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オタク、線をまたぐ  作者: 物理試す


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【幕間】石のお嬢様3

彼は今日、帰るというのです。

なんということでしょう!今、私の体に付いた魔石を破壊できるのはタロウさんだけだと言うのに。

私は服を脱ぎました。勢いで脱いでしまってちょっと恥ずかしいですが、このチャンスを逃すわけにはいきません。

タロウさんは目を伏せます。そして服を着ろといいます。

何をしているのですか!さあ、早くやってください。


タロウさんは背中から魔石を剥がしていきました。流石に前の方や腰は大変恥ずかしかったですが、きれいにやってもらいました。

残りは頭に付いた魔石です。タロウさんは少し怖気づいているようです。

何を怖がっているのでしょう。ここまでやっておいて。

私の覚悟を聞くとタロウさんも覚悟を決めて作業を始めました。

私の答えは変わりません。


魔石をとり終わるとタロウさんが何かをおっしゃっていた気がしますが、私の耳には入ってきません。

私はフラフラと姿見の前に行きます。

早く見たい。あの悪夢の日々から解放されたい。その気持ちでいっぱいでした。

魔石無しで歩いたのは数年ぶりなので違和感でふらついてしまいます。それに体がすごく軽いです。こんなにも変わるものなのですね。

姿見に写ったその姿は久しぶりに見た。でも始めて見たような気分にもなる自分の姿でした。

これは本当に私なのでしょうか?一夜にして全身の魔石がなくなり、動き回れるようになりました。夢を見ている気分です。

体を左右に揺らし、よく観察します。すごい、本当に治っている。

私はタロウさんに向き直りお礼を伝えます。今までタロウさんに抱いていた気持ちが恥ずかしくなるぐらいの衝撃です。

お礼も早々にうれしくて、まともに歩くことができないのに歩き回ります。タンスを開け適当に服を漁ります。

案の定私は床に躓きました。

タロウさんに受け止められます。


男性の方に抱き着いたのは何時ぶりでしょうか?父を除けば初めてかもしれません。ちょっと恥ずかしいです。

そうだ!あれをお願いしてみましょう。同年代くらいの男性は身近にいないので叶えられそうなうちに夢をかなえておきたいです。


「タロウさん、私、この病気が治ったらやりたかったことがたくさんあるんです。ダンスなんです。パーティーで来た方々が庭で楽しそうに踊っているのを見てうらやましかったんです。よければ私のダンスのお相手をしていただきませんか?」

