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訓練

「お、カナちゃんおはよう。ちょうどいいところで会ったな。ちょっといいか?」


 翌朝。

 部屋から一階へ降りたところで、グレンさんに呼び止められた。


「グレンさん、おはようございます。私に何か仕事ですか?」


「まあ、仕事と言えば仕事なんだが……近々、冒険者ギルド主催の“戦闘訓練”をやるんだ。参加してみないか?」


 グレンさんは“戦闘訓練”と書かれた依頼書のような紙を見せてきた。

 依頼主は冒険者ギルドになっている。


「訓練……ですか?」


「ああ。新人冒険者を対象に、ベテラン冒険者が直々に戦い方を教えるってやつだ。どうだ?」


 戦闘訓練……。

 昨日、私は自分の実力を過信して危険な目に遭ったばかりだ。


 でも、実力をつけられれば、例えあんな状況でも生き残れるかもしれない。


「分かりました。参加します」


「おお! そうか! 新人の戦闘経験を底上げしたくてな。ただし、報酬は出ないどころか参加費として5千エント払ってもらうが……いいか?」


「はい。私の経験になるなら……」


 私は財布から5千エントを取り出し、グレンさんに渡した。


「確かに受け取った。訓練は三日後から一週間だ。無事に終えればEランクに昇格させてやる。場所は東門を出た平原だ」


「分かりました。ところで、指導役は誰なんですか? グレンさんですか?」


「俺はもう引退して長いからな。指導するのはディン達、それと他にも数人のベテラン冒険者だ」


 なるほど……。

 ディンさん達に教えてもらえるなら、確かにすごい経験になりそうだ。



◆◆◆



 三日後。

 訓練場所の平原に行くと、私を含めて十人ほどの新人冒険者が集まっていた。


「お、集まってるみたいだな」


 しばらくすると、ディンさん達四人がやって来た。


「えー……俺達が今回の指導役だ。よろしく頼む」


「ディン、お前説明下手だな……。改めて説明するぞ。俺達が君たちの指導を担当する。得意武器の扱いはもちろん、魔法の基礎も教える。希望者は俺たちとの模擬戦も受け付ける」


「というわけで、まずは基礎訓練だ! 全員、素振り五千回!」


「ええーーっ!!」


 参加者全員から悲鳴のような声が上がった。


「言いたいことは分かるが、素振りは基本中の基本だ。俺も一緒にやる。文句言わずやってみろ!」


 ディンさんの一言で、渋々素振りが始まった。

 私もその一人だ。


---


「4995……4996……4997……4998……4999……5000っ!! はぁ……はぁ……終わった……!」


 素振り五千回を終えた私は、その場にへたり込んだ。


 レザーグローブ越しでも手が痛い。

 たぶんマメが潰れている。


「よし。次は木剣を渡す。適当な相手と模擬戦だ」


 木剣を受け取り、近くにいた若い男性冒険者と向かい合う。


 どこから攻めるか……と考えていると、相手が先に動いた。


「はっ!」


 男性冒険者が突きを繰り出す。


「たあっ!」


 私は横に避け、そのまま腹部に木剣を叩き込んだ。


「ぐっ……!くそ……!女なんかに……!」


 男性冒険者はうずくまり、負け惜しみを吐く。


「それは違う。男だから強い、女だから弱いなんてことはない。君の敗因は“相手が女だから”と甘く見たことだ」


 アルトさんが厳しい声で言い放つ。


 その言葉は、私にも向けられている気がした。


---


「では次、別の相手!」


 今度は木槍を持った女性冒険者。

 槍を構え、臨戦態勢だ。


「はあっ!」


 私が斬りかかるが――


「やっ!」


「うあっ!?」


 木槍の突きが腹に入り、私はしゃがみ込んだ。


「槍と剣ならリーチの先で槍のほうが有利だ。剣で槍に勝つには、まず懐に入る必要がある。その感覚は自分で掴むしかない」


「はい……!」


 ディンさんの言葉に私は頷くと、もう一度挑戦を申し出た。



◆◆◆



 数時間後。


「よし、今日はここまでだ」


「はぁ……はぁ……終わった……!」


 ディンさんの声で、ようやく訓練初日が終わった。


 私は疲労で仰向けに倒れ込む。

 他の参加者も同じように、座り込む者、倒れ込む者……全員が疲れ切っていた。


 素振りの後は、参加者全員と何度も模擬戦。

 手は痛みを通り越して感覚が薄い。


 こうして、訓練初日は幕を閉じた。



◆◆◆



 その夜。


「痛っ……痛たた……!」


 お風呂のお湯に手を浸けると、染みて痛みが走る。

 手はマメが潰れ、身体も痣だらけだ。


(ディンさんは平気な顔で素振りしてたけど……あれが一流冒険者ってことなんだろうな)


「ねえ、訓練ってメッチャきつくなかった……?」


「そうそう、いきなり素振り五千回はないよね~」


「あたしなんて手のマメ全部潰れたよ……!」


 湯船の向こうで、今日の訓練に参加していた女性三人が愚痴をこぼしていた。


「素振り終わったら終わったで、何時間も模擬戦だし……身体ボロボロよ~」


「強くなりたいけど、あそこまでして強くなりたくないよね~」


「ねえ、明日どうする?」


「私パス~」


「あたしも~」


 そして、私に話が振られる。


「あなたはどうするの?」


「え……? 明日の訓練……?」


「そう。あなたも今日で辞めちゃう?」


「私は……どうしようかな……」


「無理しないほうがいいよ。男たちも全員ヘロヘロだったし。それじゃ、先に出るね」


 三人はそう言って出ていった。


(明日……どうしよう……)


 考えるのは明日にしよう。

 私はしばらく湯に浸かり、疲れを癒やした。


 部屋に戻った後、ベッドに倒れ込んだ瞬間、意識が落ちた。

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