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ある日の異常

コンコンコンコンッ

軽やかに4回のノックをした僕は、一呼吸置いて返事が無いことを確認すると、生徒会室のドアを開けた。

果たして・・・そこで僕が目にした光景は、我らが生徒会長と書記が互いの紅い唇を貪りあっている光景だった。うむ、眼福眼福。


・・・常々疑問に思っていたのだが、高校生の女子ともなると、必需品ともいえるリップクリーム。

あんなのを塗った上での口腔粘膜の接触には、皆、違和感を覚えないのだろうか?


色々と味やら香りやらと凝ってはいるが、結局は化粧品にカテゴライズされる物体である。

あんなの飲み込んだりしたら・・・単純にヤバくないか、と。


こんな益体もないことを考えている間にも、当然時間というものは平等に過ぎていくワケで、あちらさんもこちらに気付いた様子。


駄菓子菓子、もといだがしかし、僕は僕で、自分の世界に入ってしまった。

そう、化粧品、中でもリップクリームというものの存在について思いを馳せていた僕は、結局のところ、目の前の現実から逃避しているだけなのだ。


闘わなければ。目の前の現実と。

腹を括った僕は、先ほどよりも心なしか激しく求め合う二人に声をかけた。


「あの、せめて人のこないところでそういうのはやって欲しいんですけど・・・。

 というか何で見られて余計に激しくなってるんですか?」


僕の至極真っ当な発言に対し、我らが生徒会長様はきょとんとした顔をして、すぐにまるでダメな弟を優しく諭す姉のような笑みを浮かべて言った。


「見られながらの方が燃えるじゃない。それに確かに見られちゃったのは予想外だけど、保(たもつ)ちゃんだったら報告する勇気なんてないでしょ?」


僕に対する不当な評価について抗議したいところなのだが・・・残念ながら!まことにもって残念ながら!

彼女の言うとおり、この深町(ふかまち)保にはそのような度胸など、欠片も存在しない。

つまり不当な評価ではないのである。


それでも何かを言わなければ、と思い口を開こうとした僕の前に、女性にしては、というか男性と比べてもかなり大きい手が、手のひらをこちらに向けて出された。

これは、いわゆる黙れというボディランゲージか?


正直あのままだったら何を言ってもろくな結果にはならなかっただろうから、若干その手の持ち主に感謝の気持ちが芽生えてくる。

まあそれも僕を黙らせた、その手の持ち主の言葉を聞くまでは、だけど。


「・・・見られるだけじゃなくて、彼も入れて3人で楽しんだほうが皆幸せ・・・。」


耳を疑った。このお姉さまはいったい何を言っているのか。

知らない間に日本語の意味が変わったんじゃないのか。


いや、そもそも僕が日本語だと認識しているものは、実はほかの人たちには、アッパッパー!グニョルニョル!とかに聞こえていて、しかもそれで言語として成立しているのではないか。

そして偶然にもそれらの認識のズレを何かの拍子で知覚してしまった僕は、これまた偶然にも、普段僕が認識している日本語に極めて近い形式のものを聞いているだけとか?

いや、あるいは・・・「保ちゃん?」・・・ハッ!?いかん、また思考の迷路に入り込んでしまったか!


「保ちゃんったらまた考え込んでたのね?今回はけっこうマジメな顔してたから・・・Hな妄想じゃないのかな。」


会長様が僕のキャラをどう認識してるのか、本気で知りたくなってきました。


「・・・菫(すみれ)ちゃん、続き、しよ?」


このお姉さまはホント、ブレねえな!?

そして続けるのか!? けしからん、もっとやれ!


「あわてないで、栞(しおり)ちゃん。先に用事をすましちゃうわ。彼に説明するだけだからすぐ終わるわよ。」


なんの説明だろう。そして続きをすることは決定事項なのですね。

・・・ハッ!まさか説明というのは18歳以下は禁止な小説でよくある、生徒会の裏の活動とかについての説明!?

ならばさっきのは実際に見せたほうが早いから、というデモンストレーションの練習中だったとか!

