第6章:新しい朝
朝もやが晴れ、ゴールデン街に新しい一日が始まろうとしている。
(人間って、毎日生まれ変わるのにゃ~)
私は、いつもの場所から街を見下ろしている。
「おはようございます!」
今朝も、みのりが早朝清掃を始めている。でも、その姿は昨日よりも凛としているように見える。
「ああ、おはよう。今朝も早いね」
巧が声をかける。彼も今日は、いつもより晴れやかな表情。
「昨夜は、良い音が出たよ。久しぶりにね」
その言葉に、みのりは優しく微笑む。二人とも、何かを見つけた人の表情をしている。
通りには、新しい人影が。
「志乃ばあちゃん、おはようございます!」
千紗が『キャッツアイ文庫』に駆け込んでいく。
「あら、珍しく早いのね」
「はい! 新しい小説、書き始めたんです」
彼女の声には、確かな手応えが感じられる。
「それは良かった。漱石先生も、きっと喜んでくれるわ」
志乃ばあちゃんは、優しく微笑む。
「今度の主人公はね、夜の街で生きる人たち。昼と夜の顔を持つ人々の、優しくて切ない物語なんです」
その言葉に、私は耳を立てる。
(人間って、他人の人生からも学ぶんだにゃ~)
通りの角では、陽斗が荷物をまとめている。
「地方公演、頑張ってきます」
みのりが、温かな笑顔で見送る。
「きっと、素敵な舞台になるわ」
陽斗は深く一礼をして、新しい一歩を踏み出していく。
そして玲奈。今朝は、いつもと違う道を歩いている。
「編集部に、原稿を送ったの」
彼女は、私の存在に気づいていたみたい。
「ペンネームで。本名は伏せたまま。でも、それでいい」
玲奈の表情には、強さと安らぎが混ざっている。
「これが、私の選んだ道だから」
朝日が、街を明るく照らし始める。人々は、それぞれの場所で新しい一日を始めようとしている。
みのりは『カフェ・モーニンググローリー』の準備を。
巧は大工の仕事へ。
千紗は新しい物語を紡ぎ始める。
志乃ばあちゃんは、今日も古書店で人々を迎える。
陽斗は、新しい舞台に向かう。
玲奈は、昼と夜の狭間で自分の道を歩む。
(人間って、不思議な生き物にゃ~)
私は路地の片隅で、そんなことを考える。
この街で出会った人々は、みんな何かと戦っている。夢、現実、孤独、そして自分自身と。でも、その戦いの中にこそ、人間らしさがあるのかもしれない。
昼と夜が交差する街。
そこには、まだまだ知らない物語が眠っている。
「さて、今日はどんな出会いがあるかにゃ~」
私は朝の光の中を歩き始める。
この街の、新しい物語を求めて――。