けるようには作ってへん」


 愛華はヤコを抱き上げる。


「じゃあ、行こっか」


「おう。気ぃつけてな」


     ◇


 ――カチッ。


 景色が変わる。

 愛華とヤコは、オルネシアの森に立っていた。


「まずは……走ってみようかな」


 愛華は軽く地面を蹴った。


「――え?」


 景色が流れた。

 慌てて足を止める。


「なにこれ!?」


 思い切り走ったわけではない。

 軽く駆け出しただけだった。


 今度はそのまま走り続けてみる。

 しばらく走ってみても、ほとんど息が上がらない。


「マシマシって、こういうことなんだ……」


 しばらく森を進んだところで、ヤコが突然足を止めた。


「愛華」


「なに?」


「何かいる」


 ヤコが森の奥を見る。


「ちょっと待って」


 ヤコは鑑定魔法を発動する。


「フォレストウルフ。三匹」


「強い?」


「そんなに強くないみたい」


 やがて茂みが揺れ、三匹の獣が姿を現した。

 たぶん、地球の狼より一回り大きい。


 一匹が牙を剥き、地面を蹴った。


「炎!」


 ヤコの放った炎が一匹を吹き飛ばした。

 残る二匹が左右へ分かれる。


「風!」


 風の刃が一匹を切り裂く。

 最後の一匹が愛華へ飛びかかった。


「うわっ!」


 愛華は反射的に横へ跳ぶ。

 フォレストウルフが何もない場所を通り過ぎた。


「愛華、速い!」


「自分でもびっくり!」


「炎!」


 直撃。

 最後の一匹も炎に包まれた。

 愛華とヤコは顔を見合わせた。


「私たち、結構強くない?」


「強いかも!」


 少なくとも、この辺りの魔物を相手にする限り、

 苦戦する気配はなかった。


 さらに奥へ進むと、大きな猪のような魔物が突進してきた。


「結界!」


 ――ドン!


 愛華の前に現れた透明な壁が、突進を受け止める。

 猪が何度も頭をぶつける。

 結界は揺れるものの、壊れない。


「すごいじゃん!」


「でも、ずっと出してるのは無理っぽい」


「じゃあ消して!」


 猪が再び突進する。


「風!」


 結界が消えると同時に風の刃が走る。

 猪の身体が切り刻まれ、血しぶきが上がる。


 やがて猪は動かなくなった。

 最初こそ魔物を見るたびに緊張したが、次第に慣れてきた。


 中層へ入って、しばらく進んだ頃――


 ――ズン。


「……ん?」


 地面が揺れた。


 ――ズン。


 今度はさっきより近い。


「何?」


 愛華とヤコが森の奥を見る。

 木々の間で何かが動いた。

 ヤコが鑑定魔法を発動する。


「……え?」


「どうしたの?」


「ミノタウロスとオーガ」


「…………」


「体力も、素早さも……さっきの魔物よりずっと高い」


 ――ズン。


 木々の向こうから、大きな影が現れた。


「……大きい」


「ヤコ……帰ろ……」


「うん」


 愛華が意識をずらそうとした、その時。


 オーガが地面を蹴った。

 巨体からは想像できない速さで距離を詰めてくる。

 巨大な棍棒が振り上げられた。


「結界!」


 ――ドン!


 愛華の目の前に現れた透明な壁へ、棍棒が叩きつけられる。

 結界全体が大きく揺れた。


 オーガが再び棍棒を振り上げる。


 ――ドン!


 結界にヒビが入った。


「ヤコ、もういい!」


 愛華が地面を蹴る。


「結界を消して!」


 透明な壁が消える。

 三撃目の棍棒が空を切った。


「風!」


 風の刃がオーガを襲う。

 肩から胸にかけて、いくつもの傷が走った。


「効いてない!?」


「効いてる! でも浅い!」


 オーガが咆哮する。


「愛華、後ろ!」


 ミノタウロスが突進してきていた。


「うわっ!」


 愛華は反射的に横へ跳ぶ。

 巨大な身体がすぐ横を通り過ぎ、そのまま大木へ激突した。


 ――バキッ!


