39、栃木代表選手、民宿須々木へようこそ
「じゃっ、注文通りの野菜類ね! いつもありがとさんねー、団ちゃん!」
「悪いな。・・・・・・ゴボウ、ネギ、山菜類、と。『やおなべ』の品揃えは抜群だからな」
民宿の前で、団五郎と田辺が紙袋を持って会話をしている。
「いーってことよー。今日は、ちょっとサービスしといたからさぁ」
「ん? なんだい、これ? 注文してないものが・・・・・・。おぉ! 自然薯だ!」
「いやいやいやいや。まぁまぁまぁ。食べてよ。全国制覇のお祝いには、ショボいけど」
「いや、そんなことはないよ。ありがとう! じゃ、遠慮無くいただくよ」
「団ちゃんの腕なら、良い料理になると思うよ。お客さんにも出すといいわー」
「今日から予約客が入ってるんでね。夕食にも使わせてもらうよ、田辺さん」
「はいはいはいー。ぜひぜひ、食べておくれ。じゃっ、オレはそろそろ行くんでー」
「ああ。また発注するから、よろしく。うちもそろそろ、お客さんが到着するんだ」
・・・・・・ぶるん ぶるん すぱぱぱぱぱ・・・・・・
軽トラックのエンジンをかける田辺。
「そういやぁ、団ちゃん。翔平君のケガは、どーだったんだい?」
「ああ。ヒビで済んだようだ。今は部屋に居るよ。しばらくは松葉杖だな」
「そぉかー、お大事にって伝えてくれやぁ」
「ああ。ありがとう。伝えておくよ。田辺さんちのうまい野菜で、回復させよう」
「ははははは。いやいやいやいや。ありがたい。・・・・・・じゃっ、また」
「ああ。配達ありがとう。また!」
・・・・・・ぶるるるるるぅーーっ・・・・・・ ぱひぱひ!
田辺は窓から手を振り、オンボロなクラクションを鳴らして帰っていった。
・・・・・・ブウウウウーーンッ ブロロロロロ・・・・・・
それと入れ替わるように、一台のミニバン型のワゴン車が到着。
「お! 早いな。もう到着か。・・・・・・いらっしゃいませー」
団五郎は、到着したお客さんの車に近づき、笑顔で声をかける。
車からは、左右に結んだお下げ髪の少女と、三つ編みで眼鏡をかけた少女が大きなバッグを持って、ぴょこんと降りてきた。
「お世話になりまーす! うひょーっ! 雰囲気いいお宿ーっ! すってきーっ!」
「渋くて良い感じ。楽しみねー。現地入りの宿が海辺の民宿なんて、最高だよね」
「ようこそ『釣り船民宿 須々木』へお越し下さいました。須々木団五郎と申します」
少女二人に対し、にこりと爽やかな笑顔を見せて出迎える団五郎。
続いて、運転席からは、ブレザー姿の小柄な老人が降りてきた。
「ふぉふぉふぉ。お世話になるべ。さぁて、ちょっと部屋で、ゆっくりすんべや」
「荷物、お預かりします。いま、お部屋へご案内いたしますので。どうぞ、こちらへ」
団五郎はお客さんのバッグ類を受け取り、老人や少女たちを中へ案内する。
「あれ? ねぇ、そーいえばさぁー・・・・・・」
お下げ髪の少女が振り返り、車の方を見る。眼鏡の少女も、はっとして振り向く。
「・・・・・・あっ! そうだ、降りてきてないね。道中寝てたから、まだ爆睡中かも」
「・・・・・・あ! やっぱりまだ寝てる! おーい、着いたよー? 最近、よく寝るなー」
「なんだや、まだ寝てんのかや。おおぃ、着いたぞい! もう、中へ入るぞい?」
老人やお下げ髪の少女が声をかけると、程なくして、車の後部座席からごそごそと音がした。すると、先に降りた少女たちよりも背が高く、ぱっちりと丸く精悍な目をした少女が栗色の髪をさらりと靡かせ、ゆっくりと車から降りてきた。
「・・・・・・ごめん。あたし寝ちゃってたぁ。・・・・・・んーっ! 潮風が、気持ちいいね!」
「では、改めて挨拶だべ! 栃木県の早風館道場、柏沼北中学校の選手三人じゃわ」
「「「 よろしくお願いします! お世話になります! 」」」
団五郎が出迎えたのは、栃木県代表、柏沼北中学校の選手たちだった。少女三人は、ぺこりと一礼し、賑やかな声を響かせて民宿の中へ入っていった。
栗色髪の少女は、目を輝かせ、自信に満ちたオーラを纏っているようだ。