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潮騒の、すず  作者: 糸東 甚九郎
第7章 夏の空 空手少女と 波飛沫
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44/128

44、京の都から浜辺に舞い降りた少女

   ・・・・・・ざざざぁん・・・・・・

   ・・・・・・さらさらさらさらー・・・・・・

   ・・・・・・ざああぁん・・・・・・

   ・・・・・・ささらさらさららー・・・・・・


 砂浜に寄せる白波が、小さな貝殻を抱き込んでは、ゆっくり沖へと引いてゆく。

 波打ち際の小さなカニは、エサを挟んでせかせかと巣穴へ戻っている。


   ・・・・・・ミャアウー  ミャウウー

   ・・・・・・ミャウウー  ミャウー  ミャウウー


 湧きあがる入道雲に向かって、朝日の中をウミネコたちが飛んでゆく。

 カラスと空中で縄張り争いをしながら、まるで航空ショーでもあるかのような飛び方で、遥か沖合の方へ去ってゆく。


   ざしっ  ざしっ  ざしっ  ざしっ  ざしっ

   だだだだだだぁっ  ざざっ  だだだだだだだぁーっ・・・・・・


 陽の光で煌めく、大荒井海水浴場。

 朝明け直後の光の中で、葉月は一人、今日も砂浜を走っていた。


「ふうっ・・・・・・。もう一本っ! たぁーーーーーーーっ!」


   だだだだだだぁーっ!  だだだだだだだだぁーっ!  ざざざっ・・・・・・


 数秒の間に、砂浜には等間隔の足跡がつく。その足跡を、打ち寄せる白波が、時を戻したかのように消してゆく。


「いよいよ、明日だ! ・・・・・・まずは、団体戦! 明後日は、個人戦っと!」


   ・・・・・・だだだだだだだぁーっ!  ざざあーっ!


 砂を巻き上げ、葉月は走る。ひたすら、走る。とにかく、走る。


「・・・・・・おーい、はづきーっ!」

「ん?」


 道路を渡り、葉月を呼びながら駆けてきたのは、亜弓だった。


「亜弓!」

「うちも、やるよ! ・・・・・・明日も明後日も、大暴れしようね! さぁ、やっぺ!」

「朝が弱い亜弓が、こんな時間からやる気抜群なんて、気合い入ってるねーっ!」

「もちろん! 全国制覇は、うちにとっては世界一への通過点。絶対勝たなきゃ!」

「そうだね! わたしも、翔平たちの試合で火をつけられたし、続かなきゃね!」

「あの剣道部の試合は、本当に刺激になったよね! 行ってよかったっぺ!」

「だねっ! ・・・・・・わたしも、絶対に全国制覇するんだ! 約束したんだもんなー」

「約束?」

「あ・・・・・・。まぁ、とにかく、目標はてっぺんだよね、亜弓!」

「もちろんだっぺ! あー、燃えてきた! やってやるぞぉ! 勝ってやるーっ!」

「よし! やろう、亜弓!」

「うん! はづきにも、負けないかんね!」


 そして二人は、砂浜をまた何本もダッシュする。砂を巻き上げ、波打ち際で水飛沫を上げ、朝日の下でとにかく走り続ける。


「はー・・・・・・はー・・・・・・。や、やっぱりはづきは、すごいね!」

「ふぅ・・・・・・。いやー、亜弓も、かなりスタミナとスピード、上がったよね?」

「磯村さんに誉められたダッシュの初速を、もっと磨いてやるんだ!」

「わたしよりも、初速は速いんだもんね?」

「でも、最終的には、はづきのが速いんだよね」

「そうかな?」

「そうだよ」

「もう一本、試してみる?」

「望むところだっぺ! 負けないよ」


   ・・・・・・ダシュッ!  だだだだだだぁーっ・・・・・・


 同じチームでありながら、ライバル同士のように競い合って走る二人。

 葉月たちが走るその遥か向こうでも、別な誰かが走っている。いったい、誰だろうか。


「わー。鳥がたくさんおるねぇー。ほら、朋子(ともこ)舞子(まいこ)も、見てみぃ?」

「かわいいなぁ。カモメやろか?」

「ちゃうよ。ミヤコドリやろ?」

「えー。ぜったい、カモメやとおもうー」

「あやこ(ねぇ)は、どっちやとおもうー?」

「えぇ? あのなぁ、ミヤコドリは、ユリカモメっていう鳥の、古語やで?」

「そーなん? まいこ、しってはった?」

「しらんー。あやこ姉は、あたまええなー。すごいわー。かっこええなー」

「あやこ姉。あっちみてー? おはなやさんがあるわー」

「本当やね。京とは違う、独特の港町やなぁ。散歩が気持ちええね」

「そうやねぇ。・・・・・・まいこ! かってにそっちいったら、あかんて!」


 小さな女の子二人を連れて、早朝の大荒井商店街を散歩している長身の少女。

 子供たちに慕われ、「あやこ姉」と呼ばれているその少女は、京都府代表の藤川絢子だ。


「ねー。あやこ姉! うみ、いくーっ。とも姉はほっといて、いこー?」

「なにいうてんのや、まいこ! かってにいったら、あかんいうてるやろーっ!」

「ほらぁ、仲良くせなあかんよぉ。朋子も舞子も、朝香道場の躾、忘れたん?」

「わすれとらんよ。うちは、あさがのじじょ、あさがまいこやもん!」

「わたしも、わすれとらん! あさがのちょうじょ、あさがともこやもん!」


 絢子と一緒に散歩しているのは、絢子が所属する朝香道場の娘二人。長女の朝香(あさが)朋子(ともこ)と次女の朝香(あさが)舞子(まいこ)。二人ともまだ幼稚園児だが、かなりハキハキとした子供たちだ。


「はいはい。じゃあ、仲良くせなあかんで。・・・・・・舞子、海へ行きたいん?」

「うん! うみ、いこうやぁー」


 朋子の手を引き、絢子は先を行く舞子を追って、海辺へと向かった。


「まいこは、かってやわ! でも、わたしも、まいことうみであそぶのー」

「濡れたら、師範に怒られるよ? 何だかんだで、姉妹揃って仲ええんやからー」


 子供たちと戯れながら、絢子は大荒井海水浴場の砂を、さくりと踏んだ。


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