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異世界転生、最後の修行  作者: 地淵育生(ベリー)
女性として生きる
2/29

与えられた力

設定を変更して銃が普及している時代として、記述を変えました。世界観が少し変わってしまいます。すみませんでした。


なお太陽が熱量を増大させるという描写が、『ジョジョの奇妙な冒険』で使われたのをちょっと前に知ったのですが、書き直しのアイディアが思い浮かばず、しばらく放置していました。それが描写された時代は、ジャンプを連続しては読んでおらず、その回に関しては飛ばしていた可能性が高いのですが、有名作品と類似してるのはダメだと判断して今回書き直しました。


気づいた時点で削除なり、書き直しをすべきでしたが、対応が遅れてしまい申し訳ございませんでした。

 

農家の人たちが、手をいれて念入りに育てた野菜の無残な姿が畑に残されていた。おそらく食事目的ではないのだろう、ご丁寧にどの根菜も一口だけかじった後がついていた。青菜を見ると、虫食いではなく指で開けられた穴が、目につく限り網の目のように点在している。農場主の息子でもある、ランセット・アランフェスは、悔しさで歯を噛みしめた。金色の髪の下の表情が曇り、ルビー色の瞳もしっかりと閉じられているのでよく見えない。


ハートバルク共和国の法律により、銃の使用は、徴兵後と定められているので、ランセットは銃の使用許可を得られておらず。彼の父親は外出中で不在だった。


「ドミニク、これをどう思う」腹を立てたランセットは、正直な気持ちをドミニク・シーガルにぶつけた。鼠色のシャツにスラックスの出で立ちで、吐きなれた革靴で何度も地面を蹴っていた。


 ドミニクは、ランセットの怒りを、ただ黙って受け止めている。深緑色の濃い髪の毛が風に揺れる。エメラルドグリーンの瞳は一点を見据えて、何も語ろうとはしない。

シャツの第一ボタンは外してあり、カーキ色のスカートは地面の色と同化していた。やがて、ゆっくりと口を開いた。

「いたずら者には、罰を与える、重すぎず軽すぎず」彼女は目を伏せながら、静かに答える。

「君だって悔しいだろう。なのになんで甘いのか!」ランセットは、憎々しげに畑の端を見た。全身黄土色の小鬼たちが、こちらに向かって盛んに挑発している。手を広げ、尻を向け、大きな口を開けて大笑いをしていた。

「わかった。私の判断でやらせてもらう」ドミニクは、手を合わせて祈る。教会でやる手を組む祈りとは違う彼女独自の方法だ。


 太陽は変わりなく地面を照らしている。ただ、その恵みを罰に変えて小鬼たちに微笑みかけていた。

熱波も輝きも変化せず、日常の太陽が存在しているはずなのだが、邪なる者達には趣を変えて接している。黄色い光は表情を持った顔になり、触手のような舌を伸ばして、悪戯者の顔を舐めまわし始める。天体は狂気に彩られ、天空の星は悪魔の使者に変貌した。


 いつもの太陽とは違った突然の擬人化は、想像力に乏しい悪鬼たちを震え上がらせるのに十分だった。恐怖という物語に放り込まれた主役たちは、命乞いをしその場から立ち去った。


「太陽も月も操れるのに、することはこれだけか」ランセットはドミニクをののしった。

「あやつらも生き物、むやみに殺さない」

「いつも、甘いんだな。魔王の国にはもっと凶暴なモンスターが出てくる。もし、家族がモンスターに殺されたら、どうする?」

「モンスターを殺したところで、家族は帰らない」

「優等生過ぎる返答だな。何かの宗教か?」

「自分の心と対話しただけだ」


 ランセットは、いつまでたっても、ドミニクが本気を出さないのが歯がゆかった。星を自由に操り、その気になれば、モンスターを一瞬で殲滅できるであろう能力を持ちながら、聖職者のような思想で生きる彼女に不満を抱いていた。いいや聖職者だって魔王には厳しいだろう。彼女は魔王をも許すかもしれない。そんな危惧が心の中をしゅん巡した。


 ドミニクは、ランセットを放置したまま、自分の住処へと歩いて行った。残されたランセットは、何度も地面をけり続けている。農場を過ぎると、小ぎれいな住宅が立ち並ぶ街並みへと変わっていった。その中の似たようなデザインの住宅に埋もれてしまったような、こじんまりとした家に吸い込まれるように入って行った。


 ドミニクは、家に入ると通りに面した窓に、営業中の札を掛けた。しばらくすると、調味油の焦げる匂いがして、腹をすかせた男女が、ちょっとした軽食にと訪れる。彼女の仕事は軽食屋だ。彼女が生まれた家には何もなかった。他人に(ほどこ)せる物が何もないことは、少女時代の彼女の心を悩ませた。何も持たなかった彼女が与えられるものは、手早く料理をして食物を分け与える事だった。だから、彼女の店はどこよりも安く、彼女一人が食べるに十分な金額しか受け取らなかった。


 「やあ、今日も一段と艶やかだね」街中では名士との誉れも高い、ドノバン・ラッセルが来店してきた。ブラウンの髪で青い目をしたハンサムな男は、見え透いたお世辞を言うと、ドミニクに軽く視線を送った。彼の父親は政治家で、選挙で何度も選ばれている。親の七光りなのか彼も羽振りは良かった。

彼は折り目のついた紺色のジャケットに身を包み、カウンターの一番目立つ席に座った。

「ご注文は?」

「いつものやつをお願いする」

ドミニクは、ハムを切り分け、ニンニクとアスパラガスを炒めた。隣にはゆがいたジャガイモを添えた。


「ところでそろそろ、僕と組まないかね」カウンターから視線を送り、ドミニクの反応をチラ見している。

「なんのことだ」サフランライスに焦げ目をつけながら、彼女はあえて関心がなさそうに呟いた。

「あなたは強い。その強さを目に見える力にしたくないかな」自信ありげな薄笑いを浮かべたまま、核心を切り出した。

「おあいにく様、力とか支配とか、興味がない」冷たく言い放つと、型押ししたライスを皿に乗せた。

「惜しい、実に惜しい。モンスターや悪にまみれた世の中を平和にしたくないかい」ドノバンは、気品ある手さばきで、料理を口に運び、その傍ら彼女を味方につけようと画策していた。


「ごちそうさま」ドノバンはナプキンで口を拭くと、代金を支払った。

「実に良心的な料金だが。もう一つの良心を世の中に役立てないか」

「私は自分の務めは果たしている」今日も彼女はドノバンの誘いには乗らなかった。


 なぜ彼女は無欲なのか。それは転生前の彼が、ドミニクになったからだ。まさかまた女性に生まれ変わろうとは彼も予想していなかった。そして、彼女は、前世の素質を魂にしまいこんだまま、モンスターや魔王がいる今の時代を生きている。


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