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二色の瞳を持つ猫は知っている  ―今日も路地裏の片隅から人間を見つめて―  作者: 霧崎薫
路地裏の覗き猫 ―アメノメ、京都の学舎にて―
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第5章:初冬の試練

 木枯らしが吹き始めた朝、私は図書館の暖房の吹き出し口の近くで、温かな空気に身を寄せていた。


(寒くなると、人間は集まって温もりを分け合うにゃ~、それは猫も一緒だにゃ~)


 今日は、いよいよ合同セミナーの日。研究室には、緊張した空気が漂っている。


「発表資料、もう一度確認を」


 澪が、画面に映し出された資料を見つめている。椿と星加の両方の研究手法を組み合わせた、新しい古典研究の可能性について発表するのよ。


「大丈夫ですよ、葉月さん」


 空が励ますように声をかける。


「私たちの発表も、準備は万全です」


 葉月は小さく頷く。彼女と空は、若手研究者の立場から見た新しい研究アプローチについて発表する予定なの。


 その時、予期せぬ事態が起きた。


「大変です!」


 千景が駆け込んでくる。


「地下書庫で、水漏れが! 貴重な資料が危ない!」


 その言葉に、全員が動き出す。


「すぐに現場へ!」

「資料の救出を!」


 椿と星加が、同時に声を上げる。


(危機の時こそ、人は一つになれるにゃ~)


 私も階段を下りていく。地下書庫では、古い配管の破損で水が漏れ出し、貴重な文献が危機に瀕していた。


「まず、この棚から!」


 澪が指示を出す。


「デジタルデータのバックアップは?」


 星加が確認する。


「はい、主要なものは」


 葉月が答える。


「しかし、まだスキャンしていない資料も」


 空が心配そうに付け加える。


「それこそが、今守らなければならないものだ!」


 椿の声が、静かに響く。


 全員で力を合わせ、資料の救出作業が始まる。古い文献を丁寧に運び出し、安全な場所へ。デジタル機器を水から守り、データを保護する。


 その時、千景が気づいた。


「あの写本が!」


 先日発見された貴重な和歌集が、水に濡れそうになっている。


「私が!」


 澪が飛び出す。


「危ない! 天井から!」


 空の警告の声。古い天井から、ひときわ大きな水滴が落ちてくる。


 その瞬間。


「葉月さん、よけて!」


 空が葉月を突き飛ばす。水滴は二人の間に落ちた。


「大丈夫ですか?」


「は、はい……」


 葉月の頬が、少し赤くなる。


(若い人の心って、こんな時に動くにゃ~)


 私は少し離れた場所から、その様子を見守っている。


「皆さん、応援に来ました!」


 図書館スタッフや施設管理の人々が駆けつける。


「修理班も、すぐに到着します」


 全学を挙げての救援活動に。


「ここは私たちに任せて、セミナーの準備を」


 千景が、若手研究者たちに声をかける。


「でも」


「大丈夫。これも図書館の仕事よ」


 彼女の確かな声に、皆が頷く。


 数時間後、事態は収束に向かっていた。貴重な資料は無事に保護され、水漏れも応急処置が完了。


「さて」


 椿が立ち上がる。


「これからが本番だな」


 星加も頷く。


「困難を乗り越えた後は、新しい発見がある」


 二人の言葉に、若手研究者たちも力を得たように見える。


(人間って、危機を乗り越えると強くなるにゃ~)


 私は窓から、セミナー会場に向かう人々を見送る。

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