43、野州から来たもう一人の少女
すたっ すたっ すたたっ
松林に囲まれた石段を駆け上がる、一人の少女。
「ほっ! やっ! とっ! ・・・・・・大会、明後日だもんね。神頼みーっと」
それは、寝間着姿でサンダル履きの、りん。
緩やかな明かりが灯る提灯に照らされ、軽快に石段を駆け上がってゆく。
「さーて、私は神様に、中学空手日本一を頼んで、パワーをもらうんだ!」
すたっ すたっ すたっ たたたっ
石段を上まで駆け上がると、神社の境内がりんの眼前にぱあっと拡がる。
ぼんやりとした淡く赤い提灯の明かりと、雲間から差し込む青白い月明かりのコントラストが、大荒井神社の境内を神々しく浮かび上がらせる。
「・・・・・・ん?」
ふと、りんは本殿の方へ目を向けた。その先には、既に誰かがお参りをしている。
「(あらら。先客がいたのね。じゃあ、私も静かにやっていこうっと・・・・・・)」
そそそっ・・・・・・ こそこそこそ・・・・・・ すすっ
りんは、その先客の隣にやや離れて立ち、二礼二拍手一礼の作法通りに、二度、ぺこりぺこりと頭を下げる。そして、二回、やや控えめに柏手を打つ。
隣に立っている客は、さっきからずっと、何かを願ったままだ。
「(・・・・・・隣の人、だいぶ長いお願いだなぁ。私のが先に終わっちゃうかも)」
りんは、ちらりと横目で隣の客を見る。
「・・・・・・全国一に、なれますように。中学空手日本一に、なれますように・・・・・・」
「え! えええ!」
ぼそっと呟くように隣の客が口にしたのは、まさにりんが今、願おうとしていたこと。
びっくりして、りんはつい、大声で驚いてしまった。その声に、隣の客も驚いて、りんとしっかり目を合わせた。どうやら、中学生くらいの少女のようだ。
「あ、あのー・・・・・・。もしかして、あなたも、明後日の大会に・・・・・・?」
りんは、おそるおそる、その少女に問いかけた。
「・・・・・・。どこの代表ですか? そう言うって事は、全国大会に出るんですね!」
その客は、スパッとした物言いで、キリッとした目を光らせてりんに問う。
「ひえ! じ、地元茨城の、大荒井中です・・・・・・。あ、あなたは?」
ざっ・・・・・・ ざっ・・・・・・
観光ホテルのタオルを首に掛け、スニーカーを履いた少女が、りんの方へ向き直す。
「・・・・・・栃木の宇河宮市立宇河二中! 松楓館流、清雲館道場の安藤みかんです!」
「(あ、安藤みかんっ? 確かおじいちゃんが、侮れないって言ってた子だーっ!)」
みかんと、りん。その少女二人は、月明かりの下、静かに火花を散らせ始めていた。




