【幕間】石のお嬢様2
アンネは私から採取した魔石で何かわかったことがあるかタロウさんに聞いていました。
強めの口調で聞いたので私は驚きました。今までこんなことなかったのに・・・アンネのあの表情、必死さどこかで見たことがあります。・・・思い出しました。
母が無くなる時、あんな表情をしていました。
タロウさんはアンネの質問に対して、淡々と答えます。
驚くことに、一番の原因を特定したというのです。
信じがたいですが帝国のとある村で得られた結果と合わせて教えてくれます。羊皮紙に手書きでまとめられた物を見せられると信憑性が高まります。アンネも驚いていました。
彼は、より長い滞在時間を求めてきました。さらに情報を集めたいそうです。
アンネは当然のように拒否してきます。だけど私は今、彼がやることを止めるべきではないと思います。根拠はありません。
ウィリアムの事をバカにできませんね。私も感だなんて。
私は窓の外を見ながら滞在時間の延長を許可しました。だけど一言余計だったようです。
アンネは目に涙をためていました。以前も昔から仕えてくれているメイドを悲しませてしまいました。昔から当家に仕えてくれている方ほど私を見て悲しそうな表情をします。
それから、彼はメイドとして本当にお世話をしながら、私の生活を観察していました。彼にとっては関係ないメイドの仕事もけなげにこなしてくれるので、いつの間にか私は心を許していました。
そして彼は私をお嬢様のように扱ってくれます。最近入ってくる若いメイドたちは私の事を怖がって近づこうとしません。だからとても新鮮でした。例えそれが遊びであると分かっていても楽しかったです。
「リナお嬢様、お食事をお持ちしました。」
「入りなさい。」
食事を終えます。今日は二週間に一回のお祈りの日です。この日は神に感謝し、そして食べ物のありがたみに感謝する日です。祭具を用いて、神への感謝を述べるのです。
タロウさんは祭具を使うことを珍しがっていました。
確かに彼はまだこれを見たことがありませんでしたね。これは亡き母から受け継いだ大切な物。母が死の直前に手渡してくれたものです。
私は心を込めて、しっかりと握り、祈りを捧げます。
ああ、しっかりと祈りが届いていることが分かります。気のせいか私の病気にも効いている気がします。本当に祈るだけで治ったらいいのに・・・。
祈りを終え、顔を上げるといつもはニコニコしているタロウさんの顔が貼りついていました。何か悪い事でもあったのでしょうか?
*
*
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悪いことがあったのは私の方でした。
このペンダントから魔石の反応があった?ペンダントを使って祈りを捧げることが病気の進行を速めていた?そんなはずがない!だってこれは亡くなった母も使って・・・そうです。母も同じ病気でした。
私はペンダントにお願いしました。どうか、どうか何もありませんように、魔石とは関係ありませんように・・・
次の日、午前中にウィリアムが来ました。どうやら弟は兄であるデールと何か不思議な約束をしているみたいです。私がしっかりとしていれば、文句一つでも行ってやるのですけど。
またアンネにお願いして、様子を確認してもらうしかありませんね。以前は体中に青あざを作っていたので心配です。どうかこの後もデールに会わずに戻れますように。
しかし物事というのは思うようには進んでくれません。タロウさんがやってきました。検査の結果を伝えに来たのでしょう。
当然、タロウさんが伝えてくれた結果は私が望まない物でした。どうしてこうなるのでしょう。私が何をしたというのでしょう。
皆が怖がるから、この塔の上から出ないようにして、デールが領内の文書を読んだり、まとめたりするのが苦手だから、お父様がいないときは私が代わりをしているのに。
毎日、熱心にお祈りを捧げて全ての物に感謝していたのに、その行動が逆に病気を進めていたなんて!神を信じれば、毎日努力して入れば、救いがあるのではないの!?
