第五話 伴出、斬る
サワキの足が地を駆け、逃げる人々の間を抜けてその中心へと向かっていった。
やがて見えてきたのは武器を持った何人もの荒くれ者達だった。それらは手にした凶器を容赦なく人に向けている。脅し、金品を強奪していたのである。
「やめい!」
サワキが叫ぶ。
「なんだぁ?」
「旅人か? ずいぶんボロいじゃねえか」
「狼藉はよせ、この町は平和そのもの、おまえらの居場所などない」
「なんだとこの丸腰が」
数人の荒くれが生意気なサワキに注目する。
サワキはナイフに手をかける。しかし、抜かない。得物としてはどの道不十分、いざというときの備えにしかならないからだ。
「その人を放せ」
「ああ? こいつか? おらよ!」
乱暴に、放り出すように町人を突き飛ばす男。
男達は少しばかりにやけながらサワキに寄ってくる。手にしている剣は曇っていてうっすら錆の浮いたナマクラではあったが、十分に殺傷力のあるものだった。
脅すかのような空振り確実の一振り二振りを注意深く避けて、サワキは敵を自分に集中させはじめた。目配せし、周囲の人を逃がすと一人、建物を背にしてわざと囲まれた。
しかし作戦はない。武器もない。その瞬間瞬間の無鉄砲な判断である。
「ぐえっへっへっへぇ」
わざわざゲスっぽく笑う盗賊達。
「オレ、ピンチ!!」
元気よく親指で己を指差すサワキ。正直ふざけていたが、本当にピンチである。
緊張感に欠けるサワキに盗賊の剣が振り下ろされようとした瞬間……
「サワキ様! これを使ってくださいにゃ!」
追ってきたらしいルーシーがサワキに長物を投げた。
サワキはくるくるとブーメランのように回転して翔んでくる得物をジャンプしてしかと受け取ると、着地し半回転しつつ引き抜いた。
「なんだぁ、あの剣は?」
ルーシーが投げたのは剣だったのである。それも、一種独特の。
ストレートな部分はほぼなく、全体が反ったブレードライン。鍔はやや短いが全周に飛び出た円形のもの。ハンドルは木で紐巻きかつ底上げ用の装飾が巻き込まれている。タングはピーニング固定ではなくファスニングボルト式。
意外なほどにしなりのあるグリップを力強く握り混みながら、その独特の紋様を持つ厚いコンベックスドエッジにサワキは飲み込まれそうになった。
「か、刀!?」
存在自体に馴染みはあっても本物なぞそう拝むことはない。だが、それが凄まじいまでの切断力を持つことをサワキは本能で理解した。
(本物だ……!)
刀は『剣』の中でもかなり特異なものである。およそ剣と呼ばれるものは、叩きつけるチョップ、切っ先を滑らせるスラッシュという切り方をするものであるのだが、刀は当てて切るスライスを行うものなのである。剣にそうした技法がないわけではない、主眼の違い、万能化と特化の違いである。その中でも刀は究極のスライサーとして特化されたものなのだ(適当ですので信じないでください)。
サワキはそれを一瞬で承知した。構えや握りこそ我流そのものであるものの、この刃物の特性自体をもう得はじめたのである。
「カタナだあ?」
「そんな華奢な剣でなにができ――」
「お小手!」
金属音の後に沈黙。
サワキの一撃は盗賊の手甲をきれいさっぱり削ぎ落としていた。深ければ手首ごと落としていただろう。
一閃で数人の盗賊の士気をサワキは斬りふせたのである。




