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特異個体 ~転生先は別サーバー~ 死んだらNPCだった私たちは、異世界でプレーヤーを狩ることになりました  作者: NOTAI
第三章 ――二人目の特異個体――

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第26話 お稲荷さんは、怒らせるな!

「局長、アマテラス様から緊急でネット会議の要請が来ています」


「アマテラス様から?」


 愛華を送り出したばかりの局長が、顔を上げた。


「はい。もうお一柱、同席されるそうです」


「誰?」


「宇迦之御魂神様って言ってました」


「……誰?」


「さあ?」


「まあいいや。繋いで」


 局員が操作すると、空中に半透明の画面が浮かび上がった。


 ほどなく画面が二つに分かれる。


 一方には、見慣れたアマテラスの姿。


 もう一方には、局長が初めて見る女性が映っていた。


「こんにちは、局長さん。急にごめんなさいね」


「いえ。お久しぶりです、アマテラス様」


「まず紹介するわね。

 こちらは私の姪っ子の宇迦之御魂神(うかのみたまのかみ)。ウカちゃんよ」


「初めまして」


「彼女は全国三万社の稲荷神社の主祭神で、

 みんなからは『お稲荷さん』と呼ばれている神様ね。

 日本で一番、優しい神様で有名なんですよ」


「ああ! お稲荷さん!」


 ようやく分かったらしい局長に、宇迦之御魂神(うかのみたまのかみ)が軽く頭を下げる。


「宇迦之御魂(うかのみたま)じゃ。今日はそなたに聞きたいことがあってな」


「なんでしょう?」


「能登愛華という娘を知っておるな?」


 局長の表情が、ほんのわずかに固まった。


「……知ってますよ」


「あの娘は、我が社(やしろ)の氏子じゃ」


「そうだったんですか」


「六つの頃から、うちの野狐とも親しくしておる。

 わしもずっと見守ってきた娘じゃ」


「なるほど……」


「その愛華が、ある日突然消えた。肉体も魂も、どこにも見当たらぬ」


 宇迦之御魂の声が低くなる。


「たまたま我ら神々が留守の神無月に、

 たまたま遠方からの依頼があり、

 たまたま祓ったはずの霊が何者かに唆されて現世へ戻った」


 局長は黙って聞いている。


「その後、愛華はこの世界から肉体も魂も、忽然と姿を消した。

 しかも聞けば、そなたはオルネシアなる世界に異能を持つ者を

 たまたま集めておったそうじゃな」


 宇迦之御魂が目を細めた。


「これは全て、偶然なのかのう?」


「偶然ですよ?」


「…………」


 沈黙。


「ほ、本当に偶然です」


「…………」


「いやあ、世の中、不思議なことってあるものですよ…ね」


 次の瞬間――。


「ふざけるな!!」


「ひっ!?」


 宇迦之御魂の怒声に、局長の肩が跳ねた。


「偶然で済むか!

 わしの氏子を勝手にこの世界から消しておいて、よくもぬけぬけと!」


「いや、我々が何かしたとは一言も――」


「まだとぼけるか!!」


「ひぃっ!

 日本で一番優しい神様じゃなかったの?」


「氏子にはのう」


「ウカちゃん」


 アマテラスが穏やかに呼びかける。


「局長さんも困ってるから、そのくらいにしてあげて」


「しかしアマテラス様!」


「ね?」


「……アマテラス様がそう言うのであれば」


 宇迦之御魂は不満そうながらも引き下がった。


 画面の向こうで、局長がそっと胸を撫で下ろす。


「愛華ちゃんがオルネシアへ送られたことは、

 私からウカちゃんに説明しました」


「アマテラス様……」


「それから、元の時間軸には簡単に戻せない事情があることもね」


「そこまで話したんですか……」


「だってウカちゃん、本気で怒っていたんですもの」


 アマテラスは困ったように微笑んだ。


「それでじゃ」


 宇迦之御魂が局長を見る。


「愛華が元の世界へ戻れぬ事情については、一応納得した。

 じゃが、条件がある」


「条件?」


「ヤコも愛華のところへ転生させよ」


「ヤコ?」


「愛華が幼い頃から一緒におる野狐じゃ。

 転移した世界で愛華は、

 一般の民ですら使える魔法が使えないと聞いたぞ?」


「まあ……そうですね」


「ならばヤコを傍につけてやりたい。あれなら多少は愛華の役に立つ」


 局長は少し考える。


「分かりました。そのくらいなら構いませんよ」


「そうか」


 宇迦之御魂が頷いた。


 そして画面の外へ顔を向ける。


「ヤコ。ちょっとこちらへ来い」


「え?」


 しばらくして、一匹の狐が宇迦之御魂の傍へやって来た。


「なんでしょう、御祭神様?」


「愛華のところへ行きたいか?」


「愛華!? 愛華がどこにいるか分かったのですか!?」


「ああ」


「行きます! 僕も行きます!」


「そうか」


 宇迦之御魂は優しく微笑んだ。


 次の瞬間。


 ――スパッ。


「え?」


 ヤコの首が落ちた。


「…………」


「…………」


「…………」


 ネット会議が完全に沈黙した。


 宇迦之御魂だけが平然としている。


「ほれ」


 倒れたヤコを指差す。


「これで転生できるであろう?」


「…………」


 局長の顔が引きつっていた。


 アマテラスも珍しく笑顔を失っている。


「ウ、ウカちゃん……」


「なんじゃ?」


「もう少し……こう、心の準備とか……」


「愛華のところへ行きたいと言ったではないか」


「そうだけど……」


 局長が小さく呟く。


「この神様、怖い……」


「何じゃ?」


「何も言ってません!」


「ならばよい」


 宇迦之御魂は何事もなかったように話を続けた。


「それと、もう一つ」


「ま、まだあるんですか?」


「もし愛華がオルネシアで命を落とした時じゃ」


 宇迦之御魂の表情が真剣なものに変わる。


「その時は、愛華とヤコの魂をこちらへ返してもらいたい」


「それは……」


 局長が初めて即答を避けた。


「オルネシア側の輪廻から外すことは、

 女神リュミエラに相談すれば可能でしょう。

 しかし、時間軸の関係は私の一存では決められません」


「できぬと申すか?」


「いえ」


 局長は慌てて首を振った。


「時間管理局と相談の上、前向きに検討させていただきます」


「……よかろう」


 宇迦之御魂が頷く。


「では、ヤコのことは頼んだぞ」


「はい……」


 やがて二人の画面が消えた。


 静まり返った白い部屋。


 局長と局員は、しばらく何も言わなかった。


「……局長」


「なに?」


「あれが、お稲荷さんなんですね」


「うん……」


 局長は深く息を吐いた。


「お稲荷さんは、絶対怒らせないようにしよう……」


最後まで読んでいただきありがとうございます!


次回『第27話 女神様はどこ?』は11月4日(水)公開予定です。

ブックマークや★などで応援いただけると執筆の励みになります!

よろしくお願いします。


本作品『特異個体 ~転生先は別サーバー~』は、

「カクヨム」「ネオページ」でも公開しています。

毎週 水曜日、金曜日、日曜日に更新予定です。


投稿作業の都合などにより、サイトによって最新話の公開が

多少前後する場合があります。

あらかじめご了承ください。

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