表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
潮騒の、すず  作者: 糸東 甚九郎
第7章 夏の空 空手少女と 波飛沫
PR
40/128

40、島村師範、唸る

   ・・・・・・リロリロリロリロリー  チッチッチッチッチー・・・・・・

   ・・・・・・ひゅうぅー  さらさらさらさらー・・・・・・


 夜風の中で、虫たちが鳴いている。

 雲間から覗く満月は月虹が架かり、大荒井町を青白く染め上げている。

   

   だああぁんっ!  だだん!  だだだぁっ!

   ドパアァンッ!  ズバアァンッ!  ズバシイィンッ!


 床板を強く踏み鳴らす音と、何かが爆ぜるような音がけたたましく響く。


「たああぁーーーーーーいっ!」


   シュバアッ!  スパァーンッ!


「きゃっ! ・・・・・・うわー。やっぱり、はーちゃんの技、見切れないーっ」

「こぉら! りんッ! 最初っから諦めたら、だぁめだって言ってっぺ!」

「だってぇ、あんなタイミングのカウンター、避けられる人いないよぉー」

「わたしは、避けられたら困るんだけどなー」

「避ける避けないじゃなかっぺッ! バカモン! 勘を研ぎ澄ませんだっぺ!」

「そんなこと言ったってぇー・・・・・・。見切れないしー・・・・・・」


 りんの祖父である島村大二郎師範の喝が飛ぶ。りんは、口を尖らせながらぶつぶつと言って、構え直す。


「りんねーちゃんくらいだよね、師範にあんな感じで口きけるのはー」


 文弥は、りんと葉月の稽古を横目でちらちらと見ている。


「まぁ、たしかに。ほら、ふみや! よそ見してっと、危ないよー」


   シュンッ!  どっがああーっ!


「うおあー。・・・・・・あ、あぶねー威力だね、相変わらず・・・・・・」


 亜弓と組んで稽古している文弥は、いつも軽々と吹っ飛ばされてしまう。

 りんとやっても、葉月とやっても、文弥はいつも三人に敵わず、やられてしまうようだ。


「うち、明後日の試合は、大暴れすっかんね! どう、ふみや? いけそうかな?」

「いけるとおもうー。姉ちゃんよりも、パワーあるもんなー」

「でも、うち、はづきには技術もスピードも、かなわないんだよねー」

「姉ちゃんは、特別だから」

「なにが?」

「りんねーちゃんや、亜弓ねーちゃんらの見えないところで、いろいろやってる」

「なにを?」

「とにかく、鍛えまくってる。技も、からだも、心も、ね?」

「それは、うちも薄々は気づいてるけどなー・・・・・・」

「こぉらッ! 文弥も亜弓も、なぁにサボってんだ! 気合いが足んなかっぺッ!」

「うあ! す、すみません! ほら、ふみや。かかってこいーっ!」

「おりゃー。うりゃー。てりゃー」


   パシンパシン!  パパパッ!  パシンパシン!


