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第二十七話 伴出、名乗る

 町の入口からもっとも遠い位置にその塔はあった。すでに半分ほど崩れてはいるものの、それはたしかにかつては高くあって機能したものであるらしかった。

 古よりその塔はこの町を見下ろし、守ってきたのである。

 塔はその半周を崖で囲まれており、そこはルプス山に続く道になっている。

 ここで敵を迎え撃った基地であり前線でありかつての防御の要であったのだ。

 その塔はいつも戦いの途中にあって、神話の時代、勇者の時代、いつの時代もそこは物語の通過点ともなっていた。

 そしてその日もまた、伝説となるのかならないのかは知れないが避けて通れない出来事がはじまろうとしていた。いや、もうはじまっていた。


「サワキちゃん!」

 セイカが叫ぶ。

「サワキ殿!」

 ラストファイターの二人も叫ぶ。

 サワキは得意げに手を上げて見せた。

「なんだいあいつは? どこから来たんだい?」

 タトゥーを入れた女が疑問を口にする。

「ソリだね。あのソリで斜面を滑り降りて来たんだね。すごい速度だったみたいだね」

 小柄な少女がサワキの足元に転がったモノを指差す。

「······毛皮を凍らせたソリだ。極寒の地ではときおり見られる即席のシロモノだ」

 鎧男が解説を足した。

 サワキ達がセイカの弟子たちの前に急に出てきたので、イヤでも注目せざるをえない。そして警戒も。

「たまたま持ってた塩をつかって冷却速度を早めたんだ」

 サワキがドヤ顔をさらす。ムカつく顔だ。

「よくわからない白い粉をかけられたあげく服をひんむかれたときはどうしようかと思おましたにゃ」

 ルーシーは文句をたれつつもどこか嬉しそうだった。口にはしないがサワキが逃げようとしていたわけではないことがわかったからだった。

「知ってるぞ。こいつはサンジオーの客人だ」

 クラッテンハイムが興味深げにサワキを見る。

「あの武芸の指南だか教師だかで出入りしてる奴のか。大方用心棒というところなのかね。ヤツ意外はガキばかりだからねぇ」

 刺青女はヘラヘラと笑う。

「用心棒くんさ、この状況はどう見るてるんだい? 自分達が囲まれてる? それともあたし達を挟み撃ちに持ち込んだ?」

 サワキはなにかが気になるのか塔の方をじっと見ていたがゆっくりと敵の方へと向き直った。

「おい、聞いてるのかい?」

「ああ、ちょっとごめん」

 サワキがふと刺青の女に話しかけた。

「コンデイトってどっちだっけ?」

「は? あっちだけど?」

 なんのことかよくわからず刺青女は普通に答えてしまった。

「あー、ちょっとさ、よくわかんないから案内とか頼めない? お茶奢るからさ。え? てか、お姉さん暇なら一緒に遊ぼうよ」

「なんだいこいつは」

「サワキくん、どう考えてもそんな二十歳ぐらいの男がやるようなナンパでこの場はしのげませんにゃ······」

「はぁ······ちょいとあんた達無礼ってもんじゃないかい? あちらにおわすはヨモギ・セルディー夫人その人だよ? 我々は奥方様の体調のために塔の宝を検分しにきたんだ。とっととどきなよ」

 指をさす方向には輿(こし)(お神輿みたいなやつで中に人がいる。公家とかが乗ってる系のアレ)のようなものがあった。中にヨモギがいるらしい。

「これはヨモギ様のご意思である」

 クラッテンハイムが堂々と言い切った。


「 嘘 だ ッ ! ! ! 」


 でかいナタでも振り回しそうな声でパトリシアが叫んだ。


「ちょ、ちょっとパトリシア、まずいよ」

 パトリックがそわそわしながら呟く。

「もう我慢なりません! クラレンス! あなたはいったい何を企んでいるのですか!」

 フードを被ってはいるがもう声と挙動で周りにはバレバレである。特にセルディーの兵には衝撃的であり、ざわつきが広まり始めた。

「ヨモギさん、義母(かあ)さまはそのようなことは望んではおりません! すべてはあなたの独断です!」

「おやおやこれはパトリシア様にパトリック様。ヨモギ様に反旗を翻したかと思えば今度はこんなところでなにをなさってーー」

「だまらっしゃい! これがあなたの仕掛けであることはお見通しです! あなたは自分の後ろ盾になるように義母さまの生家シノファリオに迫りましたね!」

「おやおやなにをーー」

「私達がルプスの麓に潜んだのは単にあなた達を迎え討つためではありません! シノファリオと密かに連絡をとりあっていたのです!」

「そんなこーー」

「あなたはある権力をちらつかせ、無理矢理にシノファリオ公認の義母さまの後見人となりセルディーに入り込んだのです! あなたのバックにいるのは本当はシノファリオ家ではありません!」

「ちょっと聞ーー」

「あなたのバックにいるのは教会でしょう! あなたの正体が教会の密使(みつし)であることはとっくにつかんでいます!」

「え、あの、そーー」

「この際あなたの素性などはどうでもよろしい! あなたはつまりセルディーに潜り込んだ工作員、スパイだということです! そして、義母さまの体調が優れないのはあなたがなにかをしているからに他なりません! さあ今すぐ義母さまを解放し、即刻この地から出ていきなさい!!」

「あ、え、うーー」

 パトリシアの気迫に負けてクラレンスは何も言えなくなってしまっていた。

 それを冷たく見つめるのは敵側の三人である。

「おいクラレンスさん、素性がだだ漏れだぞ」

「この抜作先生が······!」

「クラレンスってデキそうな雰囲気出してるのにクッソ無能だよね」

 クラレンスは胃のあたりがキュッとした。


ーー騙したのか?ーー

ーーおい、噓だったみたいだぞーー

ーーあのソバージュ野郎スパイだってよーー


 セルディーの兵から疑惑の目線が投げかけられる。


「人を騙すなんてサイテーだぞ!オレだってお茶だと思って飲んだらしいたけからとった出汁だったことがあるんだ! しいたけめっちゃ嫌いやのに! おまえはしいたけだ! このしいたけめ!」

 サワキが叫ぶ。

「サワキくんはインタビュー・ウィズ・ヴァンパイア(1994年)が好きだと友達に言ったらこれ実質の続編だよって言ってブレイド(1998年)見せられたことがあるから嘘には敏感なんですにゃ!」

「あのお耽美(たんび)な世界がウェズリー・スナイプスに蹂躙されたときの気持ちが貴様らにわかるか!? ええ!!」


ーーそうだ! もう、おまえの言うことなんか誰が聞くか!ーー

ーーおまえなんかどっか行っちまえ!ーー

ーーかーえーれ! かーえーれ!ーー

ーーあのサワキってのはなにを言ってるんだ······?ーー

 兵からも声があがる。セイカ達はそれをどこか満足そうに見つめていた。


「おのれ······貴様、一体何者だ!」

 クラレンスが悔しそうにサワキに聞いた。


「悪党に名乗る名前などない! オレは······沢木(さわき)伴出(ばんで)だ!」


「あるのかないのかどっちですかにゃ」

 ルーシーはズッコケた。

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