そうだそうに違いないむしろそれ以外考えられないさあ後でと言わず今すぐこの僕の純潔を先輩達に捧げさせて下さい


・・・落ち着け、冷静になれ。そんなわけ無いだろう。

少なくともこの人達に限って、そういう不特定多数とのけしからん行為はしないはずだ。


だって少人数だったら勝手に家で盛ってたらいいワケだし。

教師に脅されてってのもウチの学校じゃまずありえない。


校長とかアレ、たぶんその辺で転んだだけで旅立っちゃうんじゃね?

体育教師も女よりスポーツ!な38歳独身マッチョメンだし。


プールの水を抜くのを止めるよう、職員会議でマジ泣きして訴えていたという情報もある。

この情報は僕の担任の椿ちゃん24歳独身からもたらされた。マジメなのに口が滑りやすいドジッ娘だ。


まあつまるところ、アレな小説で暗躍する役職の方々は総じて残念な方々である。

しょせんは裏生徒会なんて存在するわけないのだ。嗚呼、無常。


「・・・用事が終わったら、3人で仲良くなろ?ね?」


僕がお得意の高速思考(妄想)でこの問題に決着をつけたころ、再び僕に裏生徒会の存在を仄めかす一言が発せられた。

しかし残念だったな、先輩!既にこちらは答えを得ているのだよ!


何に対してかは不明だが、勝利を確信した僕のドヤ顔に、不思議そうに視線を向ける秋山(あきやま)栞先輩。

180センチもあるのに小動物的なオーラを発する侮れない先輩だ。


彼女のかろうじて聞き取れるくらいの声は、いつもストレートかつブッ飛んでいる。

たぶんこの人声が大きかったら社会的に死んでるな。


「じゃあ用件だけ言うわね。保ちゃん、貴方生徒会補欠から生徒会庶務代理心得見習いに昇進よ。」


どう?嬉しいでしょ?とでも言いたげな様子で花が咲いたかのような笑みを浮かべる桜木(さくらぎ)菫先輩。生徒会長だ。

桜なのか菫なのかはっきりして欲しい。

以前そう告げたら、あらあらうふふとうっとりする笑みを浮かべ、結果、僕はPCに記録されている議事録を1年分手書きで書類におこす羽目になった。


普段は一応理解できることを言うので油断していたが、今回のコレはさっぱり意味がわからない。

やはり先ほど考察していた通り、人間の認識の深遠に僕は足を踏み入れてしまったのだ。


そして僕は周囲との会話の違和感に、初めは受け入れようと努力するものの、次第に耐え切れなくなっていき、ついには精神を病んで発狂してしまうのだ。

・・・ああ、周りの言葉が変わっていっても、お前は、お前だけは変わらずに白いままだ。そのことがとても、嬉しい。

・・・精神病棟の最深部に位置する個室で、僕は自らが仕える王国の王女に懸想してしまった騎士が、あらゆる困難を乗り越えた末にようやく許された想い人への愛の言葉を紡ぐように病院の白い壁に囁いた・・・


「・・・僕自身の感覚がどんなに狂おうとも。感じる世界がどんなに不条理でも。変わらぬお前は穢れ無き新雪のように麗しい!」


「・・・うん、まだ私は乙女だよ?でもごめんね。私のはじめては菫ちゃんにあげるから。ね、菫ちゃん?」


・・・アレ?

しまった!いつに無く悲劇的な妄想だったからか、うっかり声に出してしまった!?

そしていらんカミングアウトも聞いてしまった!

どうすればいいんだ!主にカミングアウトのところ!


「保ちゃん、貴方生徒会補欠から生徒会庶務代理心得見習いに昇進よ。大事なことだし、聞いてなさそうだったから2回言いました。」


それは昇進したのだろうか。むしろ降格されている気がしないでもない。

しかし人差し指を立てて、片目を瞑り、メッていうポーズをされると胸がキュンキュンします。


そしてそれ以上にスルーされて涙目の栞先輩がかわいらしいです。

保護欲が湧いてきます。ちょっと頭、撫でてもいいですか?


「うん・・・いい、よ・・・グス。」


可愛いなあもう。なでなで なでなで

うわぁ・・・先輩の髪さらさらナリィ・・・




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