そういうとタロウさんは一瞬困ったような顔をしましたが、了承してくれました。

タロウさんはお世辞にもうまいとは言えませんでしたが、それは私もまともに動けないのでおあいこです。

音楽が無いのは少し寂しいですね。

気づいたころには自然に口ずさんでいました。

楽しい時間は私が疲れて足をもつれさせて終わりました。


タロウさんはもうすぐこの町を出ていくそうです。昨日まではあんなに呆れていたのに、たった一晩で寂しく感じます。我ながらまだまだ子供だと思いました。

報酬の話になりました。

私はどれぐらい求められるのかと身構えましたが、何もいらないと言いました。それは示しがつかないので何かないかと聞きます。

すると手紙を頼まれました。王立図書館に行きたいそうです。なんでも勇者伝説を調べているそうです。今更、勇者伝説など・・・不思議な方ですね。

時間もないということでタロウさんは颯爽といなくなりました。


私も普段はこんなに活動していないので疲れてすぐに眠りました。

だけどタロウさんが来る直前まで、ずっと寝ていたので日が昇り始めたころにまた起き上がりました。


起きてすぐ、服を全部脱ぎ全身を確認しました。体のどこにも魔石はありませんでした。あれは夢ではなかったようです。

よかった。そう思ってまた自分の体をじっくりと観察した後、服を着ていないのが恥ずかしくなって急いで着替えました。


朝日が窓から入ってきます。いつもと変わらない朝なのに、生まれ変わった気分です。

感動していると後ろからアンネが入ってきたことに気づきませんでした。

アンネは私の姿を見るなり悲鳴を上げました。まるで化け物でも見たかのようです。

「お嬢様!?大丈夫なのですか。お加減に変化はございませんか?」

アンネが飛びついてきました。


そうか一日で姿形が変われば驚きもしますよね。私は昨日の夜あった事を話しました。

「あの冒険者、時間外に来て勝手にやることだけやって帰るなんて身勝手な人ですね。普通に昼頃来ればよかったのに。」

「アンネ、口調が崩れていますよ。彼は今回行った事や今までに分かっていることをまとめてくれました。これをもとに生活をしていれば悪化することは無いとのことでした。」

「こんな文書まで。」

アンネに数枚にまとめられた紙を眺めていました。

「アンネ殿何かありましたか!」

長年、家に仕えている執事や近衛兵も飛んできました。皆さん昔から当家に仕えている方ばかりです。そして私の姿を見て呆然としていました。


それからというのも屋敷の中はてんやわんやになりました。

最終的に父である。サイモン・ローリングに呼び出されました。ここに来たのはいつぶりでしょうか。

私は父の執務室で椅子に座っています。弟も呼び出されていて、私とは違い立っています。

今、目の前では父がタロウさんの残した資料を読んでいます。

「それで、ウィリアムが屋敷にその冒険者を招き入れて、私に報告なく、勝手に治療を施したということか?」

ウィリアムは緊張で顔が貼りついています。大方ここまで考えていなかったのでしょう。


「いいえ、違いますわ。私がお願いして、それを実行してくれただけです。すべての元凶は私にあります。」

「姉さん、それは・・・」

私はウィリアムに視線を合わせて制しました。

「そうか。今回の件、屋敷に見ず知らずの者を招き入れたばかりでなく見ず知らずの術を使った。この事はあまりにも危険すぎる。屋敷は我々が住むというだけでなく街の治安維持や財政も担っていて不用意に部外者を入れていい場所ではない。よって重い罰を課す。」

やはりこうなるだろうと思った。と言ってもほぼ無料で手に入った新治療法や結果的に何もなかった事を加味して謹慎処分ぐらいだろう。

私もすぐに動き回れるわけではない。どうせまたこの人は私をあの塔の上に幽閉するのでしょう。

その間、しっかりと体を鍛えて動き回れるように準備する。

「しかし新治療法として使える文書等を考慮して不問とする。」

「「えっ!?」」

声が重なった。私とウィリアムだ。

「何を驚いているんだ?まさか何か罰があると思っていたのか?」

「・・・はい、正直そう思っておりました。」

「無料で新治療法が手に入った事、特異であるが有力な魔術使いとコネクションを気付けたこと、そして何よりお前の病気の進行を止められたこと。これだけの事があって何故罰を仮す必要がある?」

「・・・ありがとうございます。お父様。」

「下がりなさい。私は忙しい。」

私たちはその言葉を聞いて、部屋を後にした。


領主の部屋にて執事が駆け寄る。領主の命令を受けるためだ。

「この報告書に従い、リナの行動範囲にある全ての魔石を別の物に変えよ。」

「承知いたしました。・・・旦那様、よかったですね。」

「ああ」

領主はそれだけ答えて窓を見る。その目には涙がいっぱいに溜まっていた。


もう一人屋敷の中で今日起こった変化に過剰に反応している人間がいた。デールである。彼は自室で頭を悩ませて、うずくまっていた。そんな彼を支える人がいた。彼の母である。

「大丈夫よデール。今までと何も変わらないわ。あなたは自身を持って私の言うことを聞いていればいいわ。」

「そうだね。母さん」


あれから2~3日が経った。

以前聞いていたタロウさんの予定だと、昨日あたりから明日にかけてこの町を通るはずだ。私は会えるはずもないのに、今まで住んでいた塔に上っている。長年住んでいた部屋だ。いまさら離れるのもここ残りだ。

ちょうどいいトレーニングにもなっている。

我ながら単純な自分が嫌になる。確証もないのに外をじっと眺める。タロウさんが深夜に侵入したせいで冬としては異例なほど夜間警備が多い。こんな状況じゃ屋敷の近くまで来ていても中には入ってこれないだろう。

諦めて、新しく貰った自室に戻ろうとしたとき、塀の外で見たことが無い色の光が無作為に揺れていた。

タロウさんだ。タロウさんに間違いない。

私は反応を返そうと、部屋を見渡した。でも何もない。私が行動する範囲にある魔石を含むものは一切合切が片付けられ、代わりの物が届くまで空のままだ。

急いで塔を駆け降りる。足はまだまだ細い、急いでいるのにゆっくりとしか降りれないのがもどかしい。何とか一階までついた。でも・・・

「リナお嬢様、こんな時間にどうなされたのですか?」

アンネだ。

「まさか、タロウさんが来ているから外に出たいとはおっしゃりませんよね。」

「わかっているならそこを通してほしいのだけど。」

「なりませんよ。今回はお嬢様の病気が回復したから、おとがめなしにできたのです。次はありません。貴族としての立場、振る舞いを考えていただきませんと。何より今は夜です。淑女が出歩く時間ではありません。病み上がりでもあります。」

今の私に彼女を突破することはできないだろう。ならば・・・


私はアンネに伝言を頼んだ。確かによく考えれば今、街の中に出るのは私にとってリスクが大きい。私が外でも安定して活動できるように環境を整えよう。

焦ることは無い。ようやく可能性が見えたんだ。ここで諦めてなるものか。やりたいこと全部やってやるぞ。

私は決意を胸にあたらしい自室へと自力で戻った。


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