第六話 伴出、勝利す
盗賊がサワキの振るう異様なほどに切れる剣に怯えていると、どこかから声が聞こえてきた。
「なにビビってるの」
サワキがあたりを見回す。
「サワキ様後ろですにゃ!」
遠巻きに見守る猫少女ルーシーの声で後ろの建物を見上げると、屋根の上には山道で出会った二人組。
「また会ったな、カッパ殿」
「ちげーっつってんだろ!」
「今度は逃がさないよ」
勝手に逃げたのは二人の方だが、要するに復讐のために追ってきたというわけらしい。
「ミーシャ逃げろ!」
となれば、狙われるのはサワキだけではなく、猫の少女もである。
「サワキ様、にゃーはルーシーですにゃ!」
「言ってる場合か!」
そうこう言っているうち、美しい顔の盗賊ムツが銃らしきものを取り出してルーシーへと向けた。撃つためではない、逃がさないためだ。
「それでも貴様ら我々の部下か」
顔に傷のある方の盗賊シンが上着を脱ぎながらサワキの前に下りた。
「改めて自己紹介するよカッパ様、僕達はこのあたりを牛耳る盗賊ムツ&シン」
「人呼んで“ラストファイターツイン”」
「お、名作」
「?」
「なんでもない。それで、どうしようっていうんだ?」
「こうして素手の男が立ち塞がっているんだ……わかるだろ?」
シンがそう言うと周囲の盗賊達が色めきだった。
「勝負だ……素手でやっちまう気だぜシン兄貴のやつ……」
「ヒュー! ステゴロだ! お得意のステゴロだ!」
「やっぱりムツ×シンよね」
緊張の糸がはりつめる中、サワキは周囲を見渡しながら考えた。
ムツと呼ばれる方の男が持つ銃についてである。それは、サワキのいた世界でパーカッションリボルバーと呼ばれていたものだった。細かくはレミントンのニューモデルアーミーだ。古いものだが、今でも条件さえ揃えば使えるものだ。
条件さえあえば。
サワキの視力は高く、ムツの持っているリボルバーの詳細を見てとらえることができていた。
どこからどう見ても銃口が塞がれている。
(あれ美術品として加工された古式銃だよなぁ……)
もちろんそんなものから無理に弾丸を発射すれば暴発し、射手が怪我を負うことになる。
つまりルーシーに関しては心配いらない。ということは、人質はないに等しい。ならば……
サワキは目の前に刀を掲げ、フワリと落とすかのような素振りを見せた。
周囲の人間の目がそれを追う。
しかし、低く落ち始めた刀は動きをとめ、シンと呼ばれる傷の盗賊に向かって動きはじめた。刀を握り直してサワキが駆け出したのである。
声を出す暇もなくサワキはシンに迫り、身をひこうとするシンの体を掴み、足をかけ、そのまま押し倒した。
「ひ、卑怯な……!」
盗賊の首には銀の刃が光る。
「構うな! 撃て! あの猫を撃ってしまえ!」
サワキは薄く笑った。撃つことで彼らはもっと追い詰められるからだ。
しかし……
「ま、待ってくれないかカッパ様! シンを離してくれ! ほら、この通りだ!」
ムツは意外なほどあっさりと銃を手放した。それだけではない。
「おまえらも退け! 退くんだ!」
部下に命令して撤退させると、地面に下りてきて泣きながら相棒の命乞いまでしだしたのである。
二人組の盗賊はなかば自ら捕まり、町に起こったトラブルは解決した。
「サワキ様無事ですかにゃ」
おずおずと猫少女が近づいてくる。
「無傷だけど、無茶しすぎだよミーシャ」
「ルーシーですにゃ。無茶はサワキ様ですにゃ、あれだけの人数相手にほぼ素手で挑むなんて」
「まあ、困ってる人がいたら放っておけない性分でな! 人徳あるからな、オレは! ガハハ!」
目一杯体を膨らませてサワキは笑った。
「自分で言いますか、それ」
「でもおまえもそうだからオレを助けたんだろ、大事な荷物までオレに貸してくれてさ」
「まあ、にゃーはよくできた猫ですからにゃ、有能オブジョイトイですにゃ」
ぺたんこの胸を目一杯反らせてルーシーはサワキの真似をした。
「ジョイトイかどうかは知らないけど、それならコンビでも組むか! コンビ名はツインゴッデス(1994年ポリグラム)で!」
「絶対にイヤですにゃ」