第6章:春風に寄せて
早春の風が、キャンパスを吹き抜けていく。私は時計台の近くで、新しい季節の訪れを感じていた。
(春は、また新しい物語が始まるにゃ~)
合同セミナーは、大きな反響を呼んだ。伝統的な研究手法とデジタル技術の融合。そこから生まれる新しい可能性に、多くの研究者が関心を示したの。
「本当に、ありがとうございました」
澪が、椿と星加に深く頭を下げる。
「いや、私たちこそ」
星加が言葉を返す。
「君たち若い世代の、新しい視点に教えられた」
椿も、珍しく優しい表情を見せる。
「これからの古典研究は、きっと」
その言葉に、全員が頷く。
研究室では、葉月と空が新しいプロジェクトの相談をしている。
「この手法で、他の古典作品も」
「はい。私も、協力させてください」
二人の間には、確かな信頼関係が育っているのが分かる。
(若い人って、素直に成長できるにゃ~)
図書館では、千景が新しい企画を立ち上げていた。
「デジタルアーカイブと実物資料、両方の良さを活かした展示を」
その構想に、多くの賛同の声が集まっている。
「藤堂さんの案、素晴らしいですね」
澪が声をかける。
「みんなのおかげよ」
千景は優しく微笑む。
「これからの図書館は、もっと開かれた場所に」
その言葉には、確かな希望が込められている。
私は桜の蕾が膨らみ始めた木々の下を歩く。一年前、この場所で始まった物語。それは今、新しい段階に入ろうとしている。
「来年度からの共同研究、楽しみですね」
星加の声が聞こえる。
「ああ、君の技術と、私の経験が」
椿も、期待を込めて答える。
(人間って、分かり合えれば強くなれるにゃ~)
キャンパスには、新入生らしき若者たちの姿も見え始めた。彼らは、どんな物語を紡いでいくのだろう。
「あら、猫ちゃん」
千景が私に気づいて、声をかけてくる。
「この一年、ありがとう」
彼女は、何か分かっているのかしら?
「また新しい物語が始まるわ」
その言葉に、私は静かに頷く。
確かに、物語に終わりはない。伝統は受け継がれ、新しい風は吹き続ける。その狭間で、人々は成長し、繋がっていく。
私は、また歩き始める。
どこかで、新しい物語が始まろうとしているはず。
それを見つけ出すのが、私の役目なのだから。
(さて、次はどんな出会いが待っているかにゃ~)
春の風が、私の背中を優しく押していた。




