44、京の都から浜辺に舞い降りた少女
・・・・・・ざざざぁん・・・・・・
・・・・・・さらさらさらさらー・・・・・・
・・・・・・ざああぁん・・・・・・
・・・・・・ささらさらさららー・・・・・・
砂浜に寄せる白波が、小さな貝殻を抱き込んでは、ゆっくり沖へと引いてゆく。
波打ち際の小さなカニは、エサを挟んでせかせかと巣穴へ戻っている。
・・・・・・ミャアウー ミャウウー
・・・・・・ミャウウー ミャウー ミャウウー
湧きあがる入道雲に向かって、朝日の中をウミネコたちが飛んでゆく。
カラスと空中で縄張り争いをしながら、まるで航空ショーでもあるかのような飛び方で、遥か沖合の方へ去ってゆく。
ざしっ ざしっ ざしっ ざしっ ざしっ
だだだだだだぁっ ざざっ だだだだだだだぁーっ・・・・・・
陽の光で煌めく、大荒井海水浴場。
朝明け直後の光の中で、葉月は一人、今日も砂浜を走っていた。
「ふうっ・・・・・・。もう一本っ! たぁーーーーーーーっ!」
だだだだだだぁーっ! だだだだだだだだぁーっ! ざざざっ・・・・・・
数秒の間に、砂浜には等間隔の足跡がつく。その足跡を、打ち寄せる白波が、時を戻したかのように消してゆく。
「いよいよ、明日だ! ・・・・・・まずは、団体戦! 明後日は、個人戦っと!」
・・・・・・だだだだだだだぁーっ! ざざあーっ!
砂を巻き上げ、葉月は走る。ひたすら、走る。とにかく、走る。
「・・・・・・おーい、はづきーっ!」
「ん?」
道路を渡り、葉月を呼びながら駆けてきたのは、亜弓だった。
「亜弓!」
「うちも、やるよ! ・・・・・・明日も明後日も、大暴れしようね! さぁ、やっぺ!」
「朝が弱い亜弓が、こんな時間からやる気抜群なんて、気合い入ってるねーっ!」
「もちろん! 全国制覇は、うちにとっては世界一への通過点。絶対勝たなきゃ!」
「そうだね! わたしも、翔平たちの試合で火をつけられたし、続かなきゃね!」
「あの剣道部の試合は、本当に刺激になったよね! 行ってよかったっぺ!」
「だねっ! ・・・・・・わたしも、絶対に全国制覇するんだ! 約束したんだもんなー」
「約束?」
「あ・・・・・・。まぁ、とにかく、目標はてっぺんだよね、亜弓!」
「もちろんだっぺ! あー、燃えてきた! やってやるぞぉ! 勝ってやるーっ!」
「よし! やろう、亜弓!」
「うん! はづきにも、負けないかんね!」
そして二人は、砂浜をまた何本もダッシュする。砂を巻き上げ、波打ち際で水飛沫を上げ、朝日の下でとにかく走り続ける。
「はー・・・・・・はー・・・・・・。や、やっぱりはづきは、すごいね!」
「ふぅ・・・・・・。いやー、亜弓も、かなりスタミナとスピード、上がったよね?」
「磯村さんに誉められたダッシュの初速を、もっと磨いてやるんだ!」
「わたしよりも、初速は速いんだもんね?」
「でも、最終的には、はづきのが速いんだよね」
「そうかな?」
「そうだよ」
「もう一本、試してみる?」
「望むところだっぺ! 負けないよ」
・・・・・・ダシュッ! だだだだだだぁーっ・・・・・・
同じチームでありながら、ライバル同士のように競い合って走る二人。
葉月たちが走るその遥か向こうでも、別な誰かが走っている。いったい、誰だろうか。
「わー。鳥がたくさんおるねぇー。ほら、朋子も舞子も、見てみぃ?」
「かわいいなぁ。カモメやろか?」
「ちゃうよ。ミヤコドリやろ?」
「えー。ぜったい、カモメやとおもうー」
「あやこ姉は、どっちやとおもうー?」
「えぇ? あのなぁ、ミヤコドリは、ユリカモメっていう鳥の、古語やで?」
「そーなん? まいこ、しってはった?」
「しらんー。あやこ姉は、あたまええなー。すごいわー。かっこええなー」
「あやこ姉。あっちみてー? おはなやさんがあるわー」
「本当やね。京とは違う、独特の港町やなぁ。散歩が気持ちええね」
「そうやねぇ。・・・・・・まいこ! かってにそっちいったら、あかんて!」
小さな女の子二人を連れて、早朝の大荒井商店街を散歩している長身の少女。
子供たちに慕われ、「あやこ姉」と呼ばれているその少女は、京都府代表の藤川絢子だ。
「ねー。あやこ姉! うみ、いくーっ。とも姉はほっといて、いこー?」
「なにいうてんのや、まいこ! かってにいったら、あかんいうてるやろーっ!」
「ほらぁ、仲良くせなあかんよぉ。朋子も舞子も、朝香道場の躾、忘れたん?」
「わすれとらんよ。うちは、あさがのじじょ、あさがまいこやもん!」
「わたしも、わすれとらん! あさがのちょうじょ、あさがともこやもん!」
絢子と一緒に散歩しているのは、絢子が所属する朝香道場の娘二人。長女の朝香朋子と次女の朝香舞子。二人ともまだ幼稚園児だが、かなりハキハキとした子供たちだ。
「はいはい。じゃあ、仲良くせなあかんで。・・・・・・舞子、海へ行きたいん?」
「うん! うみ、いこうやぁー」
朋子の手を引き、絢子は先を行く舞子を追って、海辺へと向かった。
「まいこは、かってやわ! でも、わたしも、まいことうみであそぶのー」
「濡れたら、師範に怒られるよ? 何だかんだで、姉妹揃って仲ええんやからー」
子供たちと戯れながら、絢子は大荒井海水浴場の砂を、さくりと踏んだ。




