リムルの町
リムルの町へと到着すると、温泉があるのか、硫黄のような匂いが漂っている。
馬車が止まり、御者が階段を荷台の後ろに設置し、乗っていた人が馬車から降り宿屋へと向かっていく。
私も馬車を降り、ふと横を見るともう1台の馬車の姿があった。
恐らくリーツェからラウルへと向かう便だろう、その馬車からも何人もの人が降りてきている。
あれに乗ればラウルへと帰れる……。
そう思うと、ラウル行きの馬車から目が離せなかった。
「カナ、どうしたの?早く宿屋に行こうよ」
「……うん。そうだね」
ミーナに言われ、私はハッと我に返る。
私はこれからリーツェに向かうんだ……。ラウルに帰る時は……、各地を巡って、元の世界に帰る手掛かりが見つからなかった時だ……。
その時まで、ラウルに帰りたいという気持ちを心の奥底へと仕舞い込んだ……。
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リムルの町は、ラウルとリーツェの中継地点と言うことで、幾つもの宿屋と食堂、さらに酒場やスケベ通りほどではないけど、そっち系の店までもが立ち並んでいる。
宿屋はリーズナブルな素泊まりの所からお風呂付き、さらには食事とお風呂付きといった所まである。
ミーナの話を聞く限りでは、お風呂と食事付きの宿屋は、高いところだと元の世界で言う所の旅館に近いらしい。
「カナ、宿屋どこにする……?」
「う~ん……、あまり高いのはね~……」
「じぁあ、お風呂が付いてるのと付いてないのだと、どれがいい?」
「付いてるやつがいいかな~……」
「それじゃあ……、ここは……?」
ミーナは一軒の宿屋を指差した。
そこはログハウス風の建物で、割と年季の入っていそうな宿屋だった。
料金を見ると、一人一泊3千エント。値段は手頃だ……。
「うん、いいよ」
「じゃあ、入ろうか」
中に入ると、初老の女性が受付にいたので、台帳に記帳をして、1泊分のお金を支払うと中へと入った。
部屋の中に入ると、外見と同様にログハウス風な割と年季の入っていそうなシンプルな作りの部屋で、ベッドが2つ置かれており、あとは小さなテーブルが置かれている程度だ。
部屋に装備と荷物を置くと、お風呂へと向かった。
◆◆◆
「こ……これは……っ!?」
脱衣所へとやって来た私はあるものを見て驚いた……っ!
なんとそれは体重計だ……っ!
しかも、田舎の銭湯とかによく置いてありそうなタイプだ……!
「た……体重を測ってみようかな……?」
ど、どうする……?いや、うかつに挑むのは危険すぎる……!
でも、今の自分を知る上でこれは避けられないような気もする……っ!
「し……、失礼しま~す……」
私は目を閉じて恐る恐る体重計に乗る……。
久しぶりだし、異世界だし体重計さんもきっと手加減してくれる……。
そう、この世界の体重計さんはきっと優しいんだ……!
私はゆっくりと目を開いて体重計を確認する……!すると自分の目を疑った……っ!
「んな……っ!?」
ふ……増えてる……っ!
ほんの数キロだけど体重が……増えてる……っ!?
体重増加という現実を突き付けられ、無限とも思える絶望が私を襲う……っ!
いやいや……!これは何かの間違いだっ!そうだ、着ているものが重たいんだ……っ!
私は裸になってもう一度体重計に乗る……。しかし、大して変わらなかった……。
その分胸が育ったのであれば少しは納得も出来るが、残念なことに胸の大きさは変わらない……。
なんてこと……、こんなことならお昼に食べたサンドイッチを半分くらい残すんだった……。
この世界の体重計は容赦がないってこと……?いや、もしかしたらここは異世界だから重力が元いた世界より少し強いのかもしれない……!きっとそうだ、うんっ!!
とりあえず、食べる量減らそう……。
私は事実から目を背けて、そのまま温泉へと向かった。
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「な……っ!?」
お風呂場に向かうと、私は再び驚愕した……!
お風呂は屋内温泉で脱衣所は男女別々で浴場はかなり広い所までは良いのだけど、温泉は混浴だった……!
しかも「タオルの着用はご遠慮ください」とまで書かれている!
なので、老若男女種族問わずみんな大事な所を隠さずに堂々と裸でうろうろしているため、変に恥ずかしがっている私のほうが異質に思えてくる。
「あれ……?カナどうしたの?」
私が脱衣所を出てすぐのところで固まっていると、後ろからミーナが声をかけてきた。
振り向くと不思議そうな顔で私を見ている裸のミーナの姿があった。
「そこで固まってないで温泉に入ろうよ。」
ミーナが歩くと、その大きな胸がユサユサと揺れていた。
対して私の胸は相変わらずのペッタンコ……。
「おや……?あなた方は……確か同じ馬車でしたよね……?」
ミーナの胸の大きさに精神的なダメージを受けながら歩いていると、一人の男性に声をかけられた。
「えっと……?」
声のする方へと顔を向けると、そこには見覚えのない男性の姿があった。
「私ですよ、ほら、同じ馬車に乗っていた旅の僧侶です」
そう言われてよく見ると、確かに馬車に乗っていた僧侶だった。
だけど、僧侶の割に身体がかなり筋肉質で引き締まっており、特に気になったのは額についている鬼の角だ。
「おや……?この角が気になりますか……?」
私の視線に気がついたのか、僧侶は額の角を指差した。
「僧侶さんは鬼族なんだね」
ミーナは特に気にする風でもなく当たり前のように接していた。
鬼とか初めて見たよ……。
それにしても、鬼が僧侶というのも……違和感があるなぁ……。
「おや……?そちらの人間の方は鬼が僧侶をするのがそんなにおかしいですか?」
「い……いえ……!そんなわけでは……!」
「いえ、いいんですよ。実際鬼の私が僧侶をしていることに対し奇異の目で見てくる方が多いのは事実です……」
自嘲気味に苦笑する僧侶を見て、私は変な目で見てしまったことに罪悪感を覚える……。
「私は鬼の性に抗うために僧侶となりました。今もまだその道の途中です。人をみかけだけで判断してはなりません。先程、貴女はご自分の胸の小ささを嘆いておいでだったようですが、だからと言ってそれで貴女の価値が決まるわけでは無いのです。大事なのはその人の内面なのです」
「そうだよ、カナ。胸なんてただの飾りなんだから……!」
「飾りというのも違いますよ。良いですか?どんな生き物にしろ、無駄な部位といのは無いのです。特に女性の胸というものは……」
その後、温泉に浸かりながら僧侶の説教をしばらくの間、聞かされる羽目になったのだった……。
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