1/31
第一話 戦わずに済むなら、それが一番
「……女?」
敵城の広間に通された藤本澪を見て、最初に飛んできた言葉はそれだった。
「はい。女ですけど」
澪は何でもないように答えた。
戦国の世で、女が敵城へ赴き、当主や重臣を相手に和議をまとめるなど珍しいことだった。
侮られている。それは澪にも分かっていた。だが警戒されるより、話しやすい。澪は地図を広げ、「欲しいのはこの土地ですか。それとも、こちらが攻めないという安心ですか」と問いかけた。領地を奪えば新たな国境が生まれる。安全が欲しいなら、砦を増やさない、一定数以上の兵を集める時は互いに知らせる。その方が話が早い。
「何を根拠に信用せよと?」
「一回約束破った人と、次また話し合いたいと思います?」
広間に笑いが起こった。こうして、半年間の試験的な盟約が結ばれた。後に『藤本初盟』と呼ばれる最初の一歩だった。
帰城した澪を待っていたのは、多々見友政だった。
「おそ」
「いや、間に合ったやろ」
「集合の刻限から半刻過ぎてるけど」
後に夫となる男との、長い長い戦いもまた、この頃から始まっていた。