 太い幹がへし折れる。

 ミノタウロスが振り返る。


「氷!」


 冷気がその両脚を包んだ。

 一瞬にして凍りつく。

 だが、ミノタウロスが一歩踏み出した。


 ――バキッ。


 氷が砕けた。


「嘘でしょ!?」


 今度はオーガが迫る。

 棍棒が横薙ぎに振るわれた。


 愛華は地面を蹴ってかわし、そのまま走る。


「ヤコ! 炎!」


 愛華がオーガを引きつける。


「炎!」


 ヤコの放った炎が直撃した。

 オーガの上半身が炎に包まれる。

 それでも倒れない。


「もう一発!」


「炎!」


 二発目の炎が直撃し、オーガが大きくよろめいた。


「愛華、ミノタウロス!」


 再び迫るミノタウロスから、愛華は木々の間を縫うように逃げる。


「こっち!」


 愛華が急に方向を変える。

 その先でヤコが身構えた。


「氷!」


 愛華が通り過ぎた直後、地面が凍った。

 ミノタウロスが踏み込む。


 足が滑った。

 巨体が大きく傾く。


「風!」


 横から風の刃が直撃する。

 ミノタウロスの身体がさらに傾き、そのまま地面へ倒れた。


 ――ズン!


「今!」


「炎!」


 倒れたミノタウロスへ炎が直撃する。

 咆哮が響いた。


「もう一発!」


「炎!」


 再び炎が直撃する。

 だが――


「愛華!」


 ヤコの声に振り返る。

 オーガが立ち上がっていた。


「まだ動けるの!?」


 二発も炎を受けたはずだ。

 身体のあちこちが焼けている。


 オーガが棍棒を振り下ろす。


「結界!」


 ――ドン!


 透明な壁が受け止める。

 ヤコの身体が震えた。


「もう一回くる!」


 オーガが棍棒を振り上げる。

 その後ろでは、ミノタウロスも起き上がろうとしている。

 二匹とも倒せていない。


「ヤコ、逃げるよ!」


「うん!」


 愛華はヤコへ走った。

 オーガの棍棒が結界へ叩きつけられる。


 ――ドン!


 愛華がヤコを抱き上げる。

 結界が消えると同時に愛華は全力で走る。

 背後から二匹の咆哮が聞こえた。


 しばらく走る。

 やがて背後から聞こえていた音が遠ざかった。


「……まだいる?」


 ヤコが後ろを見る。


「見えない」


 愛華は、それでもしばらく走り続けた。

 完全に気配がなくなったところで、ようやく足を止める。


「…………」


「…………」


「帰ろう」


「うん」


 ――カチッ。


     ◇


「ミノタウロスとオーガ?」


 神界へ戻った二人から話を聞いたリュミエラが、眉をひそめた。


「うん。中層に入って、しばらくしたところ」


 リュミエラは少し黙った。


「おかしいな」


「え?」


「ミノタウロスもオーガも、冒険者ギルドの分類やとAランクの魔物や」


「…………」


「Aランク?」


「せや」


「Aランクの魔物とやり合えるくらいにしたって言ってましたよね?」


「言うたで」


「二匹いましたけど!?」


「そらキツかったやろなぁ」


「死ぬかと思いましたよ!」


「生きて帰ってきたんやから大したもんや」


 リュミエラが苦笑する。


「それより問題なんは……。

 ミノタウロスやオーガは、普通は中層には出てこん。

 深層の魔物や」


「なんで深層の魔物が、中層に?」


「それが分からん」


 リュミエラは腕を組んだ。

 先ほどまでとは違い、その表情は真剣だった。


「……調べてみる必要がありそうやな」


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