私は今どんな顔をしているのでしょう。怒っているのか、悲しんでいるのか、私にもわからない。
タロウさんの顔を見ることはできませんでした。
何かを言っていた気がしますが頭に入ってきません。そういえば左の耳は魔石に覆われて聞こえづらくなっていました。そのせいかもしれません。いえ、きっとそのせいでしょう。
今日は誰にも会いたくない。
もういい生きることに希望を持つのも、楽しむのも、もうたくさんだ。こんな風に落ち込むぐらいなら、もう何もせずそのまま生きて死のう。
タロウさんはいつのまにか、いなくなっていました。私が帰したのでしたっけ?もうどうでもいいことです。
その日からしばらく、タロウさんは来ませんでした。
来なければ来ないで気になってしまいます。何をしているのか気になった私は、数少ない懇意にしてもらっているメイドにお願いして街に入っている冒険者の調査ということで調べてもらいました。
彼は目立つし、すぐに見つかるでしょう。
そして分かったことはもう少しでこの街を出ていくということでした。お仲間の冒険者と予定を話し合っていて期限は1週間もないということでした。
どうやら本当に神はいないようです。もうこんな思いはしないって決めたのに何で私はまたこんなに悲しいんだろう。もう何もわからない。
どれくらい寝ていたでしょうか。普段からあまり活動は多くないのに最近は睡眠時間が伸びています。アンネがカレンダーを変えてくれていて、そんなに経っていないことが分かりました。時間はいつの間にか夜になっていました。
魔石ランプが煌々と光って部屋を照らしています。これもアンネがつけてくれたものでしょう。時期に魔素が切れて、暗くなるでしょう。
喉が渇きました。水を飲もうとベッドから移動しようとしました。だけど私の脚は言うことを聞きません。
当然です。私の両脚は完全にくっついていて関節も曲がらなくなっていました。魔石化が知らずのうちに進行していたのです。
ああ、私はもう一人歩くことすらできなくなったのですね。
そう思うと涙が出ます。泣いたってしょうがないのに。
扉をノックする音が聞こえました。誰でしょう?こんな時間に来るのはアンネでしょうか?
「タロウです。失礼なのは承知できました。緊急なんです。」
私は心が締まるような気持でした。急いで涙をぬぐい、招き入れます。
こんな時間に訪れるなんてなんて非常識な人!少し八つ当たりをしたくなりました。
すると彼はあっさりとこの街を去る事を認めました。
なんて薄情な方なんでしょう!?
しかし彼の顔は自信に満ち溢れていました。なんでも最後に試したい事があるそうです。
そう言いながら劣化した魔石を床にちりばめます。何をする気なのでしょうか?
そうすると彼は私の左腕に劣化した魔石を押し付けました。そしてじっと押し付けている部分を見つめて集中しています。
途端に私の左腕についていた魔石の色が失われて、劣化した魔石が色を付けていきます。何が起こっているのでしょう?こんなこと今までありませんでした。タロウさんはある程度進んだところで劣化した魔石を離し一息つきます。
腕についていた魔石は色が変わっていました。少しだけ暖かい?
タロウさんは色が変わった部分を軽く曲げようとしました。
やめて!そんなことしたら、また、あの痛みが!
するとパキンッという音を立てて魔石が折れたのです。今までは大変な労力を払わないと折れなかった魔石がこんなにも簡単に!?
折れた魔石はタロウさんが握りつぶしました。大した力を加えたようには見えませんでした。
タロウさんは痛みが無いか聞いてきました。でもそんなこと最初は耳に入ってきませんでした。だって何をやっても取れなかった魔石がこんなにもあっさりと折れたのですよ。
理解できないままオウム返しで、痛みは無いと答えました。
タロウさんは作業を続けます。
治るかもしれないと思った。私は心が熱くなり涙がいつの間にか流れます。私はいつからこんなにも涙もろくなったのでしょう?母が亡くなってからウィリアムが不安にならないようにずっと気丈に振る舞ってきました。病気になってからも心配をかけないように振る舞っていました。ずっと強く生きてきたつもりなのに・・・
やがて足に付いた魔石や腕に付いた魔石をすべて取り除きました。
動く!動かせる!もう二度と動かせないと思っていたのに。
私は嬉しくてしきりに手足を動かします。力が入る感覚が分かります。タロウさんは方法論を書面に残すと言い、道具を片付け始めました。上半身やその他の部分は女性にやってもらうと良いと言います。
何を言っているのでしょう?今、彼をこの場から逃してはいけない気がしました。