 島村師範に一喝され、慌てて文弥の技を受ける亜弓。

 海道館道場の中には、四人の元気な声が響く。

 どかりと座る島村師範は、先日送られてきたトーナメント表を、渋い顔をしてぺらりぺらりと眺める。


「うぅーむ。・・・・・・京都。・・・・・・熊本。・・・・・・そして、栃木・・・・・・か」


 唸りながら、島村師範は腕組みをして、じっと紙を見つめる。


「あー、あっつぅーっ。・・・・・・え? どーしたの、おじいちゃん」

「わたしたちの大会トーナメント? 師範、どうかなさったんですか?」


 りんと葉月は、島村師範のもとに寄り、同じようにトーナメントを眺める。

 亜弓と文弥は、小休止せずにまだ打ち込み稽古を続けている。


「わしは、お前らなら、全国一になれると信じてはいるんだが・・・・・・」

「なるよっ! だって、はーちゃんやあゆと一緒なら、最強トリオだもん!」

「師範がそこまで厳しい顔で唸るなんて。・・・・・・いったい・・・・・・」

「侮れん強敵や、未知数の相手が、やったら多い大会だっぺ・・・・・・」

「えー? おじいちゃんがそこまで言うほどの人が、揃ってるってこと?」


 島村師範は、京都代表選手の名の部分を、指でトントンと叩く。


「京都代表の監督は、朝香(あさが)清久(きよひさ)。わしもよく知る、日本代表だった名選手だっぺ」

「え! そーなの?」

「わたしも、過去の記録で聞いたことはありますけどー・・・・・・」

「その直弟子の藤川(ふじかわ)絢子(あやこ)は、京都一の名門である朝香道場の主軸と聞いてっぺ」

「朝香道場? へー。そんなに有名なんだ?」

「教えてる人が元日本代表だから、きっとそのノウハウが普段からあるんだよ」

「今、葉月が言ったとおりだっぺ。朝香道場は今、京都一どころか近畿一かもしれん」

「そ、そんなに! ・・・・・・あれ? でも、団体戦は反対側の山だね」

「わたし、個人では当たる。準決勝までお互い勝ち上がればねっ!」


 葉月は、目をきらりと光らせ、拳をぎゅっと握る。


「わしは葉月の実力なら、ベスト8までは順調にいくとは思ってんだ」

「師範にそこまで期待されてるんじゃ、絶対にベスト8までは負けらんないっ!」

「だが葉月。こやつも侮れんらしい。栃木の安藤みかんという選手だが・・・・・・」

「え! まだ、強敵がいるんですか。うわー。やっぱり、楽にはいかないかぁ」

「まぁ、京都、熊本、栃木は今回の大会で強豪揃いになるとは聞いたけどさー」


 葉月とりんは、その後も島村師範とトーナメント表を見て話し込んだ。


「ん? どしたのー、はづきもりんも? 何を話し込んでんだっぺか?」

「はー・・・・・・はー・・・・・・。亜弓ねーちゃん、つえー。・・・・・・ん? 何してんの?」


 亜弓と文弥も休憩に入り、島村師範を囲んでわいわいがやがや。


「肥後の鬼道場と呼ばれた『(じっ)黒館(こくかん)』の鍋島(なべしま)(じゅう)兵衛(べえ)。この孫がまた、厄介だっぺ」

「厄介、って・・・・・・。おじいちゃん、それってこの、鍋島あかねって子ー?」

「そうだ。この鍋島は、沖縄空手の古流系統である下地流(しもちりゅう)という流派でな。鍛錬量は恐らく、日本一だっぺなぁ」

「「「 え! 鍛錬日本一? 」」」


 葉月たち三人は同時に、口をぽかんと大きく開けた。


「で、でも、はーちゃん。ほら! 鍛錬の度合いなら、負けてないはずだよ!」

「そ、そうだよね!」

「お前たちの言う鍛錬と、鍋島の鍛錬では意味が違かっぺ! 打たれ強さの問題だ」

「打たれ強さ? 師範。それ、どういうことですか?」

「いいか、葉月。試合は寸止めとは言え、かなり強力な打撃をお互い出してっぺ?」

「え、ええ。そうですね」

「同じ突きでも、軽く触った程度と、重く体の芯に響くのと、どっちが嫌になる?」

「それはもちろん、重い技の方が嫌ですね。もらったら、気持ちが引きますし・・・・・・」

「私も、重い突きや蹴り、もらいたくないなぁー。苦しくなるしー」

「うちは逆に、それを相手に対してやってやっぺ! プレッシャーにしてやっぺよ!」

「それがな・・・・・・今、亜弓が言ったことが、鍋島にはまず通じなかっぺなぁ・・・・・・」

「え! な、なんでですか? うちの突きや蹴りでも、無理ですか?」

「無理だっぺ。恐らく鍋島あかねには、お前たちの技すら軽くなっちまうだろうな」


 亜弓は、島村師範の意外な返しに、驚きを隠せない様子。


「な、なんか・・・・・・もしかして・・・・・・けっこうすごい人達が、集まってるって感じ?」


 りんは、少しだけ顔が青ざめている。


「わしが一番警戒してるのは、これ。栃木代表の監督、早乙女(さおとめ)源五郎(げんごろう)の孫だっぺ!」

「栃木の、早乙女源五郞・・・・・・? 何流の人ですか? わたし、聞いたことないです」


 揃って首を傾げる葉月と文弥。


「わしらと同じ()恩流(おんりゅう)だ。昔、同じ師匠の元でわしと空手を学んだ兄弟弟子だー」

「おじいちゃんの同門って、その人かぁ! え? その人の孫、強いのかなぁ?」

「源五郎は頭の柔らかい男でな。武道としての実戦空手も、競技の空手も教えてる」

「実戦と競技のどちらも教えてるんですか? ・・・・・・ってことは、その孫は・・・・・・」

「同じものを引き継いでっぺな。・・・・・・実力未知数だが、恐らく、かなり強かっぺ!」

「(こんなにすごい強豪揃いなんだ! わたし、なんだか、ワクワクしてきたーっ!)」


 腕組みをして唸る島村師範。しかしその横で、葉月はどんどん目の輝きが増していた。

 島村師範がここまで唸る強豪選手たちは、いったい、どんな実力なのだろうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