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第二十話:不穏な空気〈後編〉 〜中学生トラブル編〜

僕の名前は、田口すぐる。

小学生の頃から野球をやっていたから、深く考えずに、中学でも野球部に入った。

同級生は顔馴染みばかりで居心地はいいけれど、先輩たちが結構怖くて、早く卒業してくれないかなと願う毎日だ。

入学して数週間が経ち、ようやく生活に慣れてきた頃、野球部の三年生、井口先輩に呼び出された。


「お前のクラスの、吉田さおりを紹介しろ」


その瞬間、僕の脳裏に、あの小学二年生の頃の記憶が濁流のように押し寄せた。

今でも栄養失調のような顔色をしている「一木いちき」とつるんでいた時のことだ。


当時、クラスの頂点にいた一木が「吉田にちょっかいを出したい」と言い出し、僕らはしぶしぶそれに付き合った。

最初は冷やかしのつもりだった。でも、一木の行動は次第にエスカレートした。

抵抗する吉田さんの腕を、後ろから取り押さえる。それが一木から僕に与えられた「役割」だった。


正直、吉田さんは可愛いと思っていた。だから、彼女に触れることに嫌悪感はなかった。

けれど、一木が彼女に頬擦りをした瞬間、僕の心臓の鼓動は変な打ち方をした。

子供ながらに、ここまでしていいのかという罪悪感。吉田さんの絶望した顔を見た時の、申し訳なさと、止めることのできない自分の情けなさ。……涙が出そうになったのを覚えている。

そして翌週、事件は起きた。一木の様子が、明らかに豹変した。


「絶対に、久世と吉田には近づくな……! 何があってもだ!」


必死な形相で訴える一木の目には、得体の知れない恐怖が張り付いていた。

暴力ではない、もっと底知れない「何か」をされたのだと直感した。一木は、僕たち仲間の分まで、久世くんから「制裁」を受けてきたのだと言った。

それ以来、僕らは彼女に近づくのをやめた。自分たちの過ちを悔いる時間は十分にあったし、もう二度とあんな思いはさせたくないと思っていた。


それなのに、井口先輩だ。

先輩は、学校で最も関わりたくない男の一人だ。親がヤクザだとか、悪い連中とつるんでいるという噂が絶えない。

そんな男が、吉田さんに目をつけた。


(……どうすればいい。本当に、どうしよう……)


一木のあの怯えきった顔と、井口先輩の威圧的な態度が、僕の中で激しく交錯する。

不穏な空気が、再び僕らの周りに漂い始めていた。

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