はざまの戦地-5
顎が割れた頭が落ちている。
じゃあ、ドラゴンは!
なんと、頭を失ったはずのドラゴンは、魔素で形づくられた頭を持っていた。
肉眼ではっきりと認識できるほどの魔素濃度だ。
ドラゴンの体はどんどん崩れていき、胸だけが残る。それ以外の部位は魔素で形成されていた。
まだ・・・戦えるというのか。
だけど分かる。あの胸に見える巨大で高濃度の魔石がヤツの中心だ。あれを破壊すれば・・・この戦いは終わる。
もう、攻撃手段は残されていない。
試す必要など感じないほど、あの胸の魔石は頑丈だろう。生半可な攻撃は意味がない。
ノイマンの時のようにはいかない。
やるしかない。
この世界の全ての物質は魔素を持つ。特に魔石は魔素そのものが固まった物質だ。
魔素が無くなれば、ボロボロと崩れて行く。
ドラゴンの魔石だって例外じゃない。
ただし、通常の魔石から魔素を抜き取るのは、かなり難しく、出来る人間は限られる。
ましてやドラゴンの胸に埋め込まれ、さらにはあの純度。
俺だって、直接触れる必要がある。
あんな状態のドラゴンに直接触れて、魔石の中身だけを吹き飛ばすなんて、一体どうなってしまうのか。
頭の中に自然と家族の顔が浮かぶ。俺は・・・まだ死ねない。死ぬつもりはない。
出来ることは何でもやろう。
とある魔法を発動し、動きの悪い右足に力を入れる。
よし、準備ができた。
一度上空へ大きく上昇し、ちょうどいいところで、下降を始める。
風の魔法で一気に加速し、右足で蹴りつけるような姿勢になる。
速度は音速を超え、右足の先にある空気が空力加熱によって色が変わるほど速度を上げる。
ドラゴンの胸を目掛けて一直線に進む。
これならドラゴンも対応できないだろう。
しかし俺の予想を簡単に裏切るように、ドラゴンの頭や腕が形を変え、雷や炎が飛び出る。
超音速を超える俺の一撃に追いつき、攻撃を当てた。
攻撃が当たったはずの俺は、その形が崩れ空中に霧散した。
ドラゴンをこの場に呼び寄せた時に気が付いた。
ドラゴンは視界に映るものより、魔素に反応していることが分かった。
だから今、ドラゴンが反応したものは、俺が魔素で作ったダミーだ。
ドラゴンがどんな攻撃をするか分からなかったから、ちょうどよかった。
「お前がこの速度に対応できるのは、分かり切っていたからな」
魔素を全く出さず、後から遅れて、ドラゴンの胸に到着した俺は、右足を触れさせる。
ここからだ。
触れただけで分かる。なんて魔素濃度だ。これを押し出すのはかなり難しい。
だけど・・・
俺は右足の少なくなった魔素に集中する。
さらに細かく体の魔素をとらえていく。
右足の魔素を原子レベルまで細かく認識し、完全に掌握する。その魔素が触れる魔石にじわじわと広がっていく
つながった。
自分の足から流れる魔素と魔石内部の魔素が連結し、魔石を完全に手中に収めた!
ふと気づいたころには右足が完全に魔石内部に埋まっていた。
いや、魔石化していた。
いまさら止まることなんてできない。
このまま、周囲に魔素を吹き飛ばす。
自分の手中に収めた魔素が、ドラゴンの体を介して、世界中に拡散されていく。
あまりに濃度が濃い魔素は肉眼でもはっきりと捕えることができた。
それはまるで、流れ星のようにも、花火のようにも見えた。
ドラゴンはどんどんと魔素が失われていく。体は小さくなり輝きを失っていった。
それでも抵抗が休まることはなく、大きく体を振り回すした。
バキンと大きな音がする。
タロウの右足が根元から折れ、滑落する。
しかしタロウの表情は自信に満ち溢れていた。
アレクが空中でタロウをキャッチし、その場を離脱する。
「全く、相変わらず無茶をしますね。」
「世話をかける。」
アレクが一瞬にして離れると同時に、控えていた魔術部隊が一気に魔法陣を起動する。
あれだけ魔素を拡散すればもう十分だ。
タロウの確かな確信は、数分ののちに巨大な魔石として、その場に析出した。
終わった。終わったんだ。
治療を受けながら、ドラゴンの討伐を完了したことに感銘を受ける。
「相変わらず、無茶苦茶でしたが、素晴らしい功績でした。」
治療を受ける俺の隣にドカッと座り、同じく休息取り始めるアレク。
自分でも回復を行い、ひとまず状況を確認する。
まず右足だが・・・無くなっていた。ひざ下から先がない。
回復の魔石は失ってしまった物を回復することはできない。
俺の右足はおそらくあの中だろう。
視線の先には、一際大きな魔石があった。
元ドラゴンであったものだ。
完全に気配は消え、100%魔石だけがそこにあった。
魔石の周囲にはボロボロになった戦士たちが各々に体を休めていた。
ケガ程度に差はあれど、死人はいないようだ。
さすがは世界中から集まった有力な戦士たちだ。鍛え方が違う。
歓声はなく、安堵の溜息だけが聞こえてくる。
信号弾を打ち、あらかじめ遠方で待機していた。後発部隊が来るのを待つ。
一日とかからず、王国側から現れるだろう。
しかし、長いこと戦闘をこなしていたせいで、もう日が落ちかけていた。
一泊野営をすることになる。
アレクやクララ達と火を囲みながら、夕食をとっていた。
さすがに時間が経ったおかげで、会話が戻ってきた。
何もない夜の野原に、人々の声がこだまする。
「タロウ、この功績により、あなたの国は世界のどの国も無視することができない、格式ある国となるでしょう。」
「どうしたんだよ。急に」
アレクは神妙な面持ちで、話始める。
「話半分に聞いてください。あなたは優秀ですが、抜けているとこがありますからね。」
「余計なお世話だ。」
無くなってしまった足をさすりながら、話声に耳を傾ける。
「大きく、そして歴史のある組織は腐敗を生みやすい。私の一族は当時から外交をしていなかった王国の数少ない他国との窓口でした。」
珍しい。このようなことを話すのは
「一部の者たちが、うまい汁だけを吸おうとしたわけです。しかし、それがボナパルトの一族に見つかり、粛清となった。私から言わせれば当然の報いだと思いました。」
その反動か、アレクは強く正義にこだわる。
「優秀なあなたならわかるはずです。今後の国家運営には一層の注意を・・・」
俺はアレクの話を止める。
「心配するな。少なくとも王があり続けるのは俺の時だけだ。」
「どういうことです?」
「アレクは道具の力を知っているか?」
何を言いたいのかわからないという表情だ。
「道具には人々の持つ力を平等にする効果があるんだ。」
「平等ですか。」
「そう、だから、俺の国に住まう人々もそのうち、俺やアレクと同等以上の力を持つ日が来る。」
「私はともかく、あなたと同等とは考えられません。」
「必ず来る。それにそう遠くない未来に、そんな国でただ力が強いだけの王様は王様足りえるかな?」
アレクは押し黙る。
「俺はいづれ、あの国の行く末をみんなで決めて、みんなで過ごしていく国にしようと思っている。お前の正義が必要なんだ。これからもよろしく頼むよ。」
「ふっ、やはりあなたは面白い人ですね。」
夜が明けるころには、王国から部隊が到着し、入れ替わるように俺たちは岐路についた。
女帝への報告矢協議、戦後処理をしているうちに、あれよあれよと月日が経ち、半年もたったころ、ようやく落ち着いた。
夜
俺の足に触れながら、リナがマッサージをしてくれていた。
「だいぶ状態が良くなりましたね。」
「ありがとう。いろいろと世話をかけるね。もう少しで義足が完成するから。」
「本当ですよ。ボロボロで帰ってきたときは、本当に心配したんですから。」
頭の中に、片足を失った俺を見たノエルとリナのあわってぷりが思い起こされる。
ふと、リナの手が止まる。
「足、戻したくありませんか?最近子供たちも元気に走り回ってますし、あなたが望めば。」
俺は迷うことなく、返事を返すことができた。
「ありがとう。でもいいんだ。技術の発展に期待しているから。」
幾年もの日々が過ぎていった。
かつて、魔王の国と呼ばれた国家は、名前はそのままに、されど魔王は統治することなく、市民が主体となって運営される国家へと変貌していった。
それは、かの国だけではなく、様々な場所で、大小の争いを生みながらも世界中で発生した。
そして、魔王と呼ばれた男は、世界の渡り方について、生涯にわたり研究を行ったことが記録されている。
最後には、大家族に看取られながら、初代にして、最後の王として深く、その国の歴史に刻まれた。
以上で「オタク、線をまたぐ」は終了となります。
人生で初めての長編となり、様々な経験を積むことができました。
紆余曲折あり、長期休みもありましたが、何とか終了までたどり着きました。
キャラはもっと、こんな感じで、とか、世界観は、あんな感じで、と振り返ってみると、直したい場所が山ほど出てくる次第です。
ですが、物語を作り出す制作の楽しさや形になっていく喜びを感じることができました。
今後は誤字・脱字を中心に修正を施し、完成度を上げていきたいと考えています。
またゆっくりとなりますが、キャラクター紹介ページの制作なんかもやっていきたいです。
このような素人の長文を読んでくださり、感謝いたします。
最後に全体の感想や評価を頂けると、今後の創作活動の励みとなりますので、よろしくお願いいたします。
!!ありがとうございました!!




