第四話 伴出、町へ出る
「待たせたな」
周囲を探索したところ、おそらくさっきの盗賊のものと思われる野営跡があり、少量だが荷物が残されていた。
さきほど弾いたナイフを見つけたので、その荷物を加工し、ボロボロではあるがとりあえずの身なりを整えた。それでもひどいものだが、腰みのよりは幾分かマシである。また、布をまいて頭を隠すこともできた。
(どうも大げさに騒がれるようだからな、この頭……)
「この森はもうすぐ終わですから、そうしたらもう西ワガサの町ですにゃ」
「西ワガサ」
「ええ。ほら、ドブラタコガメラでおなじみのブランチワイワイのパッカイバッカイがダモスってっいうやつです」
「ああ? ああ……おなじみ?」
「ニャーはあのポブセイボブセイが『ポキッ』となった瞬間が最高にダモスだなって……ニャッハッハ! 今思い出しただけでも、これは最高のガバタタサッキーだなって! アヒーッ! 笑いすぎちゃう!」
(やっべ、思ったより言葉通じてねェ……)
伴出はよくわからない単語に適当に話をあわせながら、ときおり一人で爆笑して足が止まる猫をせかしつつまだ明るいうちに西ワガサの町までたどり着いた。
そこは町というにはずいぶんと片田舎に見えた。
家々は素朴だし、あまり件数もない。石畳は場所によってはあるもののほとんどの地面はむき出しだし、街灯にあたるらしいものは電球ではなくランタンのような不思議なものがぶら下げられた。
だが、家に隣接した真鍮を思わせる金属部品による機械はスチームパンクを思わせる技術の高さを思わせる。
ところどころ文明が発達しているというより、地球を基準にしてみるといささか歪な進化があるように見えた。
どうやら動力というものがあるようで、電力のようななにかしらへの変換と利用があるらしかった。道の露店商が熱源らしきものを使用しているし、鋳物屋が使っている窯もどことなくシステマティックなものであるからそれを予想できた。
(魔力的なやつか……)
異巫女の言っていたことを思い出す。となると賢者なるものも実在しているのだろう。
「あ……」
ふと思い出した。お金がないのである。
「まいったな」
「どうしましたにゃ」
「なにをするにも必要なものがなくてさ」
「あぁ、根性ですかにゃ」
「根性なしだって言いたいのかよ」
「それで、あのー、ニャーは町長さんのところへ行きたいと思いますにゃ」
背中に背負った物を揺らして猫がアピールする。届け物があるらしい。
「おう、それじゃここで……あ、待って。町長さんって物知りかな?」
「そうですにゃ、いろいろ知っておられるかと思いますにゃ。サワキ様も旅のことで聞きたいことがあるなら是非ご一緒しましょうにゃ」
二人で町長の家にいく道すがら町の様子を観察していると、どうやら旅人というのは珍しくないらしく、そういう者達を見かけた。
耳をすましてみると、やれなになに街道の賊がどうとか、どこどこ峠になんたら党が潜んでいるだとか、某家の残党が反撃を試みているだとか、どこか異世界らしさを感じさせる話題ばかりだが、サワキにはどこか物々しくも思えた。なにせ、この世界を旅しなければならなにのだ。
あれこれ考えているうちに目の前に大きな家が現れた。町長の家についたらしい。
「ずいぶんなお屋敷だね、これ」
さて入ろうかというところで、今歩いてきた町中の方で人々の声が聞こえてきた。
「町長さんは代々のお金持ちですにゃ。本当ならアポが必要ですけど、ニャーと一緒なら入れますにゃ」
サワキは人の声が気になって耳をすませた。
「どうしましたかにゃ? 行きましょうにゃ」
聞こえてきた声はただの声ではなかった。
――ワー――
――キャー――
その声は、助けを求める声だったのだ。
「悲鳴っ……!?」
さっき見た旅人がこちらへ逃げてきた。剣を抜いているところからして、大層危険な目にあったらしい。
「くそ、あいつらなんだ!」
「おい逃げようぜ、ありゃこの辺りで有名な盗賊だ。皆殺しにされちまうよ」
「この町の衛兵はなにしてんだよ」
「町長の家の守りに必死だよ。そうだ町長の家に入れてもらおうぜ、俺達はアシェンドの都から町長の荷物持ってきてやったんだ、恩義があるはずだぜ」
そんなことを言って旅人は町長の家へと向かっていった。
「サワキ様、ニャー達も入れてもらいましょうにゃ!」
猫の声が聞こえいるのかいないのか、サワキの足は喧騒の方へと向かいはじめた。
「サ、サワキ様?」
「ミーシャ、町長の家へ行くんだ!」
叫ぶと、サワキは駆け出